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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と炭酸

 ユモンの正体。それについて聞かれた僕は、思わず閉口してしまった。安堂さんの圧に負けてしまったというのもあるが、単純になんて返すべきか迷ってしまったというのもある。秘密と言って撥ね退けても良かったけど、こっちから色々と聞いた手前そうは答えづらい。


「あー、えっとですね……彼は、外国の友人なんですよ」


「ほう、それにしては日本語が達者ですな」


「その、ハーフなんですよ。生まれたのは外国なんですけど、育ったのは日本らしくて」


「ほう、それにしては日本の常識に疎いように見えますな」


 ぐぬっ、完全に詰められている……どうしよう、なんて答えよう……!


「ハハッ、冗談でございますよ。ただ、他人を探るということは……自分もまた探られても仕方ない、ということですな」


「すみません……勉強になります」


 見事に社会勉強をさせられた僕だが、安堂さんがユモンについて探りたい気持ちがあったのは確かだろう。指輪の所持者である僕を差し置いて、認識阻害の魔術をかけている存在だ。何かがあると思うのも無理はない。


「因みに、貴方は何者なんですかな? この問いに関しては、答えられないでも全く構いませんが」


「いや、僕はただの高校生ですよ。本当に」


 経歴だとかを調べても、本当にそれだけの情報しか出てこないだろう。だって、僕は実際のところただの高校生なんだから。


「……本心からそう言っておられるようですな」


 どこか呆れたように安堂さんはそう言って、机の上のチキンに視線を戻した。


「おい、治!」


「ん、どうしたの?」


「明日、コイツの家に行くことになったけど、良いよなァ!?」


「何? ハンバーグ食べに行くの?」


 僕が聞くと、ユモンは当然のように頷いた。やっぱりそうなんだ。ハンバーグに釣られたんだ。食いしん坊悪魔め。


「このハンバーグっての、マジでヤバいくらいうめぇんだよ。マジで、向こうで食った最強の飯に並ぶんじゃねえかってくらいうめえんだよ……その、最高級版が食えるってなったら行くしかねェだろうがァ!?」


「ところで、向こうってどこなのかしら? 日本語はお上手だけど、外国の人よね、イカダチは」


「あぁ、アメリカだよ。うん、イカダチはアメリカ人なんだ」


「そうなの? 私、英語は少ししか話せないのよね……英語の勉強が始まったのは、家が無くなる少し前だったし」


 家が無くなる(物理)かぁ……なんて返せば良いのか分からないよ。


「あはは、僕も英語は苦手だなぁ……最近、やっとまともに勉強し始めたよ」


「そうなの? まぁ、イカダチが日本語上手だし困らないわよね」


 紫苑ちゃんは納得したように頷き、机の上に満タンのまま置かれている緑色の飲み物……メロンソーダを恐る恐る持ち上げた。多分、ユモンが先輩ズラでおススメしたんだろう。


「ん゛ッ!?」


 紫苑ちゃんは一口飲んだ瞬間に、慌ててメロンソーダを机の上に置き、ユモンの方を見た後に、安堂さんに視線を向けた。


「ど、毒よッ! 安堂、これは酸よッ!!」


「あァ? んな訳ねェだろ」


 安堂は目を細め、紫苑ちゃんの体に触れて何やら気を流し込んだ後……首を振った。


「特に異常は無いようですが」


「う、嘘ッ!? だって、私の口……の、のどとか、溶けてない? 咄嗟に保護したけど、ちょっとは溶けてるかも……」


「……溶けておられれば、そのように普段通りの声は出られないかと」


「だって、これ……凄い、シュワシュワって口の中が……喉が……」


 あー、そういうことか。紫苑ちゃんの言葉に、僕は得心した。


「紫苑ちゃん、炭酸飲んだこと無いんでしょ?」


「う、うん。確かに、飲んだこと無いけど……これが炭酸なの?」


「そうだよ。慣れたら、爽快感があって良い感じだね」


「……そう、なの?」


 紫苑ちゃんは恐る恐ると、再びメロンソーダに口を付けてごくりと飲んだ。


「……美味しい、かも」


 紫苑ちゃんはメロンソーダをボーっと眺め、不思議そうにまた口を付けた。


「かもって何だよ、かもって! これが美味しく無きゃ、何が美味しいんだよッ!?」


「だ、だって酸と似てたし……」


「似てるって何だよ、酸は酸でも炭酸だぜ!? エールとか飲んだことねェのかァ!?」


「え、エール……? でも、確かに呼吸は変にならなかったかも」


 止めてね、ユモン。ていうか、こっちだと未成年はお酒飲めないって僕言ったよね? ちゃんと伝えたよね?


「……」


「すみません、安堂さん。流石に紫苑ちゃんにお酒を勧めさせるような真似はしないので」


 険しい表情をしていた安堂さんに声をかけると、安堂さんは小さく首を振った。


「いえ……」


「うちのイカダチがすみません……」


 反応が鈍い安堂さんに謝ると、安堂さんは再び首を振った。


「いえ、そういった心配をしている訳ではございません……紛らわしい反応をしてしまい、誠に申し訳ございません」


「あ、いや、大丈夫です。こっちこそ、すみません。コイツが常識無いのは事実なので」


 多分、明日も迷惑かけるんだろうなぁ、ユモン。僕は絶対行かないからね。知らないからね。うん。

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