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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と神樹

 歩き進んで行くと、木々の葉の隙間から見える超巨大な大樹が近付いているのが分かった。道中で色んな生物にあったけど、大きくてパワフルな生物が多い印象だった。


「んー?」


 何かがすばしっこく森の中を駆け抜けていくのが見えた。だけど、その背丈は少し人間のようにも見えた。まさか、二足歩行の生物が居たりするのか?


 僕はちょっとドキドキしながら森の中を行き、さっきの生き物の正体を突き止める為にガサガサと躊躇いなく音を立てながら葉をかき分けて進む。


「あれ、どこに行ったのかな?」


 もしかしたら、見失ったかも知れない。こうなれば、全知全能の力に頼って索敵を……そんな僕の思考は、次の瞬間に凍り付いた。


「……え?」


 茂みの奥から突き出されたのは、槍のような物体だった。棒の先には光を跳ね返す銀色で弧状のナニカが付けられており、先端が鋭く僕を睨み付けていた。


「え、何で……」


 槍。文明の利器。文明? 有り得ない。でも、だったら、何で。



「――――誰だ」



 言葉だ。言葉が聞こえたのは、背後だった。そこに振り返ろうとする最中で、何か鋭いものが僕のうなじ辺りに触れた。気付けば、四方八方から槍が伸びていた。包囲されている。


「追い込んだつもりが、追い込まれてたって訳か」


 状況を理解した僕の目の前に、茂みの中で槍を構えていた存在がゆっくりと前に出て来て、姿を現した。

 それは、人にしか見えないような存在だった。肌は僅かに緑がかって白く、猿のような毛深さは無い。性別は男だったが、左右を目だけでチラチラと見れば、女も居ることが分かった。


「誰だ、お前は」


 緑の葉と木の皮を合わせたような服に身を包み、耳はエルフを思わせるように長い。森の民という言葉が似合う姿の彼らは、そう僕に問いかけていた。


「誰だ」


「どこから来た」


 しかし、繰り返されるその問いに、僕は一周回って笑いを零してしまった。


「ッ、何を……」


 誰だ? どこから来た?


「寧ろ、僕が聞きたいよ。君達こそ誰で、一体どこから来たのかな?」


「我らは神樹の使徒。神樹より生まれ、神樹と共にある」


 意外と親切に答えてくれるんだね。しかし、神樹の使徒ね……ん? 神樹?


「もしかして……神樹って、あのおっきい木のこと?」


「おっきい木だとッ!? 貴様ッ、神樹様に無礼だぞッ!!」


「そうだッ、偉大なる神樹様に何という……ッ!」


 や、やかましいなぁ……僕が大きくはしちゃったけど、別にただの大きい木だし。まぁ、200メートル越えの怪樹だし、神樹なんて呼びたくなる気持ちも分かるけどね。


「それで、僕はどうして……この、槍みたいなのを向けられてるのかな」


「我らに似ているが、我らとは異なる存在であるからな。もしかすれば、貴様もまた神樹様を狙っている存在かと警戒しただけだ」


「神樹を狙っている存在……? 君や僕みたいなのが、他にも居るの?」


「ッ、私達が神樹様を狙っているだと!?」


 違う、そうじゃない。


「えっとね、僕や君みたいな人型の……二足歩行の、生き物ってことだよ」


「いや、私達や貴様のような存在は他に見たことも無い。故に、警戒したという部分もある」


「あ、そうなんだ」


「私が言っているのは……根齧りや、枝食みのような奴らのことだ」


 根齧り、枝食み。どちらも、僕には聞き覚えの無いワードだった。だけど、男が発したその言葉に周りの人達も忌まわし気な顔をしている。


「あの、それは何なんですか?」


「そちらばかり質問しているな。そろそろ、こちらの質問にも答えて貰おうか」


 む、確かにそうだね。


「良いよ、何でも聞いて」


「お前は、何だ」


「何って……人間?」


「お前の仲間が他にも沢山居るのか?」


 高校生だとか何だとか、説明したって分からないだろうし。人間と答えるくらいしかないよね。


「居るけど、ここには居ないよ。僕は、遠く離れた場所から来たんだ」


「そうか。だと言うのなら……」


 男は目を細め、僕の目をしっかりと見た。



「――――何故、お前は私達の言葉を知っているのだ」



 男の言葉に、僕は背筋を寒気が這い上がって行くのを感じた。


「なん、で……君達は、その言葉を……話せるんだろう……」


 そうだ。思えば、最初から言葉が通じているのがおかしかった。全知全能で翻訳している訳でも無いのに、どうして言葉が通じるのか。それは、最初から同じ言語を使ってたからだ。

 でも、何で? どうして彼らは僕たちの言葉を……日本語を、知っているんだ。使えているんだ。僕の影響か? 僕が何かをしたのか?


「……ダメだ、分からない」


「分からない、ではなく……聞いているのはこちらなんだが?」


 槍の穂先が再び持ち上げられる。鉄のように光を跳ね返す銀色の穂先よりも、今はその謎の方が薄気味悪くて気になっていた。

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