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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と狼の末路

 鋭く飛来する岩石が、人狼の立っていた場所を通り抜ける。それは工場の壁に突き刺さり、そのまま貫いて行った。


「『大地の大顎(アーススパイク)』」


「っぶねェなァッ!」


 人狼の前後から地面が岩石となって隆起し、人狼を挟み込むようにして閉じた。しかし、人狼は跳躍してそれを回避し、そこを狙って飛来した岩石を爪で斬り裂いて凌ぐ。


「オラッ、もう一回肉弾戦だァ!」


 そして、御岳との距離を詰めた人狼はその爪を御岳の首を目掛けて振るうが、御岳はその手首を掴んで止める。


「ぐぁッ!?」


 御岳がそのまま力を籠めると、人狼の手首は痛々しい音を立てて折れた。しかし、人狼は直ぐ様もう片手を御岳の胸に突き出すことで御岳を下がらせ、手を離させた。


「チィッ、痛ぇな……」


 人狼は手首を掴むと、折れて砕けた骨を再生させた。


「だが、まだだ……この程度でビビる雑魚じゃねェよ、俺は」


「『千石通し(せんごくどおし)』」


 再び襲い掛かった人狼に、御岳は手を突き出して魔法陣を開き、そこから石の槍を放った。細い石の槍は振り下ろされる人狼の爪すら砕き、その手を貫いた。


「んなァッ!?」


「『岩散弾(ロックバックショット)』」


 更に、人狼の腹部に御岳は手の平を当て、そこから岩の散弾を放った。


「ガァァッ!?」


 悲鳴を上げる人狼の腹部は破れ、大きな穴が開いていた。そこに追撃をかけようとする御岳だが、そのボロボロの体にも拘わらず人狼は片手を伸ばしてその鋭い爪で御岳の頭を貫こうとした。


「チッ」


 御岳は舌を打って飛び退き、その手を人狼に向けるが、人狼は腹に穴が開いたままで猛然と御岳に襲い掛かって来た。


「じッ、ねェ……やァぁ……ッ!!」


「バケモンが……!」


 御岳は流石に眉を顰め、振るわれた人狼の爪を岩に変えた腕で防ぐ。しかし、人狼の猛攻はそれでは終わらず矢継ぎ早に鉤爪が振るわれる。


「らッァアアアアアアアアッッ!!!」


「ッ」


 吹き出す血も顧みず、その強靭な生命力で攻撃を止めない人狼。御岳の岩の腕にピシリと罅が入り、人狼がニヤリと笑う。


「どうしたァ、防戦一方だな――――ァ」


 人狼の喉を、燃え盛る炎の鞭が貫いた。か細い声が漏れ、次の瞬間には魔力により高まった青白い雷撃が炎の鞭を伝って、人狼の体に迸る。


「ひゅ、ぁ……ァ」


 喉を焼き尽くされた人狼は声にならない声を上げ、その場に倒れ込んだ。


「茜」


「おう、安心しろ。吸血鬼もぶっ殺して来たぜ」


「だろうな。こっちに来たなら、そうだろう」


 しかし、御岳は目を細めて助けに来た茜を見た。


「勝てたのか?」


「いや、私の力で勝った訳じゃねぇ……また、手助けが入ったのさ」


「……例の男か。惚れられでもしてるのか?」


「ハハッ、それなら良いな。今のところ私の方が惚れそうなくらいだからよ」


 茜の言葉に、御岳は硬直した。


「……お前に、人を好きになる機能が付いてたとは知らなかった」


「失礼だなテメェ? 私だって、昔は純情に白馬の王子サマを待ってた頃があったんだぜ?」


 茜が言うと、御岳はフッと笑う。


「んだよ?」


「いや……それで言うなら、その男は正に白馬の王子様だと思ってな。毎回、ピンチになれば都合良く助け出してくれるんだろう?」


「んにゃ、そういう感じじゃねえな。助けに来る割に、アイツは私と関わりたがってねぇ感じがするし……まぁ、顔も王子様には程遠いな」


「そうなのか? なら、お前に惚れてるって訳じゃなさそうだな……お前にとっては残念かも知れないがな」


 茜は御岳の言葉に首を振る。


「言っとくが、惚れそうってだけでまだ惚れちゃいないんだぜ? 私は夢見る少女だかんな。生涯の相手は慎重に選ばせて貰うぜ」


「そうか。まぁ、好きにしろ」


 茜は頷くと踵を返し、廃工場の中へと戻っていった。


「……これは、黒崎の奴が妬くな」


 面倒臭そうに御岳は溜息を吐き、足元で息絶えていた人狼を見下ろした。





 ♦




 帰って来た……というか、僕の力によって家に帰された柚乃は、皆の前でテーブルに着くとぽつぽつと自分の身にあったことを話し始めた。テーブルを囲む僕以外の誰もがぽかんとしていたが、それでも妹は真実を最後まで話し切った。僕はそれを止めることはしなかったし、逆にそれが真実であると肯定することもしなかった。


「え、っと……柚乃? その、今の話は……」


「…………うん、冗談だよ」


 お父さんが恐る恐ると問いかけると、柚乃は少しの沈黙の後にそう言って、席を立った。


「ちょっと、疲れちゃったから寝るね。ごめん」


 柚乃はそう言い残すと、自分の部屋へと帰って行ったのだった。皆が次の言葉を探しつつも何も言えない中、僕は席を立って妹の部屋へと向かったのだった。


 階段を上って部屋の前に着いた僕は、扉をノックしようとするが、扉が閉まっていないことに気付いた。僕はそのまま軽くノックをすると、直ぐに柚乃が扉を開けに来た。


「柚乃」


「本当は友達の家に遊びに行ってて、遅くなっちゃった。ごめんね」


 目に泣き腫らした後の残る柚乃は、僕にそう嘘の言葉を吐いた。安直なカバーストーリーだけど、家族は皆そっちを信じるだろう。魔術士の戦いに巻き込まれたなんて話よりは。


「実のところなんだけど、僕は柚乃の話が本当だと思ってるよ」


「……嘘」


「いや、本当に。柚乃の話にも出てた茜さんは、僕が見た時にも塀の上から飛び込んで来た時とか、ちょっと身体能力が普通を超えてる感じがしたし、雰囲気も何だか普通の人じゃない感じだったし、本当なんじゃないかって思ってる」


「……本当に?」


 僕はこくりと頷いた。これは半分本当で、半分嘘だ。塀から飛び込んで来た時は、確かに運動神経凄いなぁって思ったけどそれくらいだ。別に普通の人間の範疇ではある。でも、雰囲気が普通じゃないってのは本当だ。あんなのどう考えても普通ではない。


「だからさ、僕は話聞くよ」


「……ありがと、兄貴」


 良かった。ちょっとは、落ち着いてきたみたいかな。

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