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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能による帰宅

 全知全能の力によって鍵を取り寄せた僕は自室に帰り、普通にパジャマに着替えた。あんまり頼り過ぎると自堕落になりそうだと思ったからだ。


 そして、ベッドに仰向けになって倒れ込んだ僕はこの能力の使い道について考えていた。


 学校で考えていた通り、善行にも悪行にもよらない中立的な能力の使用にしたい。でも、特に今のところ気になることは無い。宇宙について色々聞いても、なんかあんまり良く分からないということが分かるだけだったからだ。とは言え、僕は自分の知能を引き上げるつもりはない。


 そこで、僕はある重要で根源的な質問に思い至った。


「……僕、なんで全知全能になったの?」


 この質問を早々に投げかけなかった僕は真正のアホだと思う。でも、最初に浮かんだ発想が神様に与えられたもので、この力で神に干渉することは不可能というものだったから、ちょっとは仕方ない部分もあるだろう。


 ――――全知全能の能力を得たのは、偶然です。


 身も蓋も無いような答えに、僕は目を剥いた。だが、諦めずに僕は更なる質問を投げかけた。


 ――――何によって発生した偶然かと言えば、有り得ない筈の物事でも有り得た際の仮定の中から有が生まれることがあります。宇宙もその法則によって生まれたものであり、本来はそれ自体が起こり得る筈の無い事象です。天文学的確率と言うことすら憚られるような確率を貴方は引き当てました。


 全知全能は喋る訳じゃない。貴方は、なんて語りかけられはしないが、簡単に纏めるとこういう訳だ。結局のところ良く分からないが、僕は決して僕にも伝わるような説明を求めることはしなかった。矛盾を抱えた能力の行使は、確かにそれでも行われる。

 例えば、絶対に沈む石を作り、それを浮かべろと言われれば僕は出来るだろう。だが、その結果の為に歪みが生まれることも僕は直感的に理解していた。

 歪みを消すこともまた可能である筈だが、そうなれば次は新たな形の不具合が発生するだろうし、僕がそれら全てを発生しないように厳命した結果に何が起こるのか。全知全能になれるが、今のところ全知ではない僕には分からなかった。それを知ろうとすることを考えるだけで、僕は嫌な予感がした。


「まぁ、良っか」


 偶然の賜物だと言うなら、もう悩む必要も無くなった。使命も無く、必然でも無く、僕は全知全能になった。世界の気まぐれ、ですらも無く、ただの確率的な現象によって。


 とは言え、だ。まだ可能性は残っている。この全知全能が善良な神様によって創り出されていた場合、それによって吐き出される質問の答えすらも操られている可能性は高い。そうなれば、僕に全知全能が宿ったのは偶然などというのは全くの嘘であり、僕は実際には未だ神様によって監視されている可能性もある。


「……まぁ、いっか」


 僕は、同じ言葉を繰り返した。つまるところ、悪いことをしなければ良い筈だ。僕の心も、そもそも悪事に耐えられる程に図太くはない。

 そう考えれば、そこまで難しいことでも無かった。




 疲れ果てていたらしい僕は、そのまま眠っていた。だが、晩飯の時間になったらしく僕の部屋を母親がノックしてくれたことで僕は目を覚ました。


「ん、おはよ……」


「なに、アンタ眠いの? 珍しいわねぇ」


 僕が寝惚けているからか、お母さんは僕の手を取って階段を下りてくれた。片手は手を握り、片手は手すりを掴んでいた僕は万全の態勢で階段を下り切り、そのままリビングへと向かった。


「おはよー」


 既に部活帰りの妹と仕事帰りの姉は席についていた。ただ、まだお父さんは帰って来ていないらしい。珍しくもないことだ。お父さん曰く、会社はブラックでは無いらしいが、やらなきゃいけないことが山積みでとても早くは帰れないとか。お母さんも仕事で疲れたお父さんを責めたりはせず、いつも黙ってご飯を温めていた。


「兄貴、なんで眠そうなん?」


「ん、眠いからだよ」


 僕が答えになっていない答えを返すと、妹は白い目で僕を見た。因みに、兄貴と呼ぶようになったのは最近のことだが、それがアニメの影響であることを僕は知っている。怖いから指摘はしないけど。


「ほら、冷めるから早く座ってよ」


「はいはい」


 姉に言われ、眠気眼を擦りながら、僕は席についた。そんな僕より先に母は椅子に座っていた。素早い。


「さ、食べるわよ。いただきます」


「「「いただきます」」」


 僕たちは手を合わせて、それから箸を手に取った。割と、うちは礼儀作法がしっかりしている方の家だと思う。別に、厳しい訳では無いんだけど。


「んー、うまい」


 僕は唐揚げを口の中に放り込み、もぐもぐと咀嚼した後に呑みこんだ。味の感想を伝えたのは、お世辞では無く普通に美味かったからだ。でも、美味しかったら美味しいとは意識的に言うようにしている。


「お、ホント? ちょっと揚げ方変えてみたのよ」


「美味しい。それ、後で教えてよ」


 姉が言うと、母は嬉しそうに頷いた。最近反抗期が入ってきたらしい妹は黙って食べている。だが、味が気に入っていない訳では無いだろう。


 ……そうだ。僕は一つ、全知全能の使い方を思いついた。革新的な、料理の作り方である。思わずキッチンに視線を向けたが、揚げ物は面倒らしいという知識を思い出して視線を直ぐに戻した。

 そもそも、僕は面倒くさがりなタチだ。折角全知全能なんだから、料理法を知って料理をするくらいなら、出来立ての料理をそのまま出してしまえば良い。


 でも、一番美味しい料理なんて言って出したら碌なことにならないに決まっている。脳みそが破壊されたり、中毒になったり、僕の頭はおかしくなってしまうことだろう。

 それに、一度知ってしまえばそれは忘れられない蜜の味だ。毎日こうして食卓を囲む必要のある僕にとって、美味しすぎる料理は逆に毒になる。


 まぁ、でも偶になら良いかな? 世界一のレストランの料理とか……うーん、まだ止めておこう。僕は、この力のことをもう少し知っておくべきだと思う。予想だにしてない事故が起きてからじゃあ、遅いんだ。

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