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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と等級

 魔術による追い風を得た僕は、すいすいと世界を進んでレティシアの背に追いついた。


「ね?」


「ッ、まさかホントに追いつくなんて……正直、驚いたわ」


「ふふん、これでも僕は……そう、ウィザードだからね」


「確かに、ただのメイジじゃないみたいね……しつこくウィザードを名乗るだけのことはあるじゃない!」


 レティシアは追いついた僕に驚き、しかしそれでも笑みを浮かべると……その身から緑色の光が溢れ出し、レティシアは風の如く駆け出した。


「なッ!?」


 更に加速したレティシアの速度は、さっきの三倍はあるように見えた。なんて考えている間に、レティシアの姿は見えなくなっていく。


「絶対、いつもはあんな本気で走ってないでしょ……!」


 僕はむきになっているであろうレティシアに呆れながらも、また自分もむきになっていることに気付いた。何故なら、僕の口は新たな魔術を唱えだしていたからである。


「『大いなる力の具象化エト・マグニ・ヴァートゥティス』」


 僕の身体の内側から、見えない力が沸き上がる。その力には色も無く、ただ純粋に力として僕の中にあった。


「ふっ」


 大地を蹴り、僕は世界を駆け抜けた。一度地面を踏むだけで、凄まじい距離を僕は跳ぶ。それは走っているというよりも、スキップでもしているかのようだった。


「やっ」


 レティシアに並び、空中で横を向いて手を上げると、レティシアは目を見開き、動揺からか転びそうになっていた。


「あ、アンタ……な、何でそんな速いのよ!? ウィザードの癖に、私より速いなんて……!」


「やっぱり、ウィザードたるもの身体強化にも備えが無いとね」


「それは、そうでしょうけど……ここまで特化してる奴、中々居ないわよっ!」


「へぇ、そうなんだ?」


 僕が言うと、レティシアは走っているせいか怒っているせいか、赤くなり始めた顔を向けて睨んで来た。


「当たり前でしょう!? これでも、私は真銀級冒険者なのよ!?」


「……真銀級?」


 僕が尋ね返すと、レティシアは頷いた。


「そうよ。冒険者になりたがってる癖に、冒険者の等級も知らないのね」


「うん。真銀級の冒険者ってのは上から何番目なの?」


「三番目よ。いや、一応四番目ね。上から天晶級、星玉級、緋金級、真銀級、煌銅級、暗鋼級、聖鉄級、輝石級ね」


「ん、ん……?」


 僕の出来の悪い頭には、残念ながら殆どの言葉が入ってこなかった。


「でも、天晶級なんて世界にも数人しか居ないし、等級のバランス的にも考慮されてないわ。そもそも、既存の等級の中に置けない規格外をそこに置いてるだけだもの。だから、実質的には星玉級までが冒険者の等級と思っていても良いわね」


 ……ゲームで言う所のプロゲーマーが天晶級って感じで、星玉級が最高ランクだと思えば良いのかな? 分かんないけど。


「まぁ、うん。凄いんだね?」


「わ、分かってないでしょうアンタ……!」


 下から五番目で、上から四番目……うん、まぁ丁度僕がハマってるゲームのランクと同じくらいだね。


「真銀級から上は、冒険者の中でも一握りだって言われてるのよっ! 街に一人、真銀級以上の冒険者が居れば安泰だなんて昔は言われてたんだから……!」


 凄そうだけど、昔はってことは今は違うんだね。今までの話から察するに、真銀級のレベルが下がったというより世界全体の危険度が上がったせいなんだろう。


「良し、そこまで言うなら見せてやるわよ。真銀級冒険者の本気を……ッ!」


 顔を赤くしてまた速度を上げようとするレティシアの肩を掴み、僕は動きを止めた。


「落ち着いてよ。もう、目的地は目と鼻の先だよ?」


「……」


 僕の視線の先を見たレティシアは、そこに目的地の街があることを思い出して表情を消した。その街は厚い石造りの城壁にぐるりと囲まれており、まるで要塞の如き威圧感があった。凄いぞ、かっこいいぞ。


「もう、萎えたわ……帰る」


 しかし、異世界にワクワクを高まらせている僕とは対照的に、レティシアは力のやり場を失ったことで真っ白く燃え尽きており、言葉通り萎えていた。


「待って、困るよ。君には街の案内と、ギルドの手続きを手伝って貰わなきゃいけないんだから」


「アンタ、結構図々しいわね!? ……まぁ、良いわよ別にそれくらい」


 冗談のつもりだったんだけど、レティシアは仕方なさげに引き受けた。分かってはいたけど、優しい人だよね。


「本当に良いの? お金とか一切持ってないから、今は何も返せないんだけど」


「通行料どうするつもりだったのよ、アンタ……」


「それは……物々交換とか?」


「交換するものなんて持ってないじゃない。あ、その服なら売れるかも知れないわね? 素材もデザインも全然見ない奴だし……ていうか、そんな服どこで手に入れたのよ」


 レティシアは僕の格好を下から上にと見定めて言うが、僕は首を振った。


「売らないよ。これ、僕のお気に入りだから」


 見た目は美的センス皆無の僕からすればただの黒い服でしかないが、ちょっとお高いだけあって着心地が凄く良いのだ。ポケットも内外どっちもあるし、便利なのである。


「……じゃあ、私が居ないと街に入れないじゃない」


「……この恩は、必ず返すよ。レティシア」


 僕は異世界ということもあり、キザな眼差しでレティシアに視線を返した。しかし、依然としてレティシアの視線は温度が低いままであった。

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