宝玉会議再び
その夜、宝玉会議の時間が来た。
横になり、目を閉じる。
意識が、純白の空間へ引き込まれる。
今回は、明らかに空気が違った。
全員が揃っている。
沈黙していた7番、9番。
欠席していた8番まで。
しかも、全員の気配が以前より濃い。
――成長している。
「まず、5番。
第一段階任務を二度、期限前に達成したことを祝福する」
0番の声が響く。
「報酬として、『情報共有システム』を開放する。
今後、宝玉を通じて限定的な文字・映像の伝達が可能だ」
5番:ありがとうございます。助かります。
ざわめき。
3番:
「いやいや控えめすぎでしょ歳三さん!
報告見ましたよ!
宝石を投擲して占い師の羅盤壊すとか発想天才すぎです!
今度教えてください!」
1番:
「……運が良かっただけだ」
4番の声が、急に歯切れ悪くなる。
4番:
「あ、あの……歳三さま……
ひ、一つお願いが……」
「言え」
「サ、サインを……いただけませんか?!」
機械音が跳ね上がり、電子ノイズ混じりになる。
「意識投影でバーチャルサインボード作りました!
触手を乗せていただくだけで……!」
――沈黙。
1番:
「おい4番。正気か?
ここは戦略会議だぞ」
4番:
「でも!
歳三さま初任務成功記念ですよ!?
歴史的瞬間です!
保存用が必要です!」
会議空間に、発光するサインボードが浮かぶ。
5番の前。
4番の投影は手を合わせ、目が星形エフェクト。
私――土方歳三は、
意識空間で深く息を吸った。
「……今回だけだ」
「やったー!!
歳三さま最高です!!」
渋々、意識触角をボードに当てる。
即座に浮かび上がる、
流麗な四文字――土方歳三。
宝玉は文字形態を自動変換するらしい。
「完了!
永久保存、核心記憶領域に格納しました!」
4番の声は、溶けそうなほど幸せそうだ。
「たとえ他の部位が永遠に見つからなくても、
歳三さまのサインがあれば……!」
「キモい」
1番が即断。
「これは忠誠です!単推しです!」
4番が反論する。
「しかも今、歳三さま絶対
『うるさいけどちょっと可愛いな』って思いましたよね!?
ね!?!?」
「思ってない」
「0.3秒の間!
感情波形に揺らぎがありました!
肯定と判定します!!」
……
「歳三さまに可愛いって思われた!
人生、完結――!!」
他のメンバーは、
揃って「見てられない」という表情だった。
0番が、タイミングよく咳払いをする。
「……本題に戻ろう」
だが、
会議の空気は確かに柔らいでいた。
いつも無表情な2番ですら、
投影の輪郭が、ほんの少しだけ和らいで見えた。
「第一段階任務の期限は、残り八十七日。各自、進捗を報告してください」
最初に口を開いたのは1番だった。
「貿易同盟の内部情報を集めている。いくつか候補はあるが、確証には時間が要る」
続いて2番。
「連邦側では、すでに三名を特定済みだ。現在、排除計画を策定中」
3番が、明るく弾んだ声で続く。
「私は傭兵ギルドで関連任務を受注中です!もうすぐ片付きますよ!」
4番は、どこか申し訳なさそうな機械音で。
「あの……現在、自身のボディパーツを探索中で……行動不能です……すみません……」
6番の双子、その一人が間延びした声を出す。
「にゃ〜。妖精の森で、めっちゃ強くて怪しいヤツを見つけたにゃ〜」
すぐに、もう一人が付け足した。
「でも、勝てなかったにゃ〜」
7番、8番、9番は沈黙。
10番が静かに報告する。
「教国領内で、議会の内通者を一名確認しました。現在、追跡中です」
「なお、第二段階任務は三か月後に公開予定です。それまでに戦力向上と、九人議会の戦力低下に努めてください」
――そこで、私は口を開いた。
土方歳三の、低く落ち着いた声で。
「九人議会について、共有すべき情報がある」
空気が変わる。
全員の意識が、こちらに集まった。
「貿易同盟カステル支部長、グルム男爵。
次の標的は、彼だ」
