08
「手を繋ぎたい」
「おう」
いやおう、ではない。
独占したい発言といいなにかが変わってきてしまっているみたいだった。
でも、別に嫌ではないから言うことを聞いて手を繋いでみるとなんか懐かしい気持ちになったのが現状だ。
「なんか懐かしいね、昔はよくこうして歩いていたよね」
「俺もいま思い出したわ」
流石に小学校高学年ぐらいになったときぐらいにはなくなったが小さい頃にはよくしていた。
一人で歩かせていると考え事をしているからなのかふらふらしていたからやらないと危なかったのが理由だったが。
「だけど中学に上がる頃にはこういうこともなくなって寂しかった、中学生の頃は仲良くできていなかったとかそういうことはなかったけどさ」
「俺らはずっと仲良し兄妹だって言われてきたからな」
最近はあまり言ってこなくなったものの、大体は母から言われていた。
とはいえ、単体のときはよく「妹さんと似ていない」と言われていたから矛盾した発言でもある。
「お家では違うなんてこともないから堂々とできたよね」
「ああ、ただもし家では違っていたとしてもいちいち気にする必要なんかはないけどな」
「ううん、その場合は駄目だよ、だって無駄に嘘をつきたくはないからね」
そうか、誰だって無駄に嘘はつきたくないか。
いちいち聞かれていちいちあーと悩むのも面倒くさいからその場合は正直なところを吐いてしまった方がいい。
「またこうやって登校したいな」
「いや、どこかに出かけているときならいいけど登校中は諦めてくれ」
「ふふ、やった」
ああ、これから先も自由にやられるところが容易に想像できてしまうのがなんとも言えない気持ちになる。
ただ? これ以上のラインを超えないのであれば俺的には大歓迎だ。
なにもそこら辺にいそうな兄を選ばなくてもいい、格好いい男子や可愛い男子なんていくらでもいるのだからそちらに意識を向ければいいのだ。
これはただ妹として兄に甘えているだけ、絶対にそうだ。
「うん、もう大丈夫そう。これ以上は勉君よりも綾乃が可哀想だから戻ろう」
「おう」
なんかそうしたい気分だったから朝ご飯作りはやらせてもらうことにした。
作り終えても出てこない勉を無理やり引っ張ってきて食べさせた、それでもまだ眠たそうでなんでだ? と考える。
だって一緒の部屋にいた俺がさっさと寝てしまったわけだからスマホを弄る趣味もない勉だって似たようにしたはずだからだ。
「んー……涼二の寝顔を見ていたら寝られなくなっちゃってね」
変な顔か、怖い顔か、意外と影響を受けやすいタイプだからどちらであっても変わらない可能性はある。
「あとね、涼二のことが好きな女の子なら無防備に寝ているところにキスをしていたんだろうなあって妄想が捗ったんだ」
「したいんだとしても起きているときにしてほしいな」
「じゃあやるね」
テンションがおかしいから止めておいた。
「ま、正直なところを言うと盛り上がり足りなかったんだよ、涼二が喋りかけないと話してくれなかったのも影響しているよ」
「あーそれは悪い、瑚子とまともに話せなくて気になっていたんだ」
「でも、その瑚子ちゃんとさっきは歩いてきたんでしょ? だから喧嘩とかじゃないよね」
喧嘩どころか本人は強く俺を求めていたみたいだが。
大人の対応をしてくれてよかったと思う、あの場でぶつけられていてもどうしたって優先はできないから間違いなく悪くなっていた。
「ああ、なんかあのときは腹が痛かったみたいでさ」
「友達がいたらトイレにこもってばかりもいられないもんね」
「そうだな」
嘘をつくことになってしまったがなんでもかんでも吐けばいいわけではないからこれでいい。
あとはしゃっきりしてくれたことが大きいな。
「刀根さーん?」
「……家に帰りたくない、私はまだまだここにいるぞぉ」
妹がソファに寝転んでいなかったのは刀根がくっついていたからだ。
勉は「僕だってまだ帰りたくないからここにずっと張り付いていよう」とその言葉に乗っかっていた。
でも、別に追い出そうとはしていないからよくわからない発言だった。
「追い出したりなんかはしないぞ」
「そうだよ、まだ朝ご飯を食べたばかりなんだからいられるならいてよ」
「二人は優しいな、だけど私の母さんはそれを許してくれる人じゃないんだ」
