09
冬休みもあっという間に終わってまた俺達は高校に通っていた。
わかりやすく気温が変わったとかそういうことでもないが本能が休みたがっているのか席に張り付くことでなんとかしている状態だった。
「いて、なんで俺は攻撃されたんだ?」
いきなり正面に現れたかと思えば攻撃とは自由にしてくれるものだ。
刀根はそれには答えずに目を閉じて更に腕を組んでから「こ、この前のやつは瑚子が勝手に送っただけだからな」とぶつけてきた。
「これか?」
「だ、出したりするな、自分大好き人間みたいに見えてしまうだろ」
「まあ、どうせなら驚いたような写真よりも笑っている写真とかの方がいいよな」
「も、求めているのか?」
「どちらかならの話だ」
あとは無理やり撮られたものではなくて自分の意思で送ってこられたやつの方がいい。
まあ、まずそんなことはしないだろうからそんな物は延々にきたりはしないが。
「あと涼二はもう少しぐらい慌ててくれよ、なんでもかんでも冷静に返せばいいわけじゃないんだぞ?」
「本来なら兄が独占するよりも友達が独占的なことをした方が問題がないからな」
「でも、中途半端にはやらないだろ」
「まあな、そんなことをするぐらいなら離れてしまった方がいい」
妹に対するそれはもうちゃんと変えてあるから安心してくれていい。
悲しませるようなことはしない、それだけは断言することができる。
「あ、あと、瑚子とどうなると私や須磨先輩のことも忘れないでくれ」
「忘れないよ」
「それならいいんだ、さてその須磨先輩のところにでもいってくるかな」
席に張り付いている間も一回も来たりはしなかったが異性の彼女がいけば相手をしてもらえるだろう。
自分からいかないで求めすぎるのは勝手だからその後も期待はせずにずっと教室で過ごした。
とはいえ、流石に放課後になったら行動しなければならないので珍しく俺の方から妹の教室にいく、どうやらあの女子友達三人と盛り上がっているみたいだったから声はかけずに学校をあとにした。
「ちょっとお兄、見に来たのに話しかけもせずに帰るのはなしだよ」
こちらが見ているときは向こうも見ているということで逆効果だったわけだが。
「よかったのか?」
「うん、今度遊ぼうって話をしていただけだから」
「なら帰ってもいいし、どこかに寄りたいならそこにいけばいい」
小遣いをちゃんと貯めてあるから金を使うことになっても空気が読めない存在になることはない。
「んー早くご飯を作ってお部屋でゆっくりお喋りがしたいな」
「わかった」
これは妹のため云々よりもどうせ暇しているのならお前も動けよと刺されないように動いた形になる。
「もうちょっとで二年生だ、お兄は三年生だね」
「だな」
「来年のいま頃はつまらなくなっているだろうな、だってお兄も綾乃ももう卒業することになっちゃうんだから」
まだ早い話でも誰にとっても当たり前の話だから想像はできる。
特にこれといった思い出もないものの、嫌な思い出なんかもないだろうからきっといい気分で卒業することができることだろう。
「俺はともかく刀根とは大学生や社会人になってからも一緒にいられるようにちゃんと仲良くしておいた方がいいぞ」
「そうだね、お友達になったからにはずっとその関係でいたいからね」
あとは勉もそうだ、向こうがどうかはわからなくても一緒にいたいという気持ちは強い。
「でも、自分を除こうとすることは気に入らないけどね」
「あ、俺の話か」
「うん、だって昔から一番仲良くしたいのはお兄だもん」
「あれだ、俺とはいつでもこの家で会えるからだ」
「本当にそれだけ? そうならいいんだけどね」
一人暮らしをするつもりなんて全くないし、意識をしてそういう話から避けようとしているわけでもないから勘違いをしないでほしい。
「あのね、綾乃の前でだけはお兄ちゃんって呼んでいるんだ」
「それは知っているぞ」
前に刀根が吐いていたから。
そのときもいまも感じていることはやはりあいつとかではなくてよかったということだ。
「あ、そうなんだ。それでね? 綾乃から『お兄ちゃんって呼べばいいだろ』って言われたんだけど、私はただのお兄ちゃんとして見ているわけじゃないからそれもどうなんだろうって悩んでいたんだ」
「そこは好きにしてくれればいい」
「じゃあ……りょ、涼二」
「はは、呼び捨てか、それもまた新鮮だな」
発言しつつ俺と関わってくれている人はみんな涼二と呼び捨てだから新鮮さもないはずなんだがなんだこれは、妹にそう呼ばれているのがやはり違うのか?
