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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と異世界

 僕は帰宅した後、自分の部屋のベッドの上で胡坐をかいて悩んでいた。


 何に悩んでいるかと言えば、どんな異世界に行くかについてだ。


 まぁ、異世界に行くという発想自体は前からあった。だけど、その時の僕は魔術をとにかく好き放題に試せる場所として裏世界を作ることを選んだ訳だ。でも、今は違う。今の僕は、魔術を実戦で試せる場所を探しているからだ。

 と言っても、人を相手にぶっ放すことは流石に難しい。となると、魔物的なモンスター的なあれそれが居る場所が好ましいのである……絵空が言ってたみたいに。


 近未来だとか、サイバーパンクな世界も僕個人の興味としては強いけど……やっぱり、魔術で戦える相手を探すならファンタジーな世界が良い筈だ。それも、折角なら魔王とかが人類を襲ってる感じの世界の方が良い。その方が、全力で戦えそうな気はするしね。


「よし、決めた」


 僕は無限に広がる世界の中から、一つの世界を選び出した。手を伸ばすと、吸い込まれるような感じがする。既にゲートは開いた。後は、時間経過か僕の部屋に誰かが入ろうとした時に戻ってくるように設定されている。ゲームは一日一時間……じゃないけど、またゴーレムと戦い続けた時みたいになるのは避けたかったからだ。


「れっつごー、異世界」


 僕は軽い調子でそう言い残して、遂にこの世界から姿を消した。






 ♦




 僕は気付けば、森の中に居た。いつものように透明になっていたり、黒い靄で覆っていたりもしていない。この世界では、僕の顔も声も隠す必要は無いからだ。


「おー、空気が凄く澄んでる感じがする。のは、単純に森の中だからかな?」


 一応、地球人でも問題無く活動できる世界を選んではいるから、呼吸困難で死んだりとか、空気の毒性が強くて死んだりなんてことは無い筈だ。空気が地球よりも澄んでいるように感じたが、それはただ単に森の中だからかも知れない。


「でも、確実に魔素濃度は濃いね」


 つまり、体も地球の生物より強いだろうし、魔術もより強力なもので溢れている筈だ。まぁ、そういう世界を選んでるんだから当然ではあるんだけど。


「……っと」


 背後から、気配が迫る。飛び掛かって来た緑の体毛をした狼を、僕は魔術の障壁を作って弾き飛ばした。この程度の魔術なら、詠唱すら不要だ。


「グルルゥ……!」


 狼は凶悪な顔で僕を睨んで吠えている。しかし、僕はその狼を殺す勇気がどうにも湧かなかった。狼は僕を殺そうとしていて、僕には狼を殺す権利がある筈だ。多分、見た目が犬みたいだからだろう。


 こんなところで躊躇してたら、魔術で戦うなんて叶わぬ夢だ。


 それに、これだけ凶暴な狼だ。ここでこの狼を見逃せば、他の誰かが犠牲になる可能性もある。僕は覚悟を決めようと、飛び掛かってくる狼に向かって手を伸ばし……


「◎◆≠⊂!」


 放たれた先端に炎の灯る矢が、狼の体を貫いた。


「ッ!?」


 僕は狼の体をサッと避け、矢の飛んできた方向を見た。


「⊂◆=⊂……」


 そこには、赤い髪を後ろに纏めて結んだ若い女が弓を構えて立っていた。どこかその表情は呆れているようにも見えるが、それでも警戒はしているのか番えられた矢はこちらを向いていた。

 取り敢えず言葉が通じないのは困るし、ここからは自動翻訳で行こう。


「あー、えっと……どうも」


「どうも、じゃないわよ。何やってんのアンタ」


 僕は返答に困りつつも、隣に横たわっている死体と化した狼を見た。


「今の一発で、死ぬんですね」


「……頭を火の矢で貫けば、そりゃ死ぬわよ。特に、グリーンウルフは熱に弱いんだし」


「なるほど……」


 僕は感心したように頷き、グリーンウルフと呼ばれた狼の死体に近付いた。確かに頭を美しく真横から射抜いており、頭の内部は熱で融けてしまっているのか、頭の形が微妙に変形しているのを見て僕は若干吐き気を催した。


「……で、アンタは何なのよ。何も持ってないし、服装も変だし、ここで何やってんの? まさか、貴族って訳でも無いでしょ?」


「僕は……冒険者になりたいんです」


 僕は絵空からいつも聞いていた異世界の妄想を思い出し、そう返した。


「冒険者に? 確かに、最初に何かで狼を止めてたみたいに見えたけど……もしかして、メイジなの?」


「うん、魔術なら使えますよ」


「ふーん……じゃあ、狼を止めてたのは防御魔術?」


「そうですね、障壁を展開する魔術です」


 僕は第一村人ということもあり、親切に全てを話した。すると、女は呆れたような顔で弓を下げるのだった。


「自分の手をそんな簡単に晒すなんてどんな世間知らずよ、アンタ」


「……あえてね」


 僕はふっと笑みを浮かべ、意味も無く意味ありげに呟いた。

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