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「あかん」
「なにが?」
「おわ、母さんか。いやー実はまだ返事をすることができていなくてな」
わかったと受け入れてやればいいのにそれをしないでいるのは正直アレだ。
そのつもりはないが言葉で刺されるどころか物理的に刺されてもおかしくはないことをしている気がする。
「告白の話か、だけど教えてもらってからまだ三日しか経過していないよ?」
「そうなんだけど……」
妹――瑚子がじっと見てきているだけで圧というか。
実際は違うことを俺にしてもらいたいからだとしてもこちらは引っかかったままだからどうしようもない。
かといって勢いで返事だけはしてほしくないという難しさがある。
「それにね、いまだって瑚子はそこにいるんだよ?」
「は?」
いやマジかよ。
しかも当然のように横まで来て「別に圧なんかかけていないよ?」とこちらの考えていることがわかっているような感じで言ってきた。
「じゃ、お母さんはお買い物にいってくるからね」
「待った、俺もいって荷物持ちをする」
「じゃあみんなでいこう、お母さんもそれでいいよね?」
「うん、二人がいいなら私はそれでいいけど」
いまはこうしてなにかをしているときが一番楽だ。
あと、こちらが勝手に悪い方に考えているだけで別に圧をかけてくるわけでもないから瑚子とも楽しく話せる。
「今日も寒いねー」
「あともうちょっとの我慢だよ、そうすれば春になって暖かくなるからね」
「だけど今度は眠たくなりそう、午後の授業とか負けそうになるんだよ」
「お母さんは先生にバレないように寝ていたよ、眠たいときはしょうがないんだよ」
真剣な顔でなにを言っているのか。
「ちょっとお友達がいたから話してきていい? あっ、一緒に過ごすと長々とお喋りをして迷惑をかけちゃうかもしれないからここからは別行動をしよう!」
「お母さん、そうやって空気を読もうとしなくても――いっちゃった」
まあ、友達に関しては本当だったみたいでにこにこ楽しそうだから今度はこちらが邪魔をすることができなくなった。
元々誰かといるときに参加しようとする人間でもないからどこかにいくのがいいと思う。
「結局荷物も持っていったからここにいても意味がないな」
「このまま帰るとかなしだからね、どこかにいこう」
「じゃあ付いていくから頼む」
それでも金を使いたいほどのなにかが見つかることもなかったのか割とすぐのところで足を止めて「どうしよう?」と聞いてきた。
「家に帰るか? 俺らは部屋でゆっくり喋っているぐらいがお似合いだろ」
「そうだね――あ」
「まあ、たまには俺からしないとな」
手を握るぐらいだったら俺にもできる。
抱きしめるとかはもう完全に彼女に任せるしかない、そればかりは諦めてもらうしかない。
「ふふ、なんか握り方が優しいね?」
「そりゃそうだ、相手の手を傷つけてしまうぐらいならしない方がいいからな」
「マイナス三十点……」
ついでにそのまま朝からどうだったのかを評価してくれて合計でマイナス百三十点となった。
つまり先程の発言云々よりも酷い行為があったということだ、直接ぶつけたわけではないが顔に出ていたのが駄目だったのかもしれない。
「あ、ちょっと待って? ふふ、おかえり」
「ただいま?」
これはもう完全にバカップルに負けないぐらいのそれだ。
「お家を借りて二人で暮らすようになったらいつもこうなるんだよね」
「母さんが寂しがるからここでいいだろ?」
そもそもそれを実現させるには高校を卒業して社会人として働き出してそこそこの時間が経過しなければ無理だ。
俺としてはやるつもりもないが彼女がどうしてもと言うなら聞かなければならない、が、それでも両親に協力をしてもらうわけにはいかないからな。
「確かに、そもそも違うところにいこうとしたらお母さんならどこまでも付いてきそう」
「でも、そうやって興味を持ってくれていることは普通にいいことだから強くも言えないよな」
「うん、話しかけてこなくなったりしたら泣く自信があるよ」
俺は……泣きこそしないものの、物足りなさは感じるだろうな。
彼女と同じようにからかってきていたりしたことを懐かしく感じて、それでももう一度同じようにしてくれとは言えずにそのまま過ごすことになっていたと思う。
「ほー意外と私って好かれているんだね」
「ま、扉の音が聞こえてきていたからそんなんだと思っていたけど母さんはそういうのばかりだな」
「だって二人のことなら知りたいからね、だけど空気も読める人間でもあるからお部屋でゆっくりすることにします」
おい……なんかこれこそ圧をかけられていないか?
瑚子は呑気な感じで「またいっちゃったね」なんて言っているが母からは真っすぐに伝わってきたというか……。
「あー瑚子、ちょっといいか?」
「うん、私ならここにいるから安心していいよ?」
それは助かる、本人にそのつもりはなくてもいざ実際に動こうとしたときに距離を作られていたら邪推してしまうから。
「そろそろ返事をしようと思ってな」
「お母さんはそのつもりだけど慌てなくていいんだよ?」
「いやだってあんなことを言っておきながらずるいだろ? それに受け入れる前提でいるのに時間をかけるだけ馬鹿だと考え直してな」
「そっか、じゃあお願い」
なんかごちゃごちゃ足すのもださいから受け入れるとだけ言っておいた。
先程と同じで「ちょっとあれだけどありがとう」と少しだけ微妙そうな顔をしていたがこれで変わったことになる。
「おめでとー」
「「うん、見ていたのはわかっていたよ」」
「だってそのために出ていったわけだからね、普通に談笑されていたら私は廊下で一人固まる羽目になっていたことだろうね」
そのまま瑚子に抱き着いてちらちらこちらを見てきている母がいるが乗っかったら負けだからソファに座り直すことにした。
「そういえば最近はここで寝転ぶことも少なくなったな」
「うん、やっぱりみんなが座るところだから邪魔をしたくなくて――」
「瑚子はね、ここで寝転んでいると大好きなお兄ちゃんが何回も来るからドキドキしちゃってゆっくりできなかったんだって」
「もうお母さんっ」
それ以外のときは普通に対応をしてくれていたからこれも母が盛って話をしているだけだろうな。
あれだ、どうにかして自分も参加したいんだろう。
「えーだってどうすればいいのかって相談をしてくれたでしょー?」
「涼二君、勉君や綾乃に教えるためにもまた外にいこうよ!」
「それならお母さんも付いていっちゃう」
「……付いてきてもいいけどいまみたいに変なことを言ったりするのはやめてよね」
「うん、約束するよ」
まあ、ラインの見極めはできる人だからそう不安になる必要もない。
あとは学校のときでいいと思うがいきたいと言うのなら付いていくだけだ。
途中、二人ばかりが盛り上がっていたうえにそこに更に二人が加わって仲間外れ感がすごかったが帰ったりはしなかった。
ただ? 最近は難しい顔をしていることも多かった瑚子が笑顔ばっかりだったのは普通にいいことだった。




