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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と神樹の麓

 認めたくはなかったが、認めることにした。僕がなんて言い訳をしようと、僕はこの世界を創った神であって、無関係な一般人を装うのはズルいことだった。だから、僕はこの世界でだけは神という称号を受け入れようと思う。


「敬語……使った方が良いかしら?」


「あはは、それは大丈夫」


 にやりと笑って聞いて来たスイに、僕は首を振った。


「でも、凄いなぁ……これが賢者かぁ」


「なにそれ?」


 怪訝な目をするスイに、僕は笑う。


「こうも見事に諭されるとは思ってなかったよ。自分で言うのもなんだけど、怖くは無かったの?」


「少しはね。でも、ここで逆上するような奴じゃないってのは分かってたわ。だって、あんなに不安そうに手を握って来るんだもの」


 その言い方だと、手を握ることが目的だったみたいじゃん。恥ずかしいから止めてよ。


「きっと、心は普通の人間で……優しい子なんだろうって、思ったわ。歳も、見た目通りなんでしょう?」


「そうだけど……そういう君は、見た目通りじゃないの?」


「貴方の世界の基準では、ね」


「知ってるんだ。僕の世界のことも」


 スイは頷き、かなり近付いて来た神樹の方を見た。


「私は賢者よ。そうあるように作られたの。与えられてる知識も、他の使徒より多いわ」


「へぇ……因みに、幾つなの?」


「さぁね。女性に歳のことを聞くのはタブー、なんでしょう?」


「あはは、まぁね」


 こっちでもそうなんだ。いや、賢者のスイだからこそ知ってるってだけなのかな。でも、デリカシーが無い奴だって思われたかもしれない。まぁ、事実無いんだけど。


「ほら、着いたわよ……神樹の麓に」


 スイがそう口にすると同時に、森が消えた。木々の生えない空間がそこには広がっていた。あるのは、中心で凄まじい存在感を放つ神樹と、無造作に並び立つ木造の建築。現代的というには程遠いが、意外にも原始的な雰囲気はそこまで感じなかった。


「……凄いね。神秘的だ」


 巨大な神樹が適度に日の光を遮っているお陰か、美しく木漏れ日が差していた。一日中、ずっと見ていられるような、神秘的で心が落ち着く光景だった。


「建築も、賢者の入れ知恵だったりする?」


「少しはね。ただ、建築に関する知識は余りなかったから……みんなで色々と試行錯誤して、頑張ったのよ」


「へぇ……なんか、良いね」


 僕はその光景を思い浮かべながら、神樹とその麓に作られた里を眺め……あることに気付いた。


「あれ、人は?」


「神樹様の上に居ると思うけど? みんな、暇な時は大体あそこで過ごしてるもの」


 そう言って、スイは神樹の広大な樹冠を指差した。言われてみれば、緑の葉の中に木人が紛れているように……見えなくもない。


「貴方が思う以上に、神樹様は私達にとって凄く大事な存在なのよ。眠る時も神樹様の上で眠るし」


「え、落ちたりしないの?」


 僕が聞くと、スイはにやりと笑い、スイから遠い方の僕の肩を叩いた。


「スイ、何を……へ?」


 枝が、僕の肩を叩いていた。いや、違う。その木の枝のようなものがどこから繋がっているか辿るように追ってみれば、スイのお尻の辺りから伸びていた。


「まさか、尻尾?」


「機能としては全く違うけど、そんな感じね」


 どこかツルツルとした木の枝、のような尻尾。煽るようにこちらを向いてちょろちょろと動いていたので掴んでみると、意外と触り心地はザラザラとしていて、所々に突っかかりというか、層のようなものがあるのを感じた。木の皮に近い感じもあるけど、グリップが凄い手袋みたいな感じもあった。


「あ、あんまり雑に触らないでよ? そこまで強い器官じゃないんだから」


「ごめん。こっち向いてたから、つい」


 僕がそう言うと、尻尾は逃げるように戻って行って、不思議なことにどこかに消えてしまった。


「ねぇ。尻尾、どこに消えたの?」


「……体の中よ。伸び縮みするから、隠しておけるの」


 へぇ、凄い。生命の神秘って感じだ。


「ん、そういえば……木の上で寝るなら、下の建築物は何の為にあるの?」


「大体は蔵よ」


 あ、なるほどね。倉庫なんだ。


「あとは、作業場だったり調理場だったり、そういう感じね。個人の家なんかは無いわよ」


「……そうなんだ」


 不思議な生体だ。


「でも、熱かったり寒かったりしたらどうするの?」


「神樹様がどうとでもしてくれるわよ。あ、でも地下で寝るって人も多いわね。神樹様の手を煩わせたくないって」


「意外と、結構色々してくれるんだね……神樹」


「そうよ。まぁ、正直なところ……使徒とは言いつつも、実体としては共生関係に近いもの。宗教的な意識があるのも事実だけど」


 なんか、客観的に見てるんだね。賢者だからかな。


「……着いた、ね」


 そして、話している間に僕らは神樹まで辿り着いていた。何というか、形容しがたい神秘的なオーラがその樹からは滲み出していた。

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