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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能とドリンクバー

 迷った末にユモンはチーズ入りハンバーグとコーンの鉄板焼きを頼んでいた。それと、僕からドリンクバー付きのセットにした方が良いと助言しておいた。お陰でライスとコーンポタージュも付いて来るようなので、ユモンも喜んでいた。


「安堂さん、まだ帰って来なそうだし……ドリンクバーを先に教えようか」


「なんか、飲み物を自由に選べるんだろ? ま、見させて貰うか」


 お手並み拝見くらいのテンションで僕に付いて来るユモンに、僕はふっと笑った。この悪魔、ドリンクバーを舐めている。


「はい、ここがドリンクバーだよ。冷たいのはこっちの透明なコップに注いで、温かいのはこっちの小さいカップに注ぐ。氷はここで、飲み物が出て来る機械がこれとこれね。こっちが温かいのも出せる奴で、こっちが冷たい奴ね」


「お、おォ……すげぇなこれ……これがドリンクバーって奴か……!」


 ユモンの表情に期待が膨らんでいくのを見て、僕はにやりと笑う。


「その通り。何でも好きな奴注いで良いよ。まぁ、何度だっておかわりして良いから気軽に選びなよ」


「……使い方が分からねぇ」


 コップを取り、カラカラと氷を入れるも、機械の前で立ち止まってしまったユモンに、僕はピッピと機械を操作して見せ、自分の分のオレンジジュースを注いだ。


「ね、こういう感じ」


「お、おォ……つっても、どれが何だかよく分からねぇな」


 確かにそうか。機械には商品名が書かれたアイコンが並んでいるだけで、その正体までは書かれていない。


「えっとね、これがコーラっていう甘い炭酸で、隣がメロンソーダっていう炭酸で、その隣が烏龍茶っていう飲みやすいお茶、隣がジンジャーエールっていう炭酸で、隣がオレンジのジュースで……」


 僕の説明を唸りながら聞いていたユモンは、聞き終えるとその手を迷いなく機械へと伸ばした。


「こいつに決めた」


 メロンソーダを選んだらしいユモンは、氷だけのコップに並々と緑色の液体を注いだ。それはシュワシュワと泡立っており、鮮やか過ぎるくらいの緑色からは圧倒的な着色料の存在感を感じる。


「へぇ、何でメロンソーダにしたの?」


「メロンは一応知ってるからなァ、先ずは知ってる味に近い奴から確かめてやろうって思ったんだよ」


「……そっかぁ」


「おい、何だよその反応」


 僕はユモンの問いを一旦無視して席に戻り、オレンジジュースを机に置いてふぅと息を吐いた。


「なァ、何だよ。この飲み物、なんかあんのかよ?」


「いや、別に美味しいよ。僕も結構好きだし。だけど、何ていうか……メロンは入ってないんだよね」


「ん、どういうことだ?」


「メロンっぽい風味の、甘い炭酸ジュースだよ。メロンソーダは」


 まぁ、世の中にはメロン果汁入りのメロンソーダもあるんだろうけど……こういうファミレスのドリンクバーに置いてあるメロンソーダは、メロンなんて使ってないだろうね。


「じゃあ、そのオレンジジュースもオレンジは入ってねェのかよ!?」


「いや、オレンジジュースにオレンジが入ってない訳ないじゃん」


 僕が返すと、ユモンは信じられない物を見るような目で僕を見てきた。


「どういう法則なんだよ……!?」


「ジュースって名前を使えるのは、果汁100%の奴だけだからね」


「……もう、オレ様は知らん」


 不貞腐れたようにコップを掴み、メロンソーダをぐびっと飲んだユモン。瞬間、その目が見開かれた。


「な、なんだこいつはッ!?」


 立ち上がり、手に持ったメロンソーダを凝視するユモン。立ったまま、再びメロンソーダを口に近付け、今度はゆっくりと確かめるように飲んだユモンはガン開きの目で僕を見た。怖い。


「う、うめぇ……ッ! 美味すぎるだろこれッ!? 何だよこれッ、有り得ねェ!?」


「落ち着きなよ。店内だからね」


 まぁ、認識阻害の魔術のお陰か周りは気にした様子も無いけど、一応マナーは教え込んでおこう。いつかは、ユモンも一人で生きていくことになるかも知れないし。


「……なぁ、治」


「うん……」


 据わった目で僕に語りかけて来るユモン。僕は怖いので視線を外し、オレンジジュースをぐびっと飲んだ。まぁ、美味しいけど。


「オレ様、決めた。こっちの世界で生きていくぜ」


「……マジで?」


「あぁ、マジで」


 マジかぁ……早かったなぁ。


「ただまァ、今日からいきなりって訳じゃないぜ? 治が良いならだが、こっちの世界のことを色々教えて貰ってから一人で生きてくってつもりだ。代わりと言っちゃなんだが、オレ様に手助け出来ることがあれば手を貸してやるぜ?」


「つまり、一旦はこれまでと同じって訳だね」


「まァ、お前からしたらそうかも知れねェけどな。悪魔が手を貸してやるって言ってるんだぜ? もっと喜ぶなりビビるなりしろってんだ」


「ひぇぇ」


 僕が表情も変えずに言うと、ユモンは苛立ったような表情をしていた。僕からすれば、さっきのユモンの目の方が全然怖かった。なんか、普通に食われそうだったし。


「……まァ、良いさ。どうせお前は意味分かんねェからな。そうだ、一緒に過ごしてる内に、いつかはお前の正体も暴かれちまうかも知れねェぜ?」


「僕の正体なんて、生まれた時からただの人間だって決まってるよ」


 僕は所詮、凄い道具を持っているだけの人間だ。正体があるとしたらその道具の方で、僕に正体なんてものは初めから無いんだよ。

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