全知全能と愉快な奴
ユモンの話によると、その十数人規模の襲撃を跳ね返し、逃げる者らも残さず皆殺しにした後には予定通りに魔石を買いに向かったらしい。中々にハートが強いというか、そもそも強すぎると言うか、流石である。
「そこら辺は魔術士ばっかりだからな。顔も名前も隠して歩くのが当たり前なんだが……そこの店の店主は名前も顔も隠さねぇような奴で、ついオレ様も顔も名前も晒しちまったから、色々バレたらワンチャンそっかも知んねェと思っといてくれ」
「うーん」
僕は唸り声を上げた。別にユモンの勝手ではあるからね。僕から怒ってもしょうがないような話ではあるけど。ていうか、魔術士の訪れる店みたいな感じなのは分かってたけど、もう魔術士ばっかりみたいな感じなんだ。
「んでま、予定通りに光の魔石を買ったオレ様達を狙って銃弾が飛んで来てな。撃って来たそいつを追いかけたんだが……オレ様達より先に、そいつを別の奴が捕まえててな」
「へぇ」
どこか冷たい雰囲気のある魔術士界隈だが、困った人を助けてくれるような魔術士も居るらしい。いや、魔術士かは分かんないけども。
「……え、魔術士だよね?」
「ん、敵か? その捕まえてた奴か? まぁ、どっちも魔術士だな」
「あ、だよね。もしかしたら、一般人だったりするのかなと思って」
拳銃で撃たれたって話だったし、もしかしたらどっちも一般人というか、非魔術師パターンも有り得るかなと思ったけど、流石に魔術士だったらしい。
「んで、その……三嶌とか言ったかな、青と黒の髪の、目が細い変な奴だったな。そいつが襲ってきた拳銃の奴を捕まえてくれたんだが、まぁすげェ胡散臭くてな」
胡散臭い……目が細いところからして、確かに胡散臭そうだ。裏切られるかも知れない。
「誰だって聞いても、どこにでもいる魔術士の一人だとか誤魔化されてな。まぁ、魔術士だからそれは良いっちゃ良いんだが、福岡で面白そうなことが起きてるのを聞いてやって来たみたいな……相当な愉快犯クセェ感じがしたぜェ」
「ま、まぁ、助けてくれたんだし愉快犯って表現はアレだけど……別に善人ぶってるって訳でも無いんだね」
もしかすると、どこかで紫苑ちゃんの指輪のこととかを察知して、それを狙いに来てるんじゃないかって思ったけど、初めから愉快犯……まぁ、便宜上そう呼ぶけど、愉快犯であることを隠さずに来てるならその可能性も低いかも知れない。
指輪を狙って取り入りに来てるなら、もっと善人面してこっちを助けても良い筈である。
「一応、茜さんも知らなそうだったんだよね? その人は」
「あァ、知らねぇみたいだったな。帰ってから御岳の奴にも尋ねちゃみたが、アイツも知らねェって言ってたぜ」
「そっかぁ」
茜さんは疎か、御岳さんも知らないとなれば、別に有名な魔術士という訳でも無いのだろう。顔が広そうな安堂さんとか、支配者という地位を持っている紫苑ちゃんなら、もしかしたら知っていてもおかしくない気はするけど。
「紫苑ちゃんや、僕らの存在を利用しようとしてる輩って感じじゃないよね?」
「いや、どうだろうな……少なくとも、オレ様達が……というか、あの事務所の奴らが狙われてて、今まで動かなかった支配者がそいつらを守る為に動いたってとこまでは知ってるみたいだぜェ」
「ッ、じゃあやっぱり紫苑ちゃんに近付く為とかで……」
「だとしたら、自分からは言わなそうな気もするけどなァ。オレ様が思うに、明確に目的意識があって動いてるってよりも……やっぱり、愉快犯だと思うぜ? あのタイプはな」
確かに、そうかも知れない。素性は謎に包まれ過ぎてると言うか、得体が知れなすぎるけど……それでも、何か悪辣な目的があって近付いているようには、思えない。少なくとも、今のところはだけど。
「ま、分かったよ。報告ありがとう」
「なんか偉そうだなァ……」
「じゃあ、逆になんて返せば良いのさ」
「ありがとうございます、神様仏様ユモン様ってな」
神や仏どころか、悪魔だろうが。
「はいはい、あざす」
「かーッ、やり甲斐ねェ仕事だなこりゃ」
「でも、お陰で美味しいものばっかり食べてるでしょ? どうせ」
「ヒヒッ」
僕が聞くと、ユモンは気持ち悪い声で笑った。
「まぁなァ、事務所の奴らは頼めば色んな飯食わせてくれるし、あのお嬢様は頼んでなくても良いもん食わしてくれる。どっかの悪徳契約者サマとは大違いだなこりゃァ」
「誰が悪徳契約者だよ、全く」
一応、本から元の姿に戻すくらいはしたからね、僕も! それも、対価が人を自ら傷付けないくらいの何のデメリットも無いような……余りにも優良契約だろうに。
「つっても、あのクソみたいな本の中から解き放ってくれたのは感謝してっけどな」
「……せやろがい」
心とか読んでないよね、君。




