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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と伝授

 あれから、ウィーに教えた時のような説明とやり方で感覚強化と、超感覚(オーバーセンス)を伝えた。しかし、ウィーのようにあっさりと習得することは出来ず、簡単には行かなかった。それでも、そこそこ最適なやり方を全知全能から賜ることで、何とかアシラは感覚強化の習得までは今日中に終わらせることが出来たのだった。


「しかし、単なる感覚強化だけでも……十分以上に、戦闘能力が向上した気がするよ。視覚を強化するだけでも敵の攻撃を避けるのが随分と簡単になる」


「そうだね。ただ、過信は禁物だよ。襲って来るものが、自分の持っている感覚の中だけに存在しているとは限らないからね」


 完全に目に見えず、音も聞こえない概念的な攻撃であれば、それは知覚することも出来ない。ある意味で、己の知覚のみに頼って戦うのは危険だ。ちゃんと思考して、サボらずに戦い続けないといずれは足元を掬われる。


「確かに、そうか……目に見えないものも、ある」


「まぁ、まだまだ奥が深い技だから……ちゃんと極められれば、色々と見えてくるものもあるかもね」


 上手く使えるようになれば、熱感知の視覚を得たり、超音波すら知覚可能になったり、色々と特殊なことも出来るようになるだろう。そうすれば、少しずつ知覚出来ない攻撃というのは減らしていくことが出来る。そもそも知覚出来る感覚の存在していないような攻撃はどうしようも無いけど。


「それよりも、先ずはあの術の習得を頑張らないといけないね……僕は、ナーシャよりもまだ理解が足りていないようだから」


「私は、寧ろ術の方は理解出来てる。だけど、その前提の感覚強化が上手く出来てないから……そこをどうにかしないと、どうしようもない」


 体内に通る神経などを知覚し、それに魔力を作用させるという行為は頭の良さや理解力というよりも感覚的な才が重要になる。とは言え、どこをどうすれば良いかということまではナーシャも理解していると思うので、後は感覚的に何度も試行して覚えて行けばちゃんと使えるようになるだろう。今は、僕の補助があれば出来るという程度だけど。


「何がそんなに難しいんだよ? 治に通して貰ったとこ、同じように通すだけだぜ?」


「私はウィーと違って、そこがどこでどういう役割かを理解してるから、完全に安全じゃない場所に魔力を浸透させようとすることには、抵抗がある」


 魔力の浸透による強化にはリスクを伴う。魔力による変性は、簡単な身体強化のように全身に魔力を通して非効率な強化をすることとは大きな差異がある。簡単に言えばそれはバランスで、全体に魔力を注げばバランスを崩すことなく、だが魔力の大部分をロスしながら強化することになる。

 対して、僕の教えた感覚強化は効率は最大ではあるものの、間違えればバランスを崩して機能自体を破壊してしまい兼ねないようなものなのだ。そして、ナーシャはそれを十分に理解しているからこそ危険な部分に魔力を流す際はどうしても抵抗感が合って、上手くいかなかったりするみたいだった。


「それで、治」


 アシラが僕の目を真っ直ぐに見据えた。星導の剣の三人の中でも、アシラは特に目力が強いというか……強い意志が籠っていて、目が逸らせなくなる。


「もし、他にもこんな技や術を覚えているなら……出来るだけ、教えて欲しいんだ。勿論、協力できる範囲で構わない。対価も僕に用意できるものなら、可能な限りは用意しよう」


 出来るだけ教えて欲しい、かぁ。


「秘伝の術とか教えて欲しい」


 ナーシャの言葉に、僕から力が抜けた。そんなの無いよ。ていうか、あっても秘伝の術なら教えないよ。


「まぁ、でも……そうだね。術を教えるって言うのは簡単じゃない。ナーシャにも教えた魔尖弾(マナピアサー)くらいの奴なら教えられるけど、ちゃんとした術になると、やっぱり教えるのも色々難しいし……」


 それに、教えたことに対する責任も取れない。そして、そればかりやっていると僕はこの世界でプレイヤーでは無くなってしまう。当初の目的はこの世界を冒険者や魔術士として闊歩し、冒険し、強敵と戦ったりして楽しむことだった。なのに、魔術を教えて知恵を授けて力を与えてとそればかりやっていると、僕はプレイヤーとしての意識から遠のいてしまうだろう。


「出来るだけ、ね。取り敢えず、イアビラとリューマリンの防衛まではちゃんと手伝うし、必要そうな術も見繕って教えるよ。それじゃ、ダメかな?」


「……いや、十分だよ。ありがとう、治」


 首を振り、頭を下げたアシラに僕は少しの罪悪感に苛まれた。やっぱり、もう少しやりたい放題やっても……というか、やった方が良いのだろうか。ここは、異世界なんだ。元の世界じゃないんだし、本気で本気を隠す必要も無い。


「また今度、良い術を教えるよ」


 もう少しだけ、この世界ではタガを外しても良いのかも知れない。そう考えながら、僕はアシラに言った。

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