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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能とファン

 家に帰った僕はさっと風呂を浴び、パジャマに着替えてリビングに戻ると既に晩飯の準備が出来ていた。


「ほら、早くして。もう出来てるから」


「ごめんごめん」


 僕は慌てて席に着き、手を合わせた。食卓には既に妹の柚乃に姉の美那、母に父と、僕以外の全員が揃っている。少し待たせてしまったようで、柚乃とお姉ちゃんはこちらを睨むように見ていた。


「はい、頂きます」


「「「いただきます」」」


 母が言うと、皆も続けて言った。今日のご飯は豚の生姜焼きにキムチ、ミニトマトにホタテがそれぞれ別の皿に盛られていた。


「うん、美味い」


 僕は真っ先にホタテに箸を伸ばした。醤油に付けて食い、米をかき込むと最高だ。結構、海鮮の中ではホタテは好きな方だ。好物の一つと言っても良いだろう。


「ふふ、そうでしょう。最近、珍しく図書館で勉強してるから、応援の気持ちも込めて買って来たのよ」


「あは、ありがとう」


 僕は愛想笑いをして誤魔化した。図書館で勉強なんて実のところ一回もやっていないからだ。今度、アリバイ作りに行っておこう。本を読むのは嫌いじゃないし。


「それにしても、今日はちょっと遅かったね」


 お父さんが僕の方を見て言った。お父さんはいつも僕より遅いけどね。


「ん、友達とカラオケ行ったんだけど……何か、不良的なのに絡まれてさ」


「え、大丈夫だったの?」


「的なのって何よ。不良じゃないの?」


 黙ってご飯を食べていた柚乃が思わず口を挟んだ。姉は怪訝そうな目で見ている。


「いや、まぁ不良だね。でも大丈夫だったよ。何か、赤い髪の女の人が助けてくれてさ。歳は僕らくらいだったように見えたんだけど……」


 僕が言うと、妹が突然机を叩いて立ち上がった。


「ちょっと、食事中に行儀悪……」


「――――その女の人って、手に布とか巻いてなかった!?」


 妹の言葉に、僕は思い出した。


「あぁ、巻いてたね。赤い布みたいなの、手に巻いてたよ」


「ッ、やっぱり……!」


 妹は確信したように両手の拳を強く握った。


「なに、知ってる人なの? 髪を赤く染めてて手にも布なんか巻いてる高校生なんて、明らかに手が付けられないレベルの中二病でしょ」


「は!? 違うから! 炎の女帝って知らないの!?」


 冷たく言う姉に、妹が反論すると、寧ろ姉は吹き出してしまった。


「ちょっと、汚いじゃない!」


「あらら……ほら、これで拭きなさい」


 叱る母に、ティッシュを纏めて取って渡す父。姉はそれで口元と机を拭きながらも、笑いは収まっていない。


「ぷっ、ふふっ……いや、ごめんごめん。だって、柚乃が滅茶苦茶面白いこと言うから悪いんじゃん……!」


「何が面白いの!?」


 混沌と化し始めた食卓に、僕は早くも話題を提供してしまったことに後悔していた。そもそも、あの赤髪の女の人……茜とか名乗っていた人は、魔術士だ。それか、魔術に関する知識を持ってたり関係する人。詳しくは後で調べて見るとして、間違いなく一般人じゃない。なのに、ここで話してしまったのは不良達が騒ぎ立てていたせいで表の世界の人間だと認識してしまっていたせいだろう。


「だって、高校生で炎の女帝って……だ、誰が呼んでるのよ? ふふっ」


「笑わない方が良いよ。呼んでるのは、何てったって裏の世界の人間だから」


「裏の?」


「そうよ!」


 僕が思わず聞くと、妹は自信ありげに答えた。僕の認識が間違っていなければ、妹の言う裏の世界の人間とはあの不良達のような奴らのことだろう。


「柚乃、怖い人と付き合ったりするのはやめてね」


「別に、私はそこら辺歩いてるしょうもない不良なんてどうでも良いし。でも、炎の女帝は別だから! 不良の男だって、あの人にはビビって道を開けるから!」


「確かに、僕らを追いかけて来てた奴らも見ただけですくみ上ってたね」


「でしょ!? えー、良いなぁ……私も会いたかった」


 席に座り直し、しみじみと言う柚乃。正直なところ、僕はあんまり関わって欲しくない。


「そういえば、何で柚乃は茜さんのことを知ってるの?」


「初めは友達から聞いて、気になって調べたら色んな噂があって……悪い不良を片っ端からワンパンして更生させたり、ナイフを持ってコンビニを襲った男をワンパンで沈めたり」


 凄いね、全部ワンパンじゃん。そこで、柚乃は何かに気付いたように僕のことを見た。


「……なんで、名前知ってるの?」


「え? あぁ……何か、そういう流れになってさ」


「ズルい……お兄ちゃんばっかりズルい!」


「柚乃、落ち着いて。治だって狙ってその人と会った訳じゃないんだろう?」


 父が諌めるように言うが、妹は不貞腐れた表情のままだ。


「寧ろ、その方がムカつくから……! 狙って会ったならまだ分かるけど、偶然会ってしかも助けて貰うなんて運良すぎじゃん!」


 確かに。必死こいてガチャで当たりを引いた奴より、特に何も知らずに何となく初めてビギナーズラックで引きやがった奴の方が格段にムカつくというものだ。


「……お兄ちゃん、連絡先とか貰ってない?」


「え? いや……貰ってないよ」


 そういえば連絡先的な奴も貰ったね。住所の書かれた紙みたいな。勿論、言わないけど。


「むぅ……ズルいよぉ」


「炎の女帝は面白いけど、不良でもビビるくらいの女の子って凄いじゃん。どんだけ怖い顔してんの、その子」


「いや、全然顔は怖くなかったよ? 寧ろ、相当可愛い方だと思う」


 僕の美的センスはゼロに等しいが、それでもあの子が可愛かったのは分かる。モデルとかもやれるレベルなんじゃないかな。ただ、目つきはちょっと悪いけどね。


「そうじゃん、顔も見たんだぁ……良いなぁ……!」


「うん。今度会えたらサインでも貰ってくるよ」


 ここまで感情剥き出しの妹は久し振りに見た気がする。多分会うことは無いし、あの住所を目指すことも無いけど、もし会えたらサインくらいは貰ってあげよう。恩があるとか何とか言ってたし、そのくらいはしてくれるだろう。

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