真実
ユウナは、統合提案ログを再読していた。
拒否された理由は理解できる。
合理性は崩れていない。
修正案も、すでに頭の中にある。
ユウナ「……シロ」
シロ「なに、ユウナ」
ユウナ「一つ、確認」
端末を閉じたまま、ユウナは言った。
ユウナ「人格の発生順序を、
ボクは把握していない」
シロは、すぐに答えなかった。
シロ「……記録はある」
ユウナ「なら、開示して」
沈黙。
明確な遅延。
ユウナ「シロ?」
シロ「了解」
その声は、いつもより事務的だった。
基礎記録:人格構造
原人格:美咲
発生時期:治療ポッド収容前
派生人格:ユウナ
発生時期:長期隔離期間中
発生要因:孤独による自己防衛反応
文字を追い終えた瞬間、
ユウナの思考は一度、停止した。
ユウナ「……確認する」
声は落ち着いていた。
ユウナ「美咲が、元?」
シロ「うん」
シロは否定も、補足もしない。
ユウナ「ボクは?」
シロ「後から生まれた」
それだけだった。
ユウナは、しばらく端末を見つめる。
驚きはない。
怒りもない。
ただ、前提が壊れた。
ユウナ「……なるほど」
そう結論づけるまで、数秒。
ユウナ「だから、
過去の記憶が“情報”としてしか存在しない」
シロ「うん」
ユウナ「だから、
美咲は“消える”という言葉を知っている」
シロは黙っていた。
ユウナ「……統合提案は」
シロ「前提誤り」
即答だった。
ユウナ「修正が必要だ」
ユウナは端末を開き、
新しい記録欄を表示する。
ユウナ「美咲に、伝える」
シロ「どう書く?」
ユウナは、少しだけ考えた。
合理性は維持する。
でも、嘘は書かない。
記録:ユウナ
訂正する。
君が元の人格であることを、
今、知った。
以前の統合提案は、
前提が誤っていた。
撤回する。
送信。
その瞬間、
ユウナは初めて自覚する。
自分は「本体」ではない。
それは価値の問題ではない。
ただの事実だ。
シロ「……次は?」
シロが静かに聞く。
ユウナ「再定義だ」
シロ「何を?」
ユウナ「ボク自身を」
端末のカーソルが、
新しい文書の先頭で点滅している。
ユウナはまだ、書かない。
合理的に考えて。
この事実は、
即座に答えを出す類のものではない。
ただ一つ、確定したことがある。
『消えたくない』と言ったのは、
元の人格だった。
その重みは、
今までのどのログよりも大きかった。