本人がそのつもりでも親が止めてきているなら俺達は言うことを聞くしかない。
「あー親の言うことは聞いておいた方がいいよ、そうじゃないとただ遊ぶことすら許してくれなくなるんだ」
「一時期は酷かったよな」
テストで八十点を取れなかったから駄目とかなんとかで学校以外のときは一緒にいられなかったことがある。
当然、テストの結果で引っかかっているならテストで結果を出さなければならないわけだから中間から期末が終わるまでは無理だった。
「うん、涼二や瑚子ちゃんと遊べなくて退屈だったよ、あれからは気を付けているから遊べないなんてことにはなっていないけどね」
「偉い、テスト勉強も一人で頑張るもんな」
「だってそうでもしないと二人とお喋りばかりをしてまた悪い点数を取っちゃうからね」
実際は三人で集まっても俺らが喋っていて勉は真面目にやっていた。
だからこれは合っているようで合っていない、邪魔にしかなっていなかったわけだからそういうことにして離れてくれるのはマシかもしれない。
我慢をさせているということだからあまりいいことではないが……なにもわからずに近づくよりは遥かにいいはずだった。
「さて、これから手を繋ぐ度に十円を払うからどこでもやらせてね」
そこまでしてやりたいことか……? あと本人が言っているからと本当に十円を受け取っていたら嫌な兄にしか見えないからしたければすればいいと言っておいた。
「あ、それなら頭を撫でてもらいたいな」
「まあ、俺からは無理だけど求められたらするよ」
「だ、抱きしめることも?」
「待て待て、なんか最近はおかしくないか?」
「私、いままでも同じようにしてきていたと思うけど」
ないない、それはない。
確かに「お兄」とすぐに来てくれる存在ではあったがここまでアピールはしてきていなかった。
というか、前にも言ったように言葉で刺してきていたぐらいなのになにで変わってしまったのか。
「誰かに自由にやられて上書きしたいとかじゃないよな……?」
「え、そんなのないよ。というか私、同級生の男の子からブラコン女って言われているぐらいなんだけど」
え、いや、一応言っておくが妹の教室に突撃したことはほとんどない、話すにしてもこの階でだから何度も何度も見られているわけではないはずだが……。
「いやいや、俺達といるとき以外で表に出しているわけじゃないだろ?」
それなのに知られていたとしたらその男子達がやばいということだ。
「んー女の子のお友達と話すときにお兄のことを頻繁に出しているぐらいかな」
「その子達は興味ないだろ……」
「え、意外と興味を持ってくれているよ? 今度ゆっくり話してみたいって言っていたぐらいだから」
怖いからなるべく見つからないところで大人しくしておくことにしよう、なんてな。
実際には社交辞令、そんなことにはならないから無駄に怖がる必要なんかはない。
あれだ、簡単に興味を持たれる人間だったら妹とこうはなっていないということだ。
とりあえず家に着いて着替えるために部屋にいったから夜ご飯作りを始めた。
んで、まあ特に変わりない時間を過ごして妹が風呂にいっているときに母に話してみた結果が、
「それならそれでいいんじゃない?」
これだ。
「私としては連れてきてくれるかどうかわからない男の子より絶対にこの家に帰ってくる涼二だと安心できていいけどね」
「兄妹だぞ」
そうわかっているのに断ったりしていない時点で話にならないわけだが。
自分だけでは止められそうになかったからこそ強制することができる母、というか両親になんとかしてもらいたかったわけだが駄目そうだ。
「じゃあ嫌なの?」
「俺がどうこうじゃなくて普通は止めるところなんじゃないのか?」
「そんなのいいよ、本当に好きな相手と幸せになってほしいからね」
親としてはそうか。
「子どもとか見られなくなるんだぞ?」
「それでもだよ。まああれだよ、止めたりしたら酷いことになりそうだからだよ」
「自棄になるってことか?」
「うん、だって瑚子は極端なところがあるからね」
そういうスタンスはいまでも変わっていない。
しかも親を使って断ったということを知られてしまったらそれこそおしまいだ。
そもそもの話として、妹のことを考えて色々と言っているだけで俺としたら、なあ?
