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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能とファミレス

 僕から銀に紫の結晶が散りばめられた指輪を受け取った安堂さんは、大事そうにそれをしまった。


「……誠に恐れ入ります、確かに拝受いたしました。重ねて御礼申し上げます」


「そんなに畏まらなくて良いんですけどね……」


「いえ、締めるべきところは締めさせて頂きます。執事ですので」


 そっか、執事ならしょうがないか。うん。


「じゃ、ファミレス行く? ユモイカダチも待ち兼ねてるだろうし」


「もう混ざってんじゃねえかそれ……まァ、待ち兼ねては居るけどな」


 僕は頷き、二人を先導して歩き始めた。


「あの、お食事というのはファミレスのことだったのですか……?」


「え、うん。僕はただの高校生だし。ちゃんとしたところで食べられるようなお金は持ってないですよ」


「あんな指輪は持っておられるのに……?」


「はい」


 再び歩き始めると、安堂さんが慌てて僕らを止めてきた。


「あの、お待ち下さい。御食事代をまだ渡しておりませんので……それとも、後で料金分を私が負担する方がよろしいでしょうか?」


「え、一緒に行かないんですか?」


「……お望みであれば、勿論ご同行致しますが」


「じゃあ、行きましょう」


 ユモンは本気出すとめっちゃ食べるからね。後から請求して怪訝に思われるのも嫌だし、先に貰っておいて足りないのも嫌だ。つまり、一緒に来てもらうのがベストという訳である。


「……承知致しました」


「何でも良いが、さっさと行こうぜェ」


 わくわくと笑みを浮かべているユモンに僕は頷き、今度こそファミレスへと歩き出した。




 ♢




 そうして、ファミレスについた僕らは四人用の席についてメニューを眺めていた。ここに来た時にいつも頼むのはビーフシチューオムライスだけど、今日は折角だから別の奴頼もうかな。なんか、高めのメニューとか。


「うーん……ステーキかぁ」


 一番高いのがステーキだけど、ちょっと重すぎるし気分じゃないなぁ。


「すげェ……マジで色々あんじゃねえかよ。しかも何だこれ、滅茶苦茶綺麗な絵がついてんぞ!? こっちは色々便利だな……!」


「イカダチ」


 あんまりバレそうなことは言わないでね、ユモン。流石に異世界からやって来た悪魔なんてことがバレることは無いと思うけどさ。


「ん、おぉ……あぁ……なに、食うかなァ……」


 全然誤魔化し切れてないよ、ユモン。


「……まぁ、私から詮索は致しませんが、色々と隠したい事があるのであれば気を付けた方がよろしいかも知れませんね」


 その場に沈黙が下りる。しかし、執事服と言いユモンと言い、ファミレスに場違い過ぎるね、僕たち。それでも視線がそこまで集まっていないのは、安堂さんの気配の消し方が上手いからか、ユモンの認識阻害が働いてるからなのか。若しくは、凡庸な僕がこのカオスを中和出来ているのかも知れない。


「うん、決めた。ビーフシチューオムライスで」


 結局いつも通りの奴を選んでしまった僕であった。後はドリンクバーと……デザートは後から考えれば良いかな。今日は好き放題に頼もう。デザート三連続くらい行ってやろうかな。ぬふふ。


「なぁなぁ、治……この、これは何だ? さっきのチキンナゲットみたいなのに似てるが」


「鶏の唐揚げだね」


「じゃあじゃあ、これは何だ?」


「コーンの鉄板焼きだね。熱い鉄の器で運ばれてくるから火傷に気を付けてね」


 もう少なくとも日本人では有り得ないような食い気味の質問連打に、僕は諦めたようにすらすらと答えていく。もう、指輪の時点で色々手遅れな気もするし、多少は良いかぁ。

 どうせ、異世界やら悪魔やらのクリティカルな部分までは気付けないだろうし。


「おい、これは何だ!?」


「マルゲリータ……あー、ピザだね」


「……」


「小麦粉の生地の上にチーズとかの色んな具を乗せる奴で、マルゲリータはトマトソースとかバジルの葉っぱとか乗せてる奴」


 無言のまま僕にピザの正体を尋ねて来ていたユモンに、僕は最早躊躇いなく答えた。もう、全ては手遅れだからである。


「……誠に申し訳ございません。お嬢様から連絡が来たので、少しだけ席を外させて頂きます」


「あ、うん。注文だけ聞いときましょうか?」


「いえ、席だけでなく食事まで共にする訳には……」


「寧ろ、目の前で何も食べてない方がやりずらいですよ」


 安堂さんは少しの沈黙の後に頷いた。


「では、僭越ながら……こちらのグリルチキンと、ライスのセットをお願い致します」


「はい、分かりました」


 意外と、結構ちゃんと食べるんだね。遠慮してたし軽食的なので済ませて来るかと思ってたけど……お腹空いてたのかな。


「それで、他にも聞きたいことある?」


「勿論あるぜェ」


 にやりと笑って言うユモンに、僕も笑みを零した。多分、安堂さんは気を遣って席を外してくれたんだろう。僕らが気兼ねなくヤバい会話が出来るように。


「なぁなぁ、このチーズが中に入ってる……この、ハンバーグって奴はなんだ? 滅茶苦茶美味そうじゃねえか? 絵がヤバいぜ絵がよォ……!」


「あぁ、チーズインの奴ね。うん、美味しいよ。ハンバーグは挽肉とパン粉とかを混ぜて固めて焼いた奴で、ステーキと違って柔らかいよ」


 そんなことは気にもせず、口からよだれを垂らしかけているユモンに、テーブルに備え付けられている紙ナプキンを引っ張り出して押し付けた。

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