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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能とゴーレム

 暗い闇を纏った僕は、さっきとは比べ物にならない速度で駆け抜けた。ゴーレムが振り下ろす黄金の斧も、今度はギリギリで擦り抜ける。


「良しッ」


 僕は青い結晶のような剣で、ゴーレムの脇を左から右に斬り裂いていこうとする。氷の力が籠められたこの剣を食らえば、例え切断まで至らなくても斬られた部分が凍結して動きを阻害できる。


「ッ!?」


 その瞬間、ゴーレムの左腕が僕を薙ぎ払うように振るわれた。僕は咄嗟にその場から跳び退き、その腕を回避した。


「危ない……ブラフだった」


 斧の振り下ろしはさっきの勝利の決め手だった。それを警戒されるのは割り切って、その後の処理を先に考えてたって訳だ。暗影纏い(ダークシャドウ)による強化が無ければ、絶対に避けられて居なかっただろう。


「……」


 ゴーレムは無機質に僕を睨んでいる。きっと、僕が魔術を唱えようとすればその瞬間に動き出すつもりだ。これまでの戦闘で、ゴーレムは僕に魔術を使わせることの危険性を学習している。


「『闇よ――――」


 詠唱を開始した瞬間、ゴーレムが黄金の斧を振り上げて襲い掛かって来た。だが、僕はそれを誘っていた。振り下ろされる黄金の斧に合わせて、相手の背後に回り込めばいい。そうすれば、反撃を貰う可能性も低い。


「なッ!?」


 飛び込もうとした僕に振るわれたのは、黄金の斧では無く、ひょろ長い腕だった。ただの腕と言えど、ダイヤモンドなど比べ物にもならない硬度を持ち、音速を超える速度で振るわれるそれは人を殺すには十分すぎる凶器だった。


「くッ」


 僕は咄嗟に足を止め、青く輝く剣でゴーレムの腕を受け止めた。しかし、殺し切れない衝撃は僕を百メートル以上吹き飛ばす。冗談のような距離を吹っ飛ばされた僕は混乱しながらも立ち上がり、そして既に振り下ろされていた黄金の斧に頭をかち割られた。


「……二敗、ですか」


 僕はふぅと息を吐き、地面に座り込んだ。


「もう、知らないからね……!」


 そしてやっぱり、怒りを力に立ち上がった。どうして、僕が何度も石のゴーレムに負けなければならないのか。何を隠そう、僕は全知全能なんだぞ。


「『星天の加護(モード・アステール)』」


 僕の体に、青と黒の混じり合う神秘的な輝きが宿った。


「星の、宇宙の力を少しだけ借りられる魔術だよ。恐ろしいだろう?」


 僕は何も言うはずもないゴーレムに高らかと宣言し、自分の体を見下ろした。僕の体の中心に近い部分が、空と宇宙が混ざり合ったような美しい光に透けていた。


「さぁ、コスモパワーを以て第三ラウンドだ!」


 目にも留まらぬ速度で飛び込んだ僕に、ゴーレムが黄金の斧を合わせた。カキンと、剣が斧で弾かれる。


「な、何ぃ……ッ!?」


 小物臭く叫んだ僕に、ゴーレムは答え合わせをするようにその体を覆う力を高めた。魔力だ。その身に満ちている圧倒的な魔力が、測り切れない程の魔力に満ちる天界で数十億年を眠って過ごすことでその身に溶け込んだ魔力が……今、発揮されているのだ。



「――――第二形態、なんて」



 人よりも圧倒的に賢いゴーレムのことだ。僕の趣旨に乗っ取り、僕にある程度力を合わせて戦っていたんだろう。そして、本気を出さなければ対抗出来なくなったから魔力を解放したってところか。今までは、黄金の斧を十全に扱う為にしか魔力を使っていなかったけど、遂にその本領を見せて来た訳だね。


「良いよ、受けて立とうじゃないか」


 僕はちゃきりと青い剣を構え、ゴーレムと向き合った。今度は雑に突っ込みはしない。飽くまでクレバーに勝ち切ってやる。


「勝負だッ!!」


 僕は宇宙の力を身に宿し、凍結の力を宿した剣を手にゴーレムに挑んだ。






 ♦




 僕はごつんと頭を打ち、目を覚ました。


「おい、治。寝不足か?」


「あは、まぁね」


 善斗に言われ、僕は乾いた笑いを返した。


「もう授業始まるぞ……顔洗ってきた方が良いんじゃないか?」


「うんにゃ、大丈夫」


 結果から言うと、僕は結局負けた。そこから更に三回くらい挑んだけど全部負けた。流石に天界に数十億年放置したままだったのは良くなかった。確かに魔力量やばいなぁとは思ってたけど、アレで圧縮されてるから実際はもっとヤバかった。どうしよう。まぁ、別にどうしようもないか。一応、天界から裏世界の方の地球に移しておいたからあれ以上の魔力を吸うことは無い筈だ。


「深夜テンションって、良くないよねぇ……」


 多分、僕はその状態に入っていたんだろう。あの時、謎にテンション高かったし。いやぁ、反省反省。


「……本当に大丈夫なのか、お前」


「大丈夫だってば。次は勝てるし」


「何にだよ」


 まぁ、本気を出していないのは僕だって同じだ。次はより強力な魔術を身に付けてから挑んでやる。


「……なんか知らんが、程々にしとけよ」


 そう窘めてから去って行った善斗に僕は若干熱を冷まし、仕方なく次の授業の教材を取り出しておくことにした。

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