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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と受注

 貼り付けられた依頼達をじーっと眺めていたんだけど、どうにもしっくりくるものが無い。この街の中で、数時間以内に終わって、尚且つ僕の等級でも受けられる依頼……それが、見つからない。一応、数個はあるにはあったんだけど、ちょっと気が引けるような依頼だった。魔術の家庭教師とか、冒険者ギルドに頼む依頼じゃないと思う、普通に。


「んー……」


 そうだ。さっきの男の人が言ってたけど、受付の人に聞けば今は貼り出されてない依頼を教えてくれるとか言ってたよね。今は丁度受付も空いてそうだし、行ってみようか。


「すみません、ちょっと輝石級で受けられるもので、良い依頼が無いか探してるんですけど……」


 と言って、僕は冒険者証を見せながら受付の人に求めている条件を話した。因みに、受付の人は前に担当してくれた人とは別の人だ。オレンジの髪をした、結構若い女の人だ。下手すると、僕と同じくらいの歳なんじゃないかな。


「はいはい、条件を満たしているものを幾つか見繕ってお見せいたしますので、ちょっとお待ち下さいね!」


 そういうと、受付の人はカウンターの裏でがそごそと音を立てた後、数枚の紙を僕に差し出した。


「二時間程度で完了できる依頼というのが難しく、治様の技量次第ということにはなるのですが……」


「はい、ちょっと見てみますね……」


 一枚目が、廃屋の害虫及び害獣駆除……あちこちに害虫の巣が出来てるからそれを掃除しつつ、その害虫だか鼠だかの駆除までやって欲しいと。廃屋自体は広くは無いらしいから、確かに二時間以内には終わるかも知れない。でも、絶対に嫌である。森で虫が飛んでるくらいは気にならない僕だが、自ら巣で沢山になってる魔境に飛び込むつもりは無い。


 二枚目は、ゴミ掃除……今は使ってない屋敷に溜まってるゴミを掃除して欲しいと。でも、情報が少ないなこれ。本当に二時間以内に終わるかも分からないし、さっきの依頼みたいに虫だらけになっている可能性も高い。嫌である。


 三枚目が、ストーカーの調査……これ、依頼出されたの自体は結構前だけど、本当にまだ居るのかなストーカー。居ないってことの証明が出来れば良いのかも知れないけど、それを二時間以内に終わらせる自信は無いよ僕。あと、依頼出した本人も忘れてるでしょこれ。


 四枚目……これで最後か。えっと、家の地下室が呪われているので、解呪して欲しいと。階段を下りるだけで気分が悪くなって、部屋を開けようとすれば更に気分が悪くなると。しかも、鍵を開けても扉が開かないらしい。大丈夫? 地下からガスとか漏れ出したりしてない? でも、異世界だし本当に呪われてる可能性もあるのかな。

 だとしたら、物凄い厄依頼な感じはするけど……報酬も、他よりちょっと高い程度だし。どんな呪いかも全然分かんないし。解呪しようとして死んだらどう責任取ってくれるんだ。くれないか。


「あの、この依頼って輝石級で受けられる奴なんですか?」


「はい。この依頼は危険性というよりも専門性の方が高い依頼なので、輝石級でも受注可能となってますよ」


 でも、依頼に失敗して死んでも如何なる保証もしかねますって奴だよね。最初の契約にも書いてあったけどさ。察してはいたけど、冒険者って結構ブラックなのかな。夢を見れるような仕事はちょっと怪しい気がしてきた。

 まぁでも、言ってることは分からなくはない。冒険者としての実力が高く無くても、解呪に関する知識とか……つまり、専門性が高い冒険者ならクリア可能な依頼だから、等級が低くても受けられるってことだろう。


「じゃあ、これ受けます」


「……え、本気ですか?」


 本気ですかとか言っちゃダメでしょうが。


「一応条件には合ってそうなので出しましたけど……これ、結構ヤバい依頼かも知れませんよ? 危険度も良く分かんない癖に、報酬もあんまり高くないですし……」


 流石に明け透けに言い過ぎじゃないかな!? え、受付嬢ってこんなにアレなんだ、依頼にネガティブなこと言っちゃえるんだ。


「おい、ミディ。余計な事を喋んじゃねえ」


 と、後ろを通ろうとした男が目を細め、ミディと呼ばれたオレンジ髪の受付嬢の頭を軽く叩いた。


「あたっ!? す、すみません……やっぱり、今の話は忘れて下さい!」


「全く、お前は……あぁ、こんな依頼出てたな。おい、本気でこんなの受けるのか?」


 自分も言うのかよ。そう心の中で突っ込んだ僕を、男は睨み付けるような目で見ていた。


「うん、受けるけど……」


「……お前が死んだら、俺がレティシアにどやされるんだが」


 溜息を吐き、男は仕方なさげに依頼書を拾い上げた。


「まぁ、アイツが認めるくらい腕の立つ魔術士ってことなら、解呪くらい出来るかも知れんな」


 男はカウンターの裏から判子を取り出し、依頼書に押し付けた。判子、あるんだ。


「ほら、正午にはまた来なきゃいけないんだろ? 早く行ってこい」


「あ、はい。ありがとうございます」


 押し付けるように差し出された依頼書を受け取り、五十代程であろう男の顔を見上げる。顔には皺と傷が刻まれ、表情は相変わらず険しい。ミディさんが小さくなっているところを見るに、多分この男の人は結構このギルドでも偉い人なんだろう。レティシアとは反対に、職員側で。


「じゃあ、行ってきます……」


「はい、気を付けて下さいね!」


 元気に声をかけてくれたミディさんに僕はぺこりと頭を下げつつ、冒険者ギルドを後にするのだった。

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