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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と探し物

 柚乃は現在、フルームタウンと呼ばれる細く高い建物が不規則に並び、無数の空中通路で繋がれた大型商業施設の近辺を歩いていた。


「えっと、無くしたのに気付いたのはここら辺……の、筈です!」


「分かった! 何かあったら呼ぶから、好きにしてて良いよ?」


 そして、柚乃の周囲には瑞樹と黒崎と茜の三人が居た。


「いえ、私も一緒に探しますっ!」


「良いから、こういうのはプロに任せとくもんだぜ?」


「ッ、はい……!」


 ニヤッと笑った茜の言葉に、柚乃は息を呑んで頷いた。


「あはは、一人だとちょっと暇だよね。私と探そっか?」


「は、はい!」


 瑞樹の言葉に緊張したように答え、ゆっくりと歩き出した背に付いて行く。


「んじゃ、黒崎。パパッと見つけちまうか」


「任せてよ」


 背後で聞こえた声に僅かに嫉妬心が沸き上がるが、同時に不思議にも思った。結構、黒崎以外は目立つ見た目の筈なのに全然注目されてない。それが、奇妙だった。



 道路を少し逸れた傾斜の下、街中を通る川の横の細い道を二人は歩いていた。


「もしかしたら、こっち側に落ちたとかもあるかも知れませんね……」


「そうかもねぇ」


 柚乃の隣を歩く瑞樹の態度が、どうもまともに取り合っていないように感じて柚乃は首を傾げた。別に、嫌な人って訳じゃない筈だ。ここまでも、一番親切になってくれたのは瑞樹だった。


「上、戻りますか」


「うん、そうしよっか」


 もしかしたら、川に落ちてたらどうしようもないと諦められていたのかも知れない。柚乃は目の前に近付いて来た階段を指差して言うと、瑞樹はあっさりと頷いた。


「瑞樹さん」


「ん、どうしたの?」


 やっぱり考えが正しかったのかと思いながら柚乃は階段を上ると、折角ならと、優しそうな瑞樹相手ならという打算も込めて話しかけた。


「茜さんって、どういう方なんですか?」


「ふふ、やっぱり茜のこと気になってたんだ? 明らかに態度が違うなぁって思ってたけど」


 ニヤリと笑う瑞樹。柚乃は僅かに頬を赤くして、頷いた。


「その、色々噂を聞いてて、格好良いなぁって思ってて……あ、別にそういうのではないですけどね!?」


「ふふん、なるほどねぇ……確かに、茜は頼りになるからねぇ」


 にこにこと笑う瑞樹は、最早探し物など欠片もしていないように見えた。人気の少ない路地に差し掛かろうかと言う時、柚乃は更にもう一つの質問を思いついた。


「因みに、茜さんはどういう経緯で事務所に……」


 柚乃の背に影が差した。振り向く途中で、瑞樹の笑みが消えていたことに気付いた。


「危ないッ!!」


 柚乃の肩が押され、地面に倒される。手首を擦り剝いてしまった柚乃は悲鳴を上げるが、瑞樹への文句が浮かぶより先にそれを見た。


「そこの女にも認識阻害を掛けておくべきだったな」


「ぐ、ッ……!」


 瑞樹の首を掴み、持ち上げる黒い服の男が居た。その表情どころか顔の形すら柚乃には認識することが出来ず、この状況と奇妙な現象に恐怖が沸き上がった。

 助けを呼ばなければいけないことに気付いたのは三秒も経った頃で、地面にどさりと瑞樹が崩れ落ち、男は声を上げようとする柚乃の喉を抑えた。


「喋るな」


「ッ!!」


 男の見えない顔は至近距離でもぐにゃりと歪んだまま、決して定まらない。それでも柚乃は悲鳴を上げることも出来ず、恐怖から必死に声を抑えた。


「次、喋ろうとしたら殺す。一応、お前も一先ずは持ち帰るが……」


 一応だとか一先ずだとか、不安になるような言葉に柚乃は泣きそうになる……いや、とっくに涙は零れ落ちていて、それに今更気付いただけだった。


「抵抗すれば殺す」


「……ぁ」


 何か、体の中を駆けまわっていくのが分かった。抵抗すれば殺すと言われたが、()()に抵抗する方法など、柚乃には見当も付かなかった。


 バタリと、また地面に少女が倒れた。男は二人の体をすぐ隣にあった建物の下の駐車場に抱えて運び、遅れてやって来た車に乗せてその場を去って行った。






 ♦……side:治




 めでたく迎えた休日ということで、僕は家に籠って友達とゲームに勤しんでいた。前に酷い目に遭ったあのゲームである。


「よっしゃ、ソロキルゥ!」


『ナイスー』


 目の前の敵を華麗に倒した僕は喝采を上げ、絵空にアピールした。絵空は直ぐにスタンプと共に僕を称えた。


「このままタワーぶっ壊しちゃおっかな~」


『いや、下がった方が良いよ。そろそろ、森から敵が来る』


「あ、おっけ」


 僕は素直に下がり、体力やらを回復する為に自陣の本拠地に跳んで戻った。味方も良さそうな感じだし、この試合は貰いましたわ。


「ん、テレポート行きますわ」


『了解、合わせるわ』


 好機を見た僕はお嬢様言葉で呼びかけつつ、味方の場所に転移して絵空と共に敵を急襲した。


「サポートやった」


『ナイス。もう一人も死んだわ』


 敵の二人を無事に倒し、味方からも称賛のスタンプが飛んできた。いやぁ、順調ですなぁ。


「今日は最高の日だね。まだ負けて無いし、ヤバい味方も居ないしさ」


『フラグやめろよ』


 いやぁ、妹も家出る前にニヤついてたし、良いことがあったんだろう。今日は本当に良い日だなぁ。

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