全知全能と裏世界
そして、いつも通りに授業を終えた僕は、家に帰って今日も自分で作った星の中に居た。自分だけの世界、僕が裏世界と呼んでいるその世界に作られた美しい星は、地球を模倣して創られていた。
その星には緑が豊かに実っており、陸上生物もそれなりに蔓延っていた。とは言え、虫みたいな奴らばっかりだが。
「凄いなぁ……ホントに」
その星は数十億年の時を経て更に進歩を遂げていた。あと四億年もすれば人類が生まれる頃合いだが、流石に僕はそこで時間の加速を緩めた。ただ、地球を模倣した筈の星は何故か地球とは僅かに異なる進化体系を進んでいるようだった。概ねは同じなんだけど、少しだけ生まれている生物が違うといったところだろうか。進化のスピードも地球より僅かに早いだろう。
そして、僕は折角地球と逸れた道筋を歩み出したのならば少し手を加えたいと思っていた。といっても、いきなり人間を創り出したりなんかする訳じゃない。
「どっこいしょ」
僕はこの星でも最も立派に育っている大樹の前に座り込んだ。何の種かも調べたけど、地球には存在しない種であるらしい。ここら辺の栄養を全部吸っているのか、この木の周囲数十メートル以内には他の植物が生えていない。しかし、周りの木と比べても群を抜いて大きな木である。高さ50メートルくらいはあるんじゃないだろうか。
この時代にここまで立派に育てる木があるなんて……いや、この時代だからこそでっかいんだろうか。古代の生物やらは兎に角大体でっかいイメージがある。
そして僕はすくっと立ち上がり、その立派に育った木の幹にそっと手の平を触れた。
「大きくなぁれ」
魔法をかけるように、ただのおまじないのように僕はそう唱えた。すると、その大樹は見る見るうちに大きくなっていき、僕は慌てて大樹から距離を取った。
「おぉ……!」
僕が離れてからも大きくなっていく大樹は、気付けば150メートルを超えていた。そこからもう数十メートル伸びたところで大樹は成長を止め、燦然と輝く太陽の光を全身に浴びている。
「……ちょっとやりすぎちゃったかな」
大量の魔力と栄養と、それに耐えられるように不思議パワーを流し込んだ結果、200メートル超えの大樹が爆誕してしまった。
「まぁ、いっか」
僕はふぅと息を吐き、空を飛んで大樹の上に登った。帽子状に広がった樹冠に乗った僕は、緑豊かになった世界を見下ろし、作り出したサンドイッチをぱくりと口に運ぶのだった。
♢
ゆったりとリラックスをし終えた僕は、豊かな自然とそこを飛び回る原始の生物達を見て何だか本能的な部分が刺激されていることに気付いた。
本能的な部分といっても、所謂ところの闘争本能である。
という訳で、僕はあの石のゴーレムを再び呼び出した。僕が最初に戦闘したと言っても良い、あのクソ強いゴーレムだ。魂こそ入っていないものの、人間を凌駕する高い戦闘知能を持っており、その身長は三メートル、硬度はダイヤモンド並みで高い魔力も持っている。
天空に浮かぶ城に居るロボットの兵士のように、ひょろ長い腕は膝の辺りまで伸びており、その片手にはあの時僕から奪った稲妻を纏う黄金色の両手斧が握られていた。
そう、何だかんだ愛着が湧いてしまった僕はあの時のゴーレムをそのまま修復して使い続けているのだ。それに、意味が無い訳じゃない。先述した通りの高い戦闘知能を持つこのゴーレムは、戦闘を熟す度に強くなるのだ。
「おはよう」
僕が来るまでの長い年月をゴーレムは眠り続けて来た。そのせいか、ゴーレムの魔力は異様に高まり、その性能は更に上昇している。多分、僕が天界で好き放題に魔術を使いまくったりして環境がおかしかったせいだろう。さっき硬度はダイヤモンド並みって言ったけど、それは初期スペックであって、今は多分それどころじゃない筈だ。
「今日も、やろうか」
僕は手を伸ばし、その手から魔法陣を展開した。
「『一振りすれば海は凍て付いて道となり、一振りすれば海は割れて道となる』」
青色と水色の混じり合った複雑な魔法陣は、僕の呪文を通じてその力を発揮していく。
「『海渡し』」
魔法陣から、青い結晶のような剣が姿を現す。僕はそのひんやりと冷たい柄を掴み取り、ゴーレムに向けて構えた。剣の内側には青い光が宿っており、見た目は結構綺麗だ。
「さぁ、スタートだ」
僕は自身に身体強化の魔術をかけ、圧倒的な威圧感を放つゴーレムに飛び込んだ。
瞬間、振り下ろされた黄金の斧が僕の頭をかち割った。
「ッ!?」
いや、かち割れては居ない。今の僕は無敵のシャボン玉の中に居るからだ。傷が付くことすら有り得ない。だが、本当なら死んでいたのは間違いない。流石に、ステータスが足りなすぎたみたいだった。
「『暗影纏い』」
ゴーレムは一本取ったとばかりに距離を離して黄金の斧を構え直していた。それに合わせて僕も自身に更なる強化の術をかけた。これは僕が作ったオリジナルの魔術である。というか、全知全能に作らせたというべきか。あの黒い靄の状態に似合う強化魔術を考えていたんだ。
「第二ラウンドだ」
暗い闇をローブの如く全身に纏った僕は、それでも明瞭な視界でゴーレムを睨んだ。




