全知全能と空を映すのは
ゆっくりと紡がれるソラの話を、僕は焦れることも無く聞き届けていた。
「最近は、木人と……スィアーナーと、良く話す。今日も、愛おしい貴方と土弄りの木人の話について聞いていた。貴方と、その木人は仲が良いのだろう」
「あぁ、ラクリオね。うん、仲良いよ。師匠みたいな感じだね、僕の」
ラクリオの話は何度かしていたのだが、名前は覚えられていないようでウケる……いや、そもそも名前を覚えるという感覚自体が人より薄いのかも知れない。僕のことも、ずっと愛おしい貴方とか、ちょっと顔が赤くなるような呼び方をされる方が多い。偶にしか治では呼ばれない。
「……師匠、か。土弄りの木人は」
「うん。まぁ、師匠とも言えるしある意味弟子とも言えるよね」
イシを参考に、目標に頑張っているラクリオだし、色々とラクリオの持っていない技術なんかを教えていたりもする僕だから、僕が師匠の面も無い訳ではない。前にも、負担をかけずに集中力を保ちやすくするツボを教えたりした。
「……妬ましい。その、土弄りの木人が。私も貴方の師匠か弟子に、なりたい」
「そ、そう言われてもなぁ……ど、どうしよう。何か教えて欲しいこととかある? 逆に、教えられることがあったら教えてくれるでもいいけど」
「……どちらかと言えば、師匠が喜ばしい。だが、何を教えれば良いかは、分からない」
「うーん……まぁ、魔術関連とかかなぁ。それこそ、ゴーレム作りに役立つことなら是非とも教わりたい所ではあるよ」
思えば、ソラもイシから魔術関連の知識を得ていたりする訳だから、ソラから教われることもある筈だ。悠久の時を生きた神樹の知恵を貸して貰えるなら僥倖である。
「ッ! 教える。何でも、教えよう。魔術の話は、スィアーナーとも、その弟子のアシノや、リョウシン。ラーリアに、ミナヤ。それに、ダルクスとも話したことがある」
あぁ、ラーリアさんとかリョウシンさんとかね。僕もちょっと話したことがある。ていうか、そこら辺の名前は普通に覚えてるんだ……?
「ソラ、木人の皆の名前って結構覚えてるの?」
「私は、一度覚えたことは忘れない。この大きな体に、貴方の育てたこの魂に、深く刻み付けている。だから、一度でも聞いた木人の名前は……アレから、全て覚えた」
あ、じゃあアレなんだ。ラクリオが名前呼びじゃなかったのは、単に妬みから気に入らないからなのかも知れない……ちょっと面白いけど、可哀想ではある。
「……そうだ、良いこと思いついた」
僕は手をポンと叩いて、ソラを見た。
「ソラも一緒に来る? ゴーレム作りに協力して欲しいんだよね」
「私、が……一緒に?」
ソラは硬直し、困惑したような声を上げた。
「うん。外にソラが出られるならそれでも良いし、木人にならいつでも声を届けられるって言ってたし、それで手伝って貰っても良いし」
「私が、外に……だが」
躊躇う様子のソラに僕は首を傾げた。
「でも?」
「私が外に出たら、皆……大変に、なると思う」
「あ、出られはするんだね」
「出られぬ、ことはない……だが、私が外に出れば、木人達に混乱を招くのは、火を見るより明らかなこと、だから」
なるほどね、気持ちは分かる。さっきスイに話したように、僕も木人の皆に怯えられてたり、怖がられてたりでちょっとやりづらい気持ちを味わいはしていたから。
「大丈夫だよ。だって、立場は僕も同じだ。同じだったけど、こうやってほぼ毎日里の中を歩いていたら、皆も慣れて普通に話しかけてくれるようになるし」
「……確かに、愛おしい貴方は木人からも自然に慕われているように、見える」
「あはは、慕われてるかって言うと、ちょっと怪しいけどね……」
特に、子供と呼べるくらいに若い木人はラフに話しかけて来るイメージがある。割とからかわれることもあるしね。そんな風に、里の全員と軽口を叩けるくらいに仲良くなれたら素敵だよね。
「でも、ソラが外に出るのって……どうやって出るの?」
「身を僅かに分けて、意識を移せば良い」
「へぇ、そんな簡単な感じで出来るんだ」
「しかし、姿はどうすべきか……」
ソラの言葉に、僕は首を傾げた。
「今のままで良いんじゃないの? 凄い綺麗だし」
「綺麗、か? 私は……愛おしい貴方から、綺麗に見えているのか?」
「え、うん。まぁ、本当に今まで見たことない美人だね。女神って言われても信じるよ」
「……嬉しい。私は、嬉しい。私は今、歓喜の極みに居る」
ソラは喜びの感情を言葉に変えて何度も口にした。余り可愛いやら綺麗やらを女性に言わない僕だが、そんな僕でもソラは最早綺麗と言うことも躊躇う気にならないような美人なのだ。美術作品を見て、それを美しいと評するのは普通のことで、それと同じレベルの話であった。
「愛おしい貴方に見えている私は、愛おしい貴方の中の私でしかない。神樹としての私を見て、それが人であった時の姿に変換されているから」
「あ、なるほどね。そういう仕組みなんだ」
確かに、樹の筈のソラの精神世界に居るソラが人の姿をしてるって言うのは変かも知れない。
「私が同じ人としての姿で貴方と話すことを望んだから。ただ、その姿を自分では想像できなかったから……愛おしい貴方から見える私の姿は、貴方自身に任せていた」
「じゃあ、神樹の姿があんなに立派だから人の姿もこんなに綺麗に見えたってことなんだ」
そう言われれば納得である。あの神秘的な神樹を人の姿に纏めてしまったら、確かにここまで美しい姿にもなるだろう。
「……あまり褒めると、流石に私も照れてしまう、かも知れない」
僅かに視線を逸らしたソラに、僕はここが精神世界であることに感謝した。でなければ、心臓の音が聞こえていたかも知れないから。




