全知全能と実験体
あれから、目を覚ましたウィーがどうしても超感覚を全員に見せてやりたいと言うので、仕方なく僕はゴーレムを何体か拵えることにした。とは言え、ゴーレムはまだ向こうにも出荷しないといけないので、その簡易的な実験体にさせて貰えるのは悪くない。
「おい、まだかよ?」
「ちょっと待ちなって……」
「そう、黙って待っててほしい」
急かすウィーと、ゴーレム作りに集中する僕。そして、その様子を熱心に観察しているナーシャ。アシラは遠巻きに微笑を浮かべながらこちらを見つつ、誰かが近付いて来ていないか見張っている。
「…………うん、良し出来た」
僕の目の前に立ち上がったのは、トーテムポールのような形状をした縦長のゴーレムだ。起動すると、体から無数の触手が伸びて敵を襲う。触手の長さはなんと五十メートルまで伸縮可能で、また内部には感知系の機構が幾つか備えられているので、色んなことに対応できる……正に痒い所に手が届くゴーレムになっている筈だ。これは試作だから素材も土だけど、本当ならもう少しちゃんとした素材で作って耐久性も向上させておきたい所である。
「これでゴーレムが三つ……完成だね」
「ゴーレム作るのに何十分かけてんだよ……前はパパパっと数秒で作ってただろ?」
「アレはインスタントだからだって。これは、ちゃんとしたやり方で作ったゴーレムだから……多少は時間もかかるんだよ」
とは言っても、三十分近くかけてしまうつもりまでは無かった。作ってる内に、熱が入って気が付いたらね……。
「よいしょっと。待たせてごめん、でも出来たよ」
「はいはい、さっさとやらせろっての!」
ウィーは待ってましたとばかりに柔軟体操のように体を動かし、戦意の滾る目で僕のゴーレム三体を睨んだ。
一体は狼のような姿をしたゴーレム。造形に関しては、もろグリーンウルフをパクっている。もう一体は、人型の図体のデカいゴーレム、そして最後がさっきのトーテムゴーレムだ。
「ゴーレムの能力、説明しておいた方が良い?」
「良いから始めさせろよ!?」
初見殺しみたいにならないかなぁ。まぁ、ウィーなら大丈夫か。
「うん、よし。じゃあ、始めようか……あ、先に術は起動しないで良い?」
「大丈夫だ。お前も気合入れてそれ作ってたのに、フェアじゃねーだろ?」
優しさには甘んじさせて貰おう。最初から超感覚だと、確かにゴリ押されて何も分からずに終わる可能性もあるし。
「なら、行くよ。位置について、よーい……どんッ!」
「んだよ、その変な合図……っとッ!?」
予想外の速さで飛び込んで来たのは、狼の形をしたゴーレムだった。このゴーレムは、簡単に言えば速度特化である。風除けの魔術をちょいと弄って仕込んであるので、殆ど空気抵抗を受けることなく動くことが出来る。のと、他にも色々仕掛けがあるんだけど……まぁ、大体は足を速くする為の仕掛けなので良いだろう。
「ッ、なんだこりゃ……ッ!? ローパーかよッ!」
狼を避けたと思えば、次に飛んできたのは三本の触手だった。触手の本数自体はもっと生やせるんだけど、早く伸ばす時には伸ばす数を減らす程に速度は出る仕様だ。
「チィッ、邪魔くせぇっ!」
ウィーは後ろに跳んで避け、そして魔力を己の体に……いや、脳と目に巡らせたようだった。さっきまでとは見違えるように、追ってきた触手と狼の動きを完全に見極めて避けている。
なるほどね、先ずは回避する余裕を作ってから……ゆっくりと、全ての感覚を解放して超感覚に至るという準備を整えているらしい。
「クソ、こういうのも直ぐ入れるようになれるんだろうけどな……まだ、慣れてねぇからしゃーね」
悪態を吐くウィーの前に、遂に立ちはだかったのは大柄なゴーレムだ。その大きく太い腕を振り上げて、ウィーへと振り下ろそうとする。
「おせぇ……よッ!?」
ウィーが目を見開く。同時に、ウィーの体が押し潰されるように膝を突きかけていた。咄嗟に手で地面を突いて耐えたウィーは、ぐるりと地面を横に転がって振り下ろされる腕を回避した。土煙が上がり、その威力にウィーは表情を僅かに引き攣らせた。
「クッソ……何なんだ、こいつ!?」
体が重い。きっと、ウィーはそう感じていることだろう。しかし、それも当たり前である。あのゴーレムは半径三メートル以内の重力負荷を強化できる能力を持っているからだ。とは言え、この時間で複雑に色々と仕込むことは出来なかったので、腕を振り上げると能力が発動し、振り下ろしてから数秒後に負荷がじんわりと解除される仕様になっている。
「なんだ、軽くなって……いや、またッ!?」
再び、転がってゴーレムの腕を避けるウィー。だが、そこに触手が伸びて迫って来ていた。
「あ?」
触手のスピードが、遅い。故に、動きの遅くなっていて、回避後という隙を晒した状態のウィーでもギリギリ避けることが出来た。
「……そういうことかよ」
納得したように吐き捨てたウィーは、少し離れた距離から見ている狼のゴーレムを見ていた。あの狼のゴーレムは、かなり軽量化されているので、このゴーレムの負荷空間には入れないのだ。
「寧ろ、チャンスだな」
にやりと笑ったウィーは、大きな腕と無数の触手の両方を負荷空間の中で避けながら、その魔力を己の身体に巡らせた。




