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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と斡旋

 あの後、宿屋を去った僕は指輪の中に戻ったユモンと話しながら、ギルドで時間になるのを待っていた。


「……そろそろ、かな」


 正午が近い。僕は列に並び、周りには聞こえないように念話でユモンに話しかける。


『僕は今からパーティを斡旋してもらうけど、勝手に出てきたりしないでね』


『ハッ、そんくらい心配しなくても分かってるに決まってんだろ?』


『じゃあ、滅茶苦茶美味しそうな物とか出て来ても大丈夫だよね?』


『……ヒヒッ』


 ヒヒッ、じゃないけど!? ユモンと僕は契約してるけど、それは主従契約とかじゃない。僕が悪魔の力を自由に使ったり、ユモンを従わせたりなんてことは出来ないのだ。


『ホント、お願いだからね……』


『ま、分かってるさ。下手なことはしねぇよ』


 本当かなぁ。不安を胸に抱いた僕だが、最悪どうとでもなりはする。今は言質を取ったということだけで良しとしよう。


『そういや、お前……どうやって念話身に着けたんだよ。さっきまでは普通に話してただろ?』


『それは、アレだよ。不思議パワーだよ』


『出たよ、それ……マジで何なんだよ不思議パワーって』


『なんだろうねぇ』


 僕もこの力のことは、詳しくはちゃんと分かっていない。聞いたことはあるんだけど、小難しくてどうにも分からなかった。


「次の方」


 冷たい声に僕はぎょっとして、黄金の指輪からカウンターの方に慌てて視線を戻した。どうやら、既に僕の番が来ていたようだった。


「あ、すみません」


「構いません。パーティの斡旋についてのお話ですね?」


 声をかけて来た受付嬢さんは僕が最初に話した時と同じ、背の高く目の細い美人な受付嬢であった。でも、ちょっと雰囲気が怖い。


「はい、お願いします。見つかりました?」


「えぇ、ウィザードを募集しているパーティが見つかりましたよ。リーダーが暗鋼級の三人パーティですね。但し、パーティに入れるかは一度実力を見てからということになります」


 暗鋼級……下から三番目だったかな。ダナウさんがその上の煌銅級で、その上がレティシアの真銀級、とかだった気がする。下から三番目と言っても、ランク分布がピラミッド状になっている冒険者の中では、既にそこそこの実力を身に着けた冒険者であると言えるだろう。中堅の下側って感じかな?


「でも、そんなパーティにいきなり入れるもんなんだね。僕、輝石級だけど」


「えぇ。腕の良いウィザードだとお話したところ、一度試してみるとのことで」


「えっ」


 なにそれ、凄いプレッシャー。でも、冒険者って商売はきっと見栄を張って威張っていることも必要なのだろう。僕も、ドヤ顔でそのパーティに合うべきだろうか。新進気鋭の天才魔術士ですって感じで。


「ただ、試した結果にパーティに入れないという可能性は十分にありますので、その場合はまた私に声をかけて頂ければ次のパーティにお声がけ致しますよ。勿論、自分で探して頂いても構いませんが……余計であったならば、申し訳ございません。パーティに入るという関係上、ぼんやりとした実力程度は必然的に伝わるものかと愚考し、私から伝えてしまいました」


「いや、まぁ、別に良いんですけど……僕、天才魔術士って言われる程には依頼熟してませんよ」


「いえ、そこまでは言っておりませんが?」


 ヤバい、さっき考えてたワードがそのまま出ちゃった。


「あの、アレです。腕の良い魔術士みたいな」


「あぁ、なるほど。それでしたら、レティシア様のお墨付きがあるというのと……前回の依頼をあっさりと熟されていたので、腕の良いウィザードであるというのは間違いないかと判断致しました」


 あー、あの依頼ね。確かに、アレはヤバめの依頼だったかも知れない。


「そして、ここからは私の予想に過ぎませんが……報酬が少なくても構わず選んでいたところを見るに、解呪程度であれば暇潰し程度に行えるような実力があるのかと考えておりますよ。それこそ、天才魔術士と呼べるような……」


「い、いや、そんなことはないけど……」


「かも、知れませんね。ですが、そう推察されるような言動を貴方はされておりますので、そういったことを悟られたくなければ、悟られぬように行動することをお勧め致します。勿論、それでも構わないというのであれば今のままでも問題は無いかと思いますが」


「……なるほど」


 確かに、そういうところの周りの目は気にしてなかった。解呪って結構専門知識の必要な依頼で、それをあっさりと熟して直ぐに帰って来る輝石級の冒険者っていうのは、特異に見えてもおかしくないかも知れない。


「うん。十分、気を付けるよ」


「それと、あの……杖の方は?」


 受付嬢さんが、怒っているというよりも最早困惑しているような声色でそう聞いてきた。


「あ、えっと……これです。これが、杖の代わりみたいな感じで」


 僕はそう言いながら、ユモンの宿っている黄金の指輪を見せた。元は魔術書だし、杖の代わりと言ってもそんなに嘘にはならないだろう。


「……そうですか。貴重な物であれば、盗られないようにお気を付け下さいね」


「うん、気を付ける」


 受付嬢さんは小さく息を吐き、その細い視線を僕の肩を通り過ぎた先に向けた。

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