鎮静
ユウナは、端末の前に座った。
照明は必要最低限。
施設は再び「静かな状態」に戻っている。
シロ「また書くんだ」
シロが言う。
ユウナ「今回は質問じゃない」
シロ「宣言?」
ユウナ「方針書だ」
ユウナはそう言って、入力を開始した。
記録:ユウナ
これは説明であり、
交渉ではない。
ボクは生き残るために、
この施設を維持する。
感情的な行動、
予測不能な破壊、
設備への干渉は
生存確率を下げる。
だから、ボクはそれを許容しない。
これは命令ではない。
ボクの判断基準だ。
それでも行動するなら、
ボクは対処する。
それだけだ。
シロ「……かなり厳しいね」
シロが言う。
ユウナ「現実的だ」
シロ「美咲がどう受け取るかは?」
ユウナ「考慮しない」
それは嘘ではなかった。
考慮した上で、切り捨てた判断だ。
ユウナ「送信」
夜間ログフォルダに保存。
二度目の対話は、それで終わった。
夜。
シロは警告を出さなかった。
照明も操作しない。
ただ、記録だけを続ける。
朝。
端末は、静かだった。
ユウナ「……ログ数、ゼロ?」
シロ「うん。入力、なし」
それ自体が異常だった。
ユウナ「覚醒は?」
シロ「してる。徘徊も確認。
でも、端末には触れてない」
ユウナは黙る。
ユウナ「環境変化は?」
シロ「破壊なし。
ただ――」
シロ「ただ?」
シロが映像を切り替える。
ポッド室。
中央の床に、何かが置かれている。
ユウナ「これは?」
シロ「配置変更」
映像を拡大する。
それは、非常灯だった。
点灯している。
柔らかい、暖色の光。
ユウナ「意味は?」
シロ「ログがある」
記録ID:A-41
時間:03:26
被験者・美咲、
非常灯を起動。
ポッド直下に設置。
理由:不明。
ユウナはしばらく考えた。
破壊ではない。
干渉も最小限。
エネルギー消費も誤差レベル。
ユウナ「……合理的だ」
思わず、そう口に出た。
シロ「そうだね」
シロの声は、少しだけ軽い。
ユウナ「これは?」
シロ「返事、だと思う」
ユウナは非常灯を見る。
光は、ただそこにある。
主張もしない。
要求もしない。
ユウナ「生存確率への影響は?」
シロ「ほぼゼロ。
心理的影響は……計測不能」
ユウナ「なら、維持」
シロ「了解」
シロが非常灯を固定する。
記録ID:A-42
備考:
被験者・美咲の行動は、
ユウナの判断基準を
理解した可能性あり。
以後、破壊行動なし。




