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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と目覚まし

 日曜日の早朝、僕はガンガンと頭に響く声で目を覚ました。


『……い! おい、治! 起きやがれ!』


「あ、頭痛い……叫ばないでよ」


 起き上がり、僕は漸くそれがユモンの声であることに気付いた。


『お前、良くもオレ様を放っておきやがったな……!』


「だって、ずっと寝てたじゃん……」


『しょうがねぇだろ、暇だったんだからよォ!? 居酒屋でお前らは酒だの飯だの食らってんのに、オレ様は食えねえんだから……不貞寝の一つもするぜェ、オレ様は!』


「はいはい、ごめんごめん。悪かったよ」


 昨日、指輪の中でぐっすりと眠っておられたユモンを、僕は引き出しに入れたまま忘れていた。とは言え、今の今まで眠っていたんだから別に良いだろう。


「それで……どうしよっか」


 何を食べさせるかとかの問題もあるんだけど、どういう感じで食べさせるかという問題もある。コンビニで適当に買って来て部屋で食べさせるとかでも良いには良いんだけど、ずっとそうする訳にも行かない。流石に異世界のご飯を食べさせると豪語して、コンビニのご飯だけしか食べさせないのは可哀想だろう。


「まぁ良いや、歯磨いたりしてくるから待ってて」


『んなもん、魔術で良いじゃねえかよ』


「郷に入っては郷に従え、って訳だよ」


『あ……? そういうことか、道理で魔力がやけに薄いと思ったんだよ』


 納得したように声を上げるユモン。僕はベッドから降りて、引き出しから現代にはそぐわない雰囲気の黄金の指輪を取り出した。


「ほら、ここが僕の世界だ」


 僕は黄金の指輪を軽く嵌めて、窓からの景色を見せた。


『おぉ、おぉぉ……これが、異世界かッ!』


「うん、地球って言うんだ。この星は」


『地球、か。クァルナとは随分違うんだな』


「クァルナ?」


 僕が聞くと、ユモンは呆れたように溜息を吐いた。


『オレ様達の住んでるあの星のことだよ。そんなことも知らずに居たのか、お前は……』


「あはは、来たばっかりだったからさ」


『なるほどなァ……しかし、本当に美味い飯なんてあんのかよ? なんつーか、自然の匂いが全然しねぇぞ』


「まぁ、ここは割と都会だからね……あ、そう。この国は日本って言うんだ。英語で、ジャパン」


『いや、英語も知らねぇよ別に』


 だろうね。言ってみただけだよ。


「まぁ、取り敢えずちょっと待ってて。窓からの景色でも見てると良いよ」


『あぁ、暫くはそれで退屈しねぇ』


 僕は窓際に黄金の指輪を置き、歯磨きをする為に部屋を出て洗面所へ向かって階段を降りた。




 ♢




 歯磨きと洗顔を終えてスッキリした僕が二階の部屋に戻ってくると、窓際にあった筈の黄金の指輪が消えていた。


「ユモン……?」


 僕は眉を顰めて、鍵が閉まっていた筈なのに開いている窓を見た。


「ほい」


 僕は手を伸ばし、その手に黄金の指輪を取り戻した。そのまま、開いた窓を閉じて、再び鍵も閉めた。


「どこ行ってたの、ユモン」


『いや、変なカラスに連れ去られてたんだよ。ありゃ、どっかの使い魔だろうな』


「へぇ……殺してない?」


『殺してねぇけど、誘拐されたら流石に反撃しても良いよな』


「うん、まぁね。でも、ユモンはこの世界だと結構強いと思うから出来るだけ優しくしてあげて欲しい」


『まぁ、魔素濃度も向こうより低いしな……魔術も大して育ってないのか? いや、お前が使ってた魔術は結構洗練されてたよな?』


 ユモンの言葉に、僕は首を振った。


「アレは僕の力で作ったり、改良した魔術だから……でも、科学的知識が関わる魔術なら向こうよりもレベルは高いだろうね」


『ほぉ……ところで、オレ様が連れ去られた件については聞かなくて良いのかよ?』


「あ、聞いておこうか。どういう感じで連れ去られたの?」


『飛んでたカラスが突然こっちに向かって来て、開錠の魔術で窓を開けてオレ様を攫って行ったのさ』


「へぇ……偶然って感じ?」


『多分な。突然、進路を変えてこっちに向かって来た感じだったからよ』


「なるほどね」


 となると、別に僕の存在を認知していたって訳じゃなさそうだ。単純に、この黄金の指輪が魅力的に見えて盗られたってところかな。


「こっちだと、なんかヤバそうな魔道具的な感じに見えちゃうのかなぁ」


 この指輪、元が魔術書なだけあって特有の雰囲気的なものがある。魔術士であれば、内包された魔術的構造をエネルギー体で感じ取ってしまうのかも知れない。


「それか、カラスだから光り物に惹かれて持ってっちゃったとか」


『だとしたら、随分と躾のなってない使い魔だな……だが、それは無いと思うぜ』


「どうして?」


『アレは、恐らくだが操作状態の使い魔だった。主が直接操作してる状態にあるって訳だ。こっちに飛べ、アレを見ろ。そこに止まれって感じでな』


 確かに、それならカラスが勝手に持って行ったって線は薄いだろう。


「……まぁ、偶然狙われただけならそんなに気にしなくても良いかな?」


『いや、流石にもう少し危機感持った方が良いと思うぜ……?』


 そっかぁ。正直、現代の魔術士はなんかちょっと怖いんだよなぁ。もろに殺し合ってる現場を見たって経験があるからだろうけど。あんまり関わりたく無いよね。


「うん。それなら、一応調べてはおこうか」


 もし、それでこの家が襲撃なんてされたらたまったもんじゃないしね。

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