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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と守護の印

 妹はアレから、僕以外にあの時の話をすることは無かった。そして、僕としてもあの日の事件は結構トラウマになっていた。


 人……っぽいのを殺したことに大きく加担してしまったり、妹を命の危機に晒してしまったり、沢山の人の死体を目の当たりにしたり、結構なストレスが僕の心にはかかっていた。


 別に何も失った訳じゃないんだ。時間が経てば僕の心の傷なんて回復するだろうとは思っていたが、何もしないというのも落ち着かない。


 一先ず、僕は家族や親しい友人の全員に保護をかけることにした。僕にかかっているのと似ているが、見た目では分からない奴だ。命の危機に瀕した際に、肉体が保護される。僕はこれを守護の印と呼ぶことにした。印と言っても、別にタトゥーが入る訳でも無いけどね。


「……兄貴、どうしたん?」


「ん、ちょっと考え事してただけだよ」


 玄関で靴も脱がずに立ったままだった僕を見かけて、妹が声をかけて来た。


「考え事って?」


「え? あの、アレだよ……次のテスト、大丈夫かなぁ的な」


 僕は靴を脱ぎ、通学用リュックの重みを背に感じながら玄関を上がる。


「えぇ、絶対嘘じゃん」


「嘘じゃないよ。ホントホント」


 僕は雑に言い残し、階段を上って自室に戻った。そしてパジャマに着替え、ベッドに倒れ込む。


「んー……」


 何かしてないと、落ち着かないなぁ。


「行こうか」


 僕の世界に。




 ♢




 無数の天体が浮かぶ黒々とした空。無限に広がる薄灰色の石畳。そこに僕は立っていた。


「魔術はもう、色々試したからなぁ」


 今は何か、心が落ち着くような景色が見たい。ここから見える星空も凄く綺麗だが、見慣れてしまったし、どちらかと言えば自然豊かな景色を見たかった。


「良し」


 僕は夜空を見上げ、その彼方へと狙いを定める。瞬きと同時に、僕はそこに移動していた。あの無限の石畳、僕が天界と呼んでいるあの場所は、外からは観測不可能なシャボン玉のようなものだが、僕は今そのシャボン玉の外に出ていた。


「星を創ろう」


 今までも沢山星自体は創ってきたが、基本的に生命が誕生する見込みがあるような星は創ってこなかった。だが、そろそろ創ったって良いかも知れない。地球のような、美しい惑星を。


 実のところ、その予定地は既に決めてあるのだ。天体のバランスを崩さず、ぶつかり合うことなく存在できる位置は見つけてある。そこには役割だけを与えられた仮初の地球と月が浮かんでいたが、僕はそれを遠慮なく砕いた。


 僕は目を瞑り、漆黒の世界の中でそれを想像し、砕かれた星の欠片を使って創造した。


「…………出来た」


 目を開くと、そこには紅蓮に輝く惑星があった。表面をドロドロのマグマが埋め尽くすその星は、謂わば地球の原型である。他の星は大体パッと創り出して居るが、この星は折角ならということで僕らの地球に起こったことと同じプロセスを体験してもらうことにした。というわけで、周囲に無数の原始惑星が生じて地球にぶつかったりし始める。ここら辺は殆ど全知全能に任せているので、不味いことにはならないだろう。


「後は、加速を掛けておこうかな」


 時を操って加速すると、その星は別の星との幾度もの衝突を繰り返した後に少しずつ冷え固まっていき、それでもあちこちでマグマを噴き出してはいたが、それでも落ち着きを手にしたように見えた。


「よっと」


 折角ならと言うことで、僕は小さい掛け声と同時にその星の地表に転移し、荒れた世界を体験することにした。荒れ果てた大地から噴き上がるマグマは力強く、未だ他の原始惑星が間近に浮かぶ夜空は怖くもあるが美しかった。

 世界は何だか煙っぽいし、空気なんかもまだ人が過ごせるような状態じゃないし、何より熱いのなんので普通なら生きることすらままならない世界だったけど、僕は平気だった。


「え?」


 油断し切っていた僕は、超巨大な何かがこの星に直撃したことを察した。空を一瞬だけ埋め尽くした赤と、星に満ちたすさまじい衝撃。その後に空に浮かんだのは、きっと月だった。


 空に浮かんでみて見ると、それはやっぱり月のようで、もうそろそろ星にぶつかろうとする原始惑星も無くなり、弾切れと言った頃合いだった。


 再び平穏を取り戻した星に舞い降りた僕は、やはりまだあちこちからマグマが噴き出している大地と、遂に降り始めた雨の中でテンションが高くなり、歌い、踊った。


 それから世界を自由に飛び回っていると、いつの間にか出来上がっていた海の中に藻のようなものが生えているのを見て僕は加速を止めた。


「きた」


 僕は海をまるで浮遊しているように移動すると、海中で揺れるその藻に近付き、しげしげと眺めてみた。


「初めての命だ」


 それはまだ意思や感情を持つとは言い難いただの植物だったが、それでも僕の感動を誘うには十分だった。


「ははっ、あはっ」


 僕は笑いながら海中を泳ぎ回り、他の植物が居ないかを見て回った。だけど、暫く泳いでいると流石に疲れたのでまだ緑は無い大地に上がり、体を一瞬にして乾かした後に元の地球に帰ることにした。

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