対話
準備に、感情は必要なかった。
ユウナ「シロ。条件を整理する」
シロ「了解。久しぶりに“会議”っぽいね」
制御室。
破壊された通路は仮修復され、機能は完全に戻っている。
ユウナ「前提。美咲は夜間に覚醒する。
前提。ボクが起きている間、反応はない」
シロ「うん」
ユウナ「だから、間接的な対話を試みる」
シロが首を傾げる。
シロ「どうやって?」
ユウナ「記録を残す」
シロ「お、ログ越し会話」
ボクは端末を操作し、
ログ入力画面を開く。
ユウナ「条件。感情的表現は禁止。
命令形は禁止。
質問は一つだけ」
シロ「ずいぶん縛るね」
ユウナ「誤解を減らす」
合理的だ。
入力を始める。
記録:ユウナ
美咲へ。
君の行動により、
施設の一部が破損した。
これは事実。
評価は保留する。
質問。
君の目的は何だ。
シロ「……冷たい」
シロが正直な感想を言う。
ユウナ「曖昧よりいい」
送信。
記録は、夜間ログ閲覧用フォルダに保存された。
シロ「これで終わり?」
ユウナ「今は」
あとは、待つ。
夜。
照明を落とし、
ボクはあえて、睡眠導入を遅らせる。
シロ「起きてるね」
ユウナ「覚醒境界を観測したい」
シロ「研究者みたい」
ユウナ「役に立つ」
意識が、ゆっくり沈む。
朝。
最初に目に入ったのは、
端末の通知ランプだった。
ユウナ「……シロ」
シロ「うん。ログ、来てる」
ユウナ「開示して」
シロは一拍置いてから、再生を開始した。
記録ID:A-24
時間:03:11
被験者・美咲、覚醒。
ログ閲覧を確認。
記録に対し、
明確な反応を示す。
次のログは、
形式が少し違っていた。
記録ID:A-25
時間:03:14
被験者・美咲、
施設内端末を使用。
文章入力を試みるが、
途中で中断を繰り返す。
ボクは、無意識に息を止めていた。
ユウナ「……入力内容は?」
シロは、視線を外す。
シロ「要約する?」
ユウナ「そのまま」
短い沈黙。
シロ「了解」
入力内容(断片):
・会いたい
・君じゃない
・ひとりは嫌
・返事して
それだけだった。
命令でも、説明でもない。
質問への答えでもない。
シロ「目的、分からないね」
シロが言う。
ユウナ「……いや」
ボクは否定する。
ユウナ「分かる。
少なくとも、“破壊”が目的じゃない」
ログを見つめる。
シロ「対話は成立した?」
ユウナ「部分的に」
シロ「次は?」
ボクは少し考える。
合理的に考えれば、
これ以上踏み込むのはリスクだ。
それでも――
ユウナ「次は、条件を変える」
シロ「ほう」
ユウナ「質問を、やめる」
シロ「それは対話なの?」
ユウナ「たぶん」
シロが小さく笑う。
シロ「ユウナさ」
ユウナ「何?」
シロ「今の、すごく人間っぽい」
ユウナ「非効率?」
シロ「いいや。観測として価値が高い」
端末のランプが消える。
記録は残った。
短く、乱れた言葉だけが。