「涼二君? 涼二ちゃん?」
「なんでもいいぞ」
「もっと考えてみるね」
どう呼ぶかでそこまで真剣になれることが面白い。
好きにしろと言ったのもあって考えた結果、変な呼び方になるかもしれない可能性が出てきて不安になってきた。
でも、これも刺されないためにも受け入れるしかないからただ待つことしかできなかった。
「私、決めたよ、涼二君って呼ぶね」
「おう、凄く時間がかかったな」
あれから一ヵ月ぐらいが経過してもうバレンタインデー当日となっている。
毎年必ずくれていたわけではないからそう期待もしていなかったが名前呼びの件で前に進めたことがよかったのか今年はくれるみたいだった。
「あとは……二人きりの時間が欲しいかな」
「いまこの瞬間は違うのか?」
ここは家で、そのうえで部屋にいるから他の誰も来ない場所。
そもそもの話としてその前に俺と妹しかいない時間だから部屋でもリビングでもなにかが変わったりはしないんだ。
「お、確かに」
「お、おう」
名前の件で考えていた……? 間だって普通に会話はできていたから俺としては特に変わった感じはしない。
あっちのことだって妹が踏み込んでこなければどうにもならない話だから待つことしかできないんだ。
母にも確認をして自分も求められたら受け入れるという考えでいるんなら自分から動けよともなりそうでなっていなかった。
「私ね、六年生の頃から涼二君のことが好きなの」
「六年生か、それこそ前にも出たようにその頃にはもう手を繋いで登校はしていなかったよな?」
六年生――小学生だからこそいまの俺よりもわかりやすく妹のために動けたわけでもないからこれだというエピソードが出てこない。
「それは自覚しちゃったからだよ、だから手を繋ぎたいって私から言わなくなったでしょ?」
「そういうことだったのか。それできっかけは?」
ずっといてくれたからとかだろうが少しは格好いい俺が過去にだけでも存在していてほしい。
「夜遅い時間だったのに迎えに来てくれたから」
「んー……瑚子を迎えにいったことなんて何回もあるからどれかわからないな、それこそ夜にだってそんなことを繰り返したことがあるし……」
友達の家から帰ってこないから迎えにいってきて、どこにいるのかわからないから探してきて、母に頼まれて出たことなら何回もある。
まあ、いってきてと言いつつ流石に子どもだけでは不味いと思っていたのか母も付いてきてくれていたわけで、つまりそういう行動をしたときには俺単身ではなかったことになる。
母だって心配をして自分を探してくれているのにそこにいる兄なら誰でもやるであろう行動しかしていない俺を気に入ったりするだろうか?
「その迎えに来てくれた人ってやつは俺じゃないみたいな……勘違いじゃないか?」
「お祭りのときに涼二君だけで迎えに来てくれたよ」
祭りねえ、ほぼ毎年のようにそのときだけは別行動をしていたからやはりピンとこない。
「涼二君が『大丈夫だ』って言ってくれて格好いいと思って……なんかそれからはただのお兄ちゃんとして見られなくなっちゃったぐらいなのに本当に忘れちゃったの?」
「悪い、ただそれなら何回もしてきたからな。ほら、小学校の卒業式のときとか、中学校に入学するときとか、もうその頃から髪を意識して整えていたからあんまり触るべきじゃないと思ったけど頭を撫でつつさ」
それをやりつつイケメン兄貴だったらと何度考えたことか。
結局多少はマシになっただけで妹の顔は明るい方向に変わっていたりはしなかった。
可愛い系でもいいんだ、だからあのとき必要な存在だったのはまだ出会っていかったとはいえ勉の方だったんだ。
「涼二君はどうせその全てを兄としてやってくれていたんでしょ?」
「そりゃそうだ、寧ろそれ以外の感情からやっていたら怖いだろ?」
「なのにお母さんにはあんなことを言えちゃうんだ」
「聞いていたのか? ま、瑚子が踏み込んでくるにしろそうではないにしろそういう話が出たということはちゃんと知らせておかなければならないからな。あとは勇気を出して踏み込んできたときに障害にならないように先に動いておく必要があったんだ」
俺なりに戦うつもりだったのにあっさりと許可が出てしまって拍子抜けだった。
まあでも、これで後は本人次第だと楽だったのも確かなことだ。
「……な、なにかないの? こう……私のことを女の子として見ちゃったときとか……」
「それなら水着を着ていたときぐらいか、やっぱり普段とは全く違うわけだからな」
俺も無駄な肉はないつもりだが細いのがすごい、普段はちゃんと食べているのに管理をしっかりできているのはいいことだった。
「がーん……私って魅力がないんだ」
「浴衣を着ていたときとかは大人っぽいとは思ったぞ?」
「それもどうせ今年の夏に綾乃が浴衣を着てきたら完敗だよね……」
そんな先のことを言われてもな、とも言いづらい感じだ。
なんたって小さいことで一ヵ月が飛んでいってしまったから、いまの俺的にはもう意識を変えているからなにもなさすぎるのもそれはそれで問題だった。
「というかさ、その前に返事は?」
「……ま、また今度にしないか? いまそのまま答えたら雰囲気だって大してよくないだろ?」
「逃げた――なんてね、うん、今度ちゃんと聞かせてね」
ホワイトデーまでにはなんとかする。
それもちゃんと本人に伝えてとりあえずはこの話を終わりにしてもらったのだった。




