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滅亡世界を独りの少女とウサギ型ロボットだけで生きていく  作者: うみのうさぎ
独りは嫌

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1/12

覚醒

目を覚ましたとき、最初に感じたのは音だった。

 低く、規則正しい振動。まるで巨大な心臓が、どこかで淡々と拍動しているような音。


シロ「おはよう、ユウナ」


 白い影が視界に入る。

 丸い耳。つぶらな黒い目。――ウサギ、に見える。


ユウナ「君は……?」


シロ「シロ。生活支援用ロボット。あと話し相手。あと世界の解説役。仕事多め」


 淡々とした口調なのに、どこか楽しそうだった。

 ボクは体を起こす。硬い床。無機質な壁。円筒形の部屋の中央に、開いたままのポッドがある。


ユウナ「ここは?」


シロ「治療ポッド施設。人類最終医療拠点、って呼ばれてた場所。今はただの箱」


 シロはぴょんと跳ねて、ポッドの縁に腰掛けた。


シロ「で、結論から言うね。人類は滅亡してる」


ユウナ「……そう」


 驚きはなかった。

 感情が動かなかった、という方が正確だ。


シロ「冷静だね。さすがユウナ」


ユウナ「そういう風に作られてるの?」


シロ「いいや。自然発生。シロはそう判断してる」


 判断、という言葉が少し引っかかったが、今はどうでもいい。

 ボクは周囲を見回す。照明は生きている。空調も正常。ここだけが、世界から切り取られたようだった。


ユウナ「エネルギー源は?」


シロ「核融合炉。半永久稼働。要するに、このポッドは世界一しぶとい」


 なるほど。合理的だ。

 だから、今もこうして目覚められた。


ユウナ「外は?」


ユウナ「荒野。廃墟。風強め。人の気配ゼロ」


 シロはあっさりと言った。


ユウナ「……生存の優先順位は?」


シロ「生きること。次に、意味を見つけること。これはシロのおすすめ」


 ボクは立ち上がる。足取りは安定していた。

 長く眠っていたはずなのに、体に違和感はない。


シロ「ユウナ」


 背後から呼ばれる。


シロ「一つ、伝えておくことがある」


ユウナ「何?」


 シロは一瞬だけ、言葉を選ぶように耳を揺らした。


シロ「君が眠っている間、この施設は“無人”じゃなかった」


ユウナ「……?」


シロ「記録が残ってる」


 シロの目が、壁面のモニターに向く。

 そこには日時と、簡潔なログ一覧が表示されていた。


――《覚醒記録:被験者・美咲》


 知らない名前だった。

 それなのに、なぜか胸の奥が、ほんのわずかにざわついた。


ユウナ「これは?」


シロ「説明は順を追って。焦ると疲れる」


 シロはいつもの軽い調子に戻る。


シロ「とりあえず今日は、外に出よっか。世界は広いし、君は一人じゃない――記録上はね」


 ボクはモニターから目を離した。

 合理的に考えれば、今は行動を優先すべきだ。


 それでも、背後に残された“記録”が、

 見えない誰かの視線のように感じられていた。


隔壁が開くと、乾いた風が吹き込んできた。

 錆びた匂いと、砂の匂い。生命の気配はない。


シロ「外、テンプレ通りに終わってるでしょ」


 シロが軽く言う。


 見渡す限り、崩れた建造物。

 かつては街だったらしい輪郭だけが、地平線まで続いている。


ユウナ「人類滅亡からの経過年数は?」


シロ「正確なのは不明。推定で百年以上。誤差プラスマイナス数十年」


シロ「随分アバウトだね」


シロ「文明が死ぬと、時計も一緒に死ぬんだよ」


 合理的な回答だった。

 ボクは頷き、周囲の安全確認を終える。


ユウナ「ここを拠点にするのが最適だ」


シロ「うん。シロもそう思う。電力・遮蔽・自給機能、全部そろってる」


 ポッド施設は、終末世界において異常なほど“完結”していた。


シロ「じゃあ、次の議題」


 シロが跳ねて、入口横の端末を起動する。


シロ「記録の開示。君に知る権利がある」


 モニターに、簡素な映像が映る。

 夜間。照明を落としたポッド室。


 そこに映っているのは――

 空のポッドと、床に落ちた影だけ。


ユウナ「……誰もいない」


シロ「そう。映像上はね」


 シロの声は軽いが、処理速度がわずかに落ちている。

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