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滅亡世界を独りの少女とウサギ型ロボットだけで生きていく  作者: うみのうさぎ
外への旅立ち

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12/12

 ユウナは端末を起動し、

 朝の定時処理を実行する。


ログ受信:友人・美咲

記録ID:B-05 ~ B-08


 順に開く。


記録ID:B-05

友人・美咲


水の音を思い出した。

冷たくて、

光ってた。


記録ID:B-06

友人・美咲


石が多い川。

靴を脱いで、

入った。


記録ID:B-07

友人・美咲


夏だった。

でも、

寒くなかった。


記録ID:B-08

友人・美咲


あの川、

まだあるかな。



 ユウナは読み終え、

 少しだけ処理を遅らせた。


ユウナ「……シロ」


シロ「なに?」


ユウナ「近隣の水系データを表示」


シロ「はいはい、また唐突」


 ホログラムが展開される。

 古い地形図、衛星観測の残骸、

 断片的な河川データ。


シロ「候補は三つ」


 ユウナが指で示す。


ユウナ「枯渇。地下化。流域不明」


シロ「全部ロクでもないね」


ユウナ「妥当な評価だ」


 ユウナは地図を拡大する。


ユウナ「B-06。

 石が多い。

 浅瀬の可能性が高い」


シロ「へえ、そこ拾う?」


ユウナ「記憶は誇張されるが、

 身体感覚は比較的残る」


「専門家みたいな言い方!」


 ユウナは移動計画を修正する。


ユウナ「進路、南南西。

 高低差を優先」


シロ「……それ、遠回りだよ?」


ユウナ「非効率だ」


シロ「認めるんだ」


ユウナ「だが、価値がある」


 シロが一瞬、言葉に詰まる。


ユウナ「……“価値”ね」


 移動開始。


 崩れた道路。

 風に削られた標識。

 沈黙。


 数時間後、

 地面の色が変わる。


シロ「湿度、上昇」


 ユウナが言う。


ユウナ「お、当たり?」


 さらに進む。


 草が増え、

 石が露出し、

 やがて――音。


 かすかな、水音。


シロ「……検出」


 ユウナは足を止める。


 視界の先に、

 細い流れが見える。


 川だった。

 小さいが、確かに。


 ユウナは近づき、

 水質をスキャンする。


シロ「汚染度、軽微。

 流量、小。

 飲用、可」


シロ「やった!」


 シロが跳ねる。


ユウナ「美咲の記憶、当たりじゃん!」


 ユウナは水面を見る。


 揺れる水面に反射する光。

 石の影。


 ユウナは、少しだけ川に近づく。


 靴は脱がない。

 入らない。


 ただ、観察する。


ユウナ「……」


シロ「入らないの?」


ユウナ「今日はいい」


シロ「珍し」


 ユウナは視線を外さずに答える。


ユウナ「これは、

 “見つけた”ことに意味がある」


 シロは笑った。


シロ「それ、旅人のセリフだよ」


 夕方。


 簡易キャンプを張る。


 川の音が、

 一定のリズムで続く。


 ユウナは端末を閉じ、

 空を見上げる。


 合理性では測れないが、

 無意味ではない。


 ここに来た理由は、

 確かに存在した。


 それだけで、十分だった。


ユウナは即座に端末を起動した。


 朝の定時処理。


ログ受信:友人・美咲

記録ID:B-09 ~ B-11

 

ユウナは、通常より速くログを開く。


記録ID:B-09

友人・美咲


夜の川に入った。

冷たくて、

懐かしかった。


 ユウナの視線が、止まる。


記録ID:B-10

友人・美咲


石の感触、

覚えてた通り。


流れが、

足を引っぱった。


記録ID:B-11

友人・美咲


怖くなかった。


ここに来て、

よかった。



 ユウナは、

 ログを閉じない。


 もう一度、

 最初から読み直す。


ユウナ「……シロ」


シロ「ん?」


ユウナ「起床処理を、

 五分遅らせる」


シロ「え、なんで?」


ユウナ「不要なタスクを削減する」


シロ「……?」


 シロは首を傾げる。


ユウナ「珍しいね。

 朝イチでログ二周したの」


 ユウナは否定しない。


 代わりに、

 移動計画を更新する。


ユウナ「今日は、

 この地点に滞在する」


シロ「昨日は“即移動”って言ってたけど?」


ユウナ「訂正する」


シロ「理由は?」


 ユウナは、川を見る。


 朝の光。

 静かな流れ。


ユウナ「価値が、確認できた」


 シロは一瞬黙り、

 それから笑った。


シロ「……それ、

 嬉しいって意味?」


ユウナ「定義上は違う」


シロ「はいはい」


 ユウナは立ち上がる。


 足取りは、

 わずかに軽い。


 数値化はできない。

 だが確実に――


 世界は、昨日より少しだけ良くなっていた。

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