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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能とゲーム

 さてさて、妹の詰問も躱したことだし、今度こそどこかの魔術士でも覗き見してみようかな……と、そこで僕のスマホがぶるると揺れた。今度は一体何だと言うんだ。

 僕はスマホを手に取り、届いたメッセージを確認した。そこには『いける』とだけの簡潔なメッセージがあった。


「ん、絵空……あ、そうだ」


 忘れてたけど、そういえば夜にゲームする約束してたんだった。実は、最近僕らがハマっているゲームがある。五対五でお互いに攻め合って本拠地を破壊した方が勝つゲームなんだけど、これが中々面白いんだよね。


 僕はスマホに届いたメッセージに既読を付けて、パソコンを起動した。そして慣れた手つきでゲームと通話用のソフトを起動してイヤホンを接続し、マイクの電源を付ける。


「はいはい、もしもし」


 既に通話に入っていた絵空に合流し、声をかけるとマイクが付く音がした後に絵空の声が聞こえた。


『よ、やるか』


「やりますか」


 最近は色々あったってのもあるけど、三日ぶりだ。腕が鈍っていないと良いけど。そう思いながら僕はゲームを開いてフレンドから絵空を招待し、ランクのマッチメイキングを開始した。


『にしても今日はヤバかったな』


「ね。あんなことあるんだねって感じだよ」


『それな? あの女の子可愛かったよなぁ……制服じゃなかったけど、高校生じゃないんかな?』


「さぁ? 歳は同じくらいに見えたけど……あ、もうマッチした」


『マジかよ。早えな』


 キャラの選択画面に映ると同時に、ミッドという戦場の中央を担当する役割である僕はメイジのキャラを押した。簡単に言えば、敵全体にダメージを与えるのが得意な魔法使いである。因みに絵空は戦場全体を動き回って各地に影響を出すジャングラーという役割だ。


『ていうか、結局あの子に呼ばれた時何話してたんだよ』


「え? だから秘密だって。禁則事項ね」


『古いわ。マジで、ここだけの話ってことで聞けね?』


「無理無理。僕は秘密は守る主義だから」


『お前、この前も黒崎さんと話してたしズルくね? 何かコツとかある?』


「無いよ。そもそも、黒崎さんはアレからそんなに話もしてないし……あ、始まったよ」


 試合が始まり、味方の本拠地から湧いた僕は戦場に向かって走っていく。三日ぶりだからちょっと不安はあるけど、セーフティにやってれば大丈夫でしょ。



 死んだ。僕は死にまくった。このゲームはキルされると相手にゴールドと経験値が入って相手のキャラが強くなってしまうという性質があるのだが、僕の対面に居る相手のキャラは既に最強になっていた。僕たちの本拠地に繋がる道に立つ塔は既に叩き折られ、僕たちは危機的状況に陥っていた。


「いやぁ、ごめん……いきなりランクに行くのはヤバかったかも」


『まぁまぁ、しゃーなしだって。それに、俺は結構育ってるし……』


 絵空の言葉は途中で途切れた。それは、チャット欄に文字が書き込まれたからである。


 〈mid gap〉


 これはつまり、ミッドを担当する僕を罵倒する言葉であり、最強の敵を育て上げてしまった僕に対する怒りの言葉であった。


 〈sry〉


 〈メイジなのに前に出過ぎ。立ち位置分からない人はメイジ向いてないよ〉


 謝罪のチャットをした僕に畳み掛けるような攻撃が刺さる。僕の顔には強張った笑みが浮かんでいた。


「……あはは」


『あ、あー、ミュートしといたらどうだ? どうせ碌なこと言わないだろうし』


 僕の耳には絵空の言葉は既に届いていなかった。何だこいつ、ふざけるなよ。ていうか、お前も結構死んでるじゃねえか。自分のこと棚に上げてんじゃねえよ。あと、メイジ向いてないって何? 僕はリアル魔術士なんですけど? イオ〇ズンでも撃ってやろうか? あ?


 ていうか、僕は全知全能だし? 今からこのチャットした奴の家に行ってパンチ食らわしてやるか? 顔を隠して行けばバレることも無い。



 …………いやいやいや、無しだよ。無し無し。ゲームでキレて報復に全知全能なんて使ってたらキリが無いし、そんなのはただのクズだ。僕は全知全能だけど、全知全能のクズにはなりたくない。


 でも、今からこのゲームを勝たせるくらいなら……良くないよね。



 僕はそこから更に三回ほどデスを重ねた後、無事ゲームに敗北した。

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