全知全能とパーティ
受付嬢さんの視線を何とはなしに追ってみると、そこには三人の少年少女が立っていた。と言っても、僕と同じくらいではあるけど。
「来ましたね。彼らがそのパーティです。登録名は、星導の剣ですね。リーダーの名はアシラです。まだ情報が欲しければ可能な範囲で教えても良いですが」
「いえ、待たせるのもアレなので行ってきます。ありがとうございました!」
僕は頭を下げて、受付嬢の前から去る。そして、足早にギルドに現れたパーティの下へと向かった。
「お待たせしてすみません。ウィザードの宇尾根治です」
「へぇ、アンタが……」
左に立っていた少女が、僕の顔をじろりと見る。赤銅色の髪をした、獣のような耳を持つ褐色の肌の少女だった。にやりと笑みを浮かべる口元には、牙が覗いている。
「こら、ウィー」
「ヘヘッ、悪い悪い……おれはウィーだ。星導の剣の斥候はおれが担当してるよ」
「よろしくお願いします」
ウィーを名乗った少女の挨拶に、僕もぺこりと頭を下げる。
「……ナーシャ。色々やるけど、得物はナイフ」
「よろしくお願いします」
短く伝えたのは、右に立っていた髪も肌も白い少女。多分だけど、魔術も使える筈だ。僕は勿論、残りの二人よりも強い魔力を感じる。当然、僕はぺこりと頭を下げた。
「最後に、僕かな。僕はアシラ。星導の剣のリーダーで、前衛を担当してるよ。と言っても、このパーティは皆臨機応変に前衛にもなれる。ただ、勿論君にはその役割は期待してないから安心して欲しい」
「良かったです。前衛にはあんまり自信が無いので……よろしくお願いします」
彼らの真ん中に立つアシラと名乗った少年は青みがかった綺麗な黒い髪で、結構なイケメンであるように見えた。美少年か。
「つっても、あんまり何にも出来ねぇと困るぞ? 弱いのに近付かれた時くらいは、自分でどうにかしてくれねぇとだからな」
「そのくらいなら、多分大丈夫です。バリア張れるんで」
僕はパントマイムの初めのように手を突き出してみたが、受けは良くなかった。
「なぁ、これから仲間になるって言うんだしさ。その敬語とかやめてくんね? おれ、そういうのヤなんだよ」
「ん、そう? なら、普通に喋らせて貰うよ」
そう言えば、そうだった。前にも警告されてたからね。気を付けないといけない。
「おう、頼むぞ。ところで、何だけどさ……アンタ、杖は?」
「確かに、杖のないウィザードなんて聞かないね。忘れて来たというなら、僕らはここで待っているよ」
「あ、いや……これだよ。この指輪が、僕の杖なんだ」
「……指輪が、杖?」
ナーシャが眉を顰めて僕の指輪を見る。黄金の指輪は、光を反射して煌めきを返すだけだった。
「うん、そうなんだ。これで、結構便利なんだよね」
実際、中身は魔術書だし……使おうと思えば、割と便利な代物ではある筈である。ユモンが居る時なら、特にね。
「そうか。まぁ、そういうことなら心配はいらないね」
アシラが言うと、ウィーは納得したように怪訝な表情を解いていた。しかし、ナーシャだけは未だに指輪にじっと視線を注いでいる。
「んじゃ、アシラ。早速行くか?」
「行こうか。立ち話を幾ら続けても、実力は測れないし」
「……早くしよ」
歩き始めた彼らに何となく疎外感を覚えつつも、その背を追って僕はギルドを出た。
門を通って街を出て、辿り着いたのは僕が最初に居た森だった。今日は別に依頼を受けて来た訳では無いようで、飽くまで僕の実力を試す為に森を歩いて魔物を倒したりするらしい。
「いてッ」
『何してんだ、お前……』
不注意で木の枝に引っかかった僕は、転びそうになってその場に膝を突いた。呆れたような悪魔の声が指輪から聞こえる。
「おい、治。大丈夫かよ?」
「う、うん。大丈夫」
「気を付けた方が良い。森には危険が多い。触れただけで毒に蝕まれるような植物も、中にはあるからね」
なのだが、熟練の冒険者である彼らと共に森を歩ける程の実力は、僕には無いようだった。はっきり言って、歩くスピードが全く合わせられていないし、警戒の仕方とかも全然出来ていなかった。
「ハハッ、お前このままじゃ不合格だぜ?」
「……足手まとい」
「あ、あはは、だよねぇ……」
二人の辛辣な言葉に、僕は愛想笑いしか返せなかった。何とか、魔術の腕を見せて一発逆転を図る他あるまい。そう、僕が決意を固めたと同時に、正面から鋭く尖った銀色の角をした立派な鹿が現れた。何というか、威圧感が凄い。
「アシメケラだ……どうする?」
「折角だ。戦おう。強敵を相手にする方が、彼の実力も測れるだろうし」
「……了解」
そして、星導の剣も戦うことを決めたようだ。つまり、僕も戦闘に混ざらなければいけない。思えば、仲間の居る戦いなんてやったことも無いけど……まぁ、何とかなるよね。
「前衛は僕がやる。ナーシャ、お願い」
「『あらゆる重荷も、雪のように』」
ナーシャが腰から短杖を抜き放ち、呪文を唱えると、アシラが白いオーラが纏った。
「キィィィィ……ッ!!」
そして、それに返すように鹿の魔物が鳴き声を上げ……その銀の角から、濃密な魔力が溢れ出した。