いまの妹からしたら妹のことを考えて云々の発言は全て逆効果にしかならないのもわかっている。
だって本当に自分のことを考えてくれているのなら受け入れているはず、という話になる。
「無理やり引き離したばかりに知らない人とやっちゃって赤ちゃんができちゃった~なんて話も聞いたことがあるからね」
「た、確かにそういう話を聞いたことがあるけど瑚子がそこまでするとは――」
「いつも通りならね、だけどマイナスの状態のときは怖いんだよ。私も一回、お父さんとお付き合いをする前にそういう時期があって危ない状態になったことがあるから尚更ね」
初めて聞いた……って、当たり前か。
「だ、大丈夫だったのか?」
「うん、お父さんがギリギリのところで助けてくれたんだ」
「それで惚れたってことか」
「だって格好よかったもん、ダークな感じだったからこそその光が眩しくてね」
母の惚気話を一人で聞き続ける自信はないからここで終わらせておくことにした。
妹がどんな感じで踏み込んでこようとこの親には既に話をしてあるという状態が助けになる。
なにもないならなにもないでそれが妹的に、そして俺的に一番ではあるが……。
「ただいまー」
「おかえり。さあ、涼二も早く済ませちゃって」
「おう」
まあ、求められたらそのときはそのときだ。
だからそうテンションも変わっていなかった。
「――ということがあったのです」
「えぇ、それは聞いちゃ駄目なことだろ」
涼二だってその一回で終わらせようとしていたわけではないだろうがよくやるな。
仮に瑚子が私の妹だとして、好きだとしても母にぶつかろうという勇気は全くない。
「でも、私とお兄ちゃんのことだよ?」
「それ、なんで私と二人だとお兄ちゃん呼びにするんだ? もう名前で呼べばいいじゃないか」
いい加減、このことを涼二に教えてやりたいところだ。
兄のことが好きすぎる彼女とは違って大袈裟な反応を見せたりはしないだろうがなんかむず痒くなってくるんだ。
それこそこんなのは常に惚気られているのと変わらないんだ。
「そ、それは……綾乃が可哀想だし?」
「はあ? あー確かに涼二はいい男だけど瑚子がいるから無理だよ、私は須磨先輩とでも仲良くしておくわ」
「その話詳しく!」
「別に恋的な話じゃない」
ただあの人も振り向いてもらえなかった可哀想な人だからな。
わ、私の中には大してなくても共通の話題で盛り上がれるのはいいことだろう。
「うーん……綾乃になら先っちょぐらいはあげてもいいよ?」
「勝手に兄をあげようとするなよ」
「手、手ぐらいならさ、抱きしめるとかはちょっと……」
「ちゃんと向き合ってくれようとしているんだ、だから瑚子は涼二に集中しておけばいいんだよ」
なんか慣れない話をして腹が減った。
そういうのもあって今日は家に帰さずに私が瑚子を独占することにした。
少しからかってやりたくなって羨ましいだろと送ってみたら『それで刀根も楽しめるならいいよ、瑚子のことを頼む』と大人の対応をされて突っ伏す羽目になったが。
「涼二って奴は昔からこうなのか……?」
「うん、ちゃんと相手のことも考えてくれるよ」
「で、好きになったのは瑚子だけと?」
「んーどうなんだろうね、ただお兄ちゃんのそういう話は全く聞いたことがないからね」
なにかがあっても隠している、なんてわけでもないんだろうなあ。
まああれだ、彼女の気持ちを知ったいまとなってはそういう人間がいない方が好都合ではある。
その場合でも友達の彼女を応援するんだとしても候補が多くいれば誰かは選ばれないわけだから、それなら他に誰もいない方がいい。
ただなあ、知っているとなんでって言いたくなる自分もいるんだよなあ、と。
「なにか食べよう」
「それなら私が作るよ」
「お、じゃあ頼むわ」
できないこともないが邪魔にしかならなさそうだからここで大人しくしておくか。
試しでまた似たようなメッセージを送ってみたら『美味しいから羨ましいな』と返されて敗北。
なんだこいつは、そこはいつものように真顔で『いつも食べているからな』とか返してくれればいいものを、いやまあ……顔は見えていないが。
先程まであったそれもどこかに吹き飛んでなんとかして慌てさせたい気持ちが強くなった、ただその気持ち程度でなんとかできるんならこうはなっていないわけだ。
「もースマホばっかり弄っていないで食べようよー」
「ちょ、ちょっと待て、あともう少しで涼二を攻略できるはずなんだ」
「お兄ちゃんを攻略したいなら写真でも送ればいいよ、はいパシャリと」
「ま、待て、それ私しか写っていないんだけど」
「それはそうでしょ。はい、送っておいたからね」
ぎゃあっ、な、なんてことをしてくれたのか!
慌てて見てみたら向こうも見ていて『刀根だな』と。
死ぬ、これは死ぬ……。
「はい、スマホはもうやめにしてご飯を食べましょうね」
「お、おう――あ、これを食べ終えたらやっぱりあっちにいかないか?」
「それでもいいよ。いただきます」
「ああ、いただきますだ」
うん、美味い。
ただそう感じるのと同時にいつもこれを食べられるのはずるいと思った。
そうだ、涼二はずるいんだ、なのにあくまでいつも通りでむかつく。
だからやっぱりあっちにいって一言言ってやらないといけなかった。




