全知全能と魔将について
アシラが覚悟を抱いて口にした言葉に、ウィーも大きく頷いた。
「だろっ!? おれらでも絶対……魔族を殺せる筈だぜッ!」
「あぁ、魔将相手でも無ければ、勝てると思う」
頷いたアシラの言葉に、僕は首を傾げる。
「魔将って?」
前にも聞いたような覚えはあるけれど、多分聞き流していた気がする。安直に考えれば魔族の中でも強い魔族みたいなイメージだけど。
「その名の通りに魔族を率いる将だよ。当然、強さを至上とする主義の魔族らしく、大抵の魔族よりも強い。前回、リューマリンが攻められた時も、魔将を殺すことは出来ていなかった。軍勢の大半を壊滅させて、戦力を大きく失わせたから勝利を掴めたというだけだった」
「あん時は、そもそも魔将自体が前線で体張るタイプじゃなかったってのもあっけどな。流石に、あんだけの戦力が集まってりゃ魔将でも囲んで叩いて殺せると思うぜ」
「……多分ね。でも、実際の所は分からない。ウィーも言った通り、アレは対軍勢向きの能力を持った魔族だったから」
「その、聞いて良いのか分からないけど……その時の魔族? 魔将は、どんな相手だったの?」
少し躊躇しながら僕が聞くと、思っていたよりもあっさりとアシラは答えた。
「海の怪物を操る力……と、言うべきかな。力の無い海生生物でも、一瞬で強力な魔物に変貌させて意のままに操ってしまうような力を持っていたよ。直接戦闘をしている場面はあまり見ていないが、それでも大型の船を片手で持ち上げて投げつけているところは見たね」
「えぇ……」
特殊能力も恐ろしいけれど、追加でサラッと告げられた異常な膂力が一番恐ろしかった。前線を張るタイプじゃない魔将でそれだと言うのならば、バリバリ己の体で戦うタイプの魔将はどんな怪物になってしまうんだろうか。
「それでも、まだ魔将より上の魔族が居るって話だぜ? 魔王に至ってはその更に更に上……考えるだけで恐ろしいな、マジで」
「そこまで考える必要は無いだろう。僕らは、僕らの手の届く範囲の人間を守って……手の届く範囲の魔族を殺せば良いんだ」
「私も、そう思う」
アシラの言葉にナーシャは賛同して、それから視線を僕の方へと流した。
「でも、治が居たら……手の届く範囲は、ただの魔族よりもっと上、魔将よりも上に……それこそ、魔王にすらいつかは、手が届くかも」
「あ、あはは……ナーシャは夢がデカいなぁ」
ナーシャ、僕が古代より蘇った魔導王的なことまだ信じてるんだね。だとして、その魔導王さんは魔王に勝てるのかなぁ、無理だと思うなぁ。話聞いてる感じ、魔王はすんごい強そうだからなぁ。ワンチャン、イシとかそのレベルで強いまで有り得るんじゃないか。
魔王が能動的に強くなって、術の研究にも励んでたりするなら……超えている可能性すら、有り得なくはない、かも? さすがに無さそうだけど。
「でもよ……この、治に教えて貰った感覚強化とさっきの術を数珠繋ぎにどんどん広げて行ったら、軍の全員がそれ使えるようになるってこったろ? だとしたら、ワンチャン……マジで、魔大陸まで逆侵攻かけて殺しに行けるかも知んねぇぞ」
「魔王を?」
「そうだよ、魔王をだ! だって、有り得るだろ!? おれですらこのくらい強くなれんだから、おれより強い奴ならもっと強くなれるしさ、全然ありえ……」
険しい顔をしてウィーを見るアシラに、ウィーは閉口した。
「僕は、リスクだと思う。そもそも、ナーシャが言うには治は人に魔術を教える天才らしいから……数珠つなぎに伝えて行ける程、事は単純に進まないと思う。それに、扱いを間違えれば危険な事態になりかねない力のようにも見える」
ナーシャ、そんな風に伝えてたんだ。確かに、古代の魔導王がどうのと伝えないって約束はしてたけどさ。
「まぁ、そうかも知んねぇけど……」
「それに、魔族にそれを習得されるリスクもある」
アシラが言うと、ウィーは目を見開いて硬直した。
「魔術、というか魔力を扱うセンスに関しては人族よりも明らかに魔族の方が優れていると言わざるを得ない。種全体の傾向としては、確実に。だから、僕らのように少数がそれを使って敵を殺していくだけならリスク管理もしやすいけど、人間の兵士全員がその力を使った日には……敵に、この技が漏洩して、魔族全体でこの力を行使してくる可能性も有り得るんだ」
「……そうなりゃ、終わりだな」
でも、とウィーは声を上げた。
「そもそも、既に魔族はそれを使える可能性もあんだろ? センスに関しちゃ一流って話なら、どっかの誰かの魔族は既に同じような術を使ってるって可能性もあんじゃねぇのか?」
「有り得はする。けど、少なくともこっちの兵士が全員使ってるなんて状況じゃない限りは率先して他の魔族に広めるようなことはしないと思うよ」
どうだろうか。僕が全知全能に見つけて貰った、最適の術だ。作らせた訳じゃないから一の魔力で無限の結果を生むようなぶっ壊れでは無いにしても、そう簡単に創り出されるような術で無いし、技で無いとは思う。難易度と比較した能力としては、この世界でも頂点に座するレベルの筈だから。
「……ま、取り敢えずうちの奴らが全員覚えてからそこら辺は考えっか!」
「そうだね。そもそも、僕らでも習得出来ないって可能性すら有り得はする」
「私は、気合で覚えるから。大丈夫」
「……そっかぁ」
まぁ、時間をかければ習得できないってことは絶対に無い筈だ。知識と最低限の技術さえ持っていれば、いつかは必ず出来る筈だから。ヤバい失敗の仕方をすると不味いことにはなるかも知れないけどね。