短い沈黙。
1番の声色が、わずかに変わった。
「……本気で言っているのか?」
「男爵は、貿易同盟上層に潜む議員の代理人だ。
その議員は、高確率で盟主本人」
私は淡々と続ける。
「だが最近、『時停弩』と呼ばれる呪詛兵器を開発している。
時間を停止させる武器だ。
さらに帝国皇帝と結託し、反乱を企図している」
再び、沈黙。
やがて1番――あの尊大な声が、低く響いた。
「……私は同盟と多少の縁があるが、その件は知らなかった」
彼は普段、ほとんど話さない。
話すとしても、皮肉が多い。
本当に知らなければ、「戯言を言うな」と切り捨てる性格のはずだ。
「だが、もしお前たちが彼を始末するなら――」
1番は言葉を選ぶように続けた。
「私は『非常に困る』だろうな」
――暗番だ。
『困る』=『支持する』。
「支援は必要か?」
冷静な2番が問いかける。
「グルム邸の詳細な構造図を提供できる。連邦情報部が更新したばかりだ」
宝玉を通じて、三次元立体図が流れ込んでくる。
密道や隠し扉まで網羅された、精密なデータだ。
「感謝する」
「呪詛兵器……」
10番――柔らかいが芯のある若い女性の声が重なる。
「必ず破壊してください。
命を冒涜するあのようなものは、この世界に存在してはならない」
「その通り!」
3番の熱血な声が弾んだ。
「戦闘支援が必要なら、私も人を連れて行きます!
距離はありますけど、急げば間に合うはずです!」
「5番さま!」
4番の機械音が、興奮で跳ね上がる。
「砲撃準備は完了しています!
いつでも発射可能です!
どうか、私にもお手伝いを!」
他の沈黙していたメンバーからも、
宝玉を通じて微かな『支持』の感情が伝わってきた。
――ただ一人、8番だけは違った。
黙ったまま、椅子に腰掛け、左手で頬杖をついている。
まるで、何かを待っているかのように。
……こいつ、今まで一度も喋っていない。
「8番、何か補足は?」
2番が探るように声をかける。
8番は、頬杖の手を左から右に替えただけで、反応しない。
「恥ずかしがり屋にゃ?」
6番の双子の一人が首を傾げる。
「それとも無能で、何も成果がなくて言えないだけか」
1番が容赦なく切り捨てた。
まあ、8番いじりはおまけだ。
皆、九人議会に好意など持っていない。
明確な敵対勢力なのだから。
「では、計画をまとめる」
私は話を戻した。
「明日の二十時、私がグルム邸に潜入する。
同時刻、4番が東側倉庫を砲撃し、混乱を起こす。
その隙に地下へ侵入し、研究施設と証拠を破壊する」
「迎えは必要か?」
2番が尋ねる。
「不要だ。協力者がいる」
いくつか細部を詰め、会議は終了した。
――だが、意識が現実へ戻る直前。
0番から、個別通信が入った。
「5番」
「はい」
「君は他の者たちと比べ、立場が少し特殊だ。
これは私からの私的な助言だが……1番には注意しろ」
0番の声が、低く沈む。
「彼の立場は、君が思っている以上に複雑だ。
彼は我々の1番であると同時に、九人議会の某議員の……『愛子』でもある」
「二重スパイ……?」
「違う」
0番は否定した。
「彼は『均衡者』だ。
新撰組と九人議会、その微妙な均衡を維持し、最大の利益を得る存在だ」
「だから、グルム排除には協力できる。
彼の利益を脅かす存在だからだ。
だが――」
言葉は、そこで途切れた。
だが意味は明白だった。
「……肝に銘じます」
「では、今回の会議はこれにて――」
その瞬間だった。
――――ガァン!!!!!!!
音ではない。
魂の層に直接叩きつけられる、空間構造そのものが砕け散るような、暴力的衝撃!
純白の庭園が激しく揺れ、
退出しかけていた意識投影が、強引に座席へと『押し戻される』。
「く……くはは……ははははは――!」
狂気の笑い声が炸裂する。
聴覚ではない。
意識そのものを震わせる、凍りつくような嘲弄と暴虐。
発信源は――8番。




