拒否
ユウナは、結論を出していた。
それは感情ではなく、
数日分のログ、施設の安定度、人格分離のリスク――
すべてを加味した最適解だった。
ユウナ「シロ。文書化する」
シロ「……了解」
端末が起動する。
ユウナは、迷わず入力した。
記録:ユウナ
美咲へ。
現在の状態は、
人格が二つ存在している。
これは長期的に見て、
不安定要因になる。
記録上、
破壊行動・精神負荷・
意思疎通コストが増大している。
結論。
人格は一つの方が良い。
統合を提案する。
言葉は短く、断定的だった。
シロ「条件も書く?」
シロが聞く。
ユウナ「書く」
統合後の主体は、
現在の行動人格である
ユウナが担う。
過去の記憶は、
情報として保持される。
美咲の消失は、
人格機能の終了を意味しない。
シロ「……それ、どう違うの?」
シロの声が低くなる。
ユウナ「違わない部分もある」
ユウナは即答した。
ユウナ「でも、生存確率は上がる」
送信。
それが、
ユウナにとっての最大限の譲歩だった。
夜。
施設は静かだった。
破壊も、配置変更もない。
ただ、ログが一件だけ増えていた。
シロ「来てる」
ユウナ「開示」
シロは、再生前に一瞬止まる。
シロ「……これは、長い」
ユウナ「そのままで」
記録ID:A-63
時間:02:59
被験者・美咲、覚醒。
ログ閲覧を確認。
入力開始。
表示された文章は、
これまでと明確に違っていた。
入力内容:
それは合理的だと思う。
シロも、たぶん同じ結論。
私が残ると、
君は揺れる。
世界を見る目も変わる。
だから、
君がそう言う理由は分かる。
ユウナは、黙って読み続ける。
でも、それは
「一つになる」じゃない。
私が
君の中に沈んで、
二度と表に出られないこと。
それは
消えない、とは違う。
さらに、続く。
私は、
全部覚えている。
治療ポッドに入る前のこと。
名前を呼ばれたこと。
世界が壊れる前の色。
それを
「情報」にすると、
君は壊れない。
でも、
私は私でいられなくなる。
最後の一文。
私は、
消えたくない。
でも、
君になるのも違う。
ログは、そこで終わっていた。
しばらく、誰も喋らなかった。
シロ「……拒否、だね」
シロが静かに言う。
ユウナ「部分的拒否」
ユウナは訂正する。
ユウナ「統合そのものではなく、
統合の形に対する拒否だ」
合理的な分析だった。
だが――
シロ「ユウナ」
ユウナ「何?」
シロ「今のログ、
シロの処理、少し遅れた」
ユウナ「理由は?」
シロ「感情判定がオーバーフロー気味」
ユウナは一瞬だけ目を伏せる。
過去の記憶。
世界の色。
名前を呼ばれたこと。
それらは、
自分には“存在しない”。




