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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と友達

 振り回される炎の鞭は、三つ又に分かれて縦横無尽に宙を舞い、少女を狙う魔術を撃ち落とし、接近した魔術士を鞭で締め付けて焼き殺した。


「ハッ、来てみやがれよ……! おい、そこバレてんぞ?」


 圧倒的な鞭の力に二の足を踏む魔術士達。少女が鞭の先を離れた茂みに向けると、三つ又の鞭は一つに纏まって光線の如く一直線に伸び、その茂みを貫いた。


「痺れな」


「がッ!?」


 網膜を焼く程の雷光が迸り、黒焦げの死体が一つ出来上がった。


「おいおい、これでも魔力込めすぎかよ……」


 最早呆れたような笑いを漏らした少女は、鞭を元の形に戻して確かめるように数度振るった。


「だが、これなら魔力切れの心配はねェな」


 言いながらも、隙無く周囲を睨んでいる少女。誰かが魔術を唱える気配を見せた瞬間に、その鞭は凄まじい速度で変幻自在に形を変えて襲い掛かる。しかも、当たれば即死級の電撃付きだ。


「……ぞ」


「……あぁ」


 何かを囁き合っていた魔術士達は、一斉に踵を返して逃げ出し始めた。


「逃げる気かよ」


 冷静に呟いた少女は、その内の一人に狙いを定めて鞭を振るった。炎の鞭は一番後ろにいた男をぐるりと巻き取って少女の下へ簡単に連れ去った。

 仲間が捕まっても、魔術士達は振り返る気配すらない。


「さぁ、尋問の時間だぜ?」


「……救いを」


 男は少女を虚ろな目で睨みながら手を組むと、その命はあっさりと失われた。少女が慌てて確認すると、自殺用の魔術が仕込まれていた痕跡があった。


「クソ気味悪ぃ連中だぜ、マジで……」


 少女は吐き捨てるように言うと、立ち上がってその場から去っていった。




 ♦……side:宇尾根 治




 アレからも僕は魔力鍛錬を続け、魔力の操作を上達させていった。それに伴って最大魔力保有量とやらも増えているらしいが、あんまり関係ない。僕は足りない分の魔力は全知全能からいつも引っ張ってきているからだ。


「じゃあ、治。ここ答えなさい」


「ん、x=22です」


「正解。お前、いっつも聞いてないように見えてちゃんと聞いてるな」


 僕は愛想笑いをして席に座った。当然、聞いていないように見えて聞いていない。流れるように全知全能に頼っただけのことである。


「……」


 僕は目は開いたまま視覚をシャットアウトし、魔力を知覚することだけに意識を集中した。すると、視界の代わりに周辺の魔力の状況が見え始める。と言っても、実際に物を見るのとは全く違う。何故なら、この魔力知覚は360°全て見えているからである。


 いつもの呼吸法も併用した僕の魔力知覚は、壁すらも超えて隣の教室まで到達し、更に隣の教室まで伸びて……そこまでが限界だった。全知全能曰く、これはエネルギー体と呼ばれる肉体ではない非物質的な体を利用するやり方であり、全知全能の力を持ってしてもこの感覚を掴むのは難しかった。


「お、丁度だな。んじゃ、授業終わるからな。挨拶」


 授業のチャイムが鳴り、先生がパンと手を叩いた。僕を含めた皆が一斉に立ち上がり、挨拶をする。それから直ぐに椅子に座り込む者も居れば、座らずに近くの友達と話し始める者も居る。勿論、僕は前者だ。


 座り込み、いつも通り机に突っ伏すと同時に魔力知覚の修行を再開する。例の如く、修行したところで意味は無い。別に僕は誰とも戦わないし、魔力に頼らずとも全知全能があるからだ。

 つまり、ただのロマンである。魔術の修行に打ち込み強くなるという、それ自体に意味があるのだ。


「……ふぅ」


 そんな凄い僕だが、当然トイレには行きたくなるので立ち上がり、催した尿意を発散するべくクールに歩いた。


「お、治じゃん!」


「ん、絵空。ちょっと振りだね」


「まぁな」


 絵空はへっと笑い、鼻を擦った。


「何か、浮ついてない?」


「いやぁ、それがな? 姉ちゃんの調子が最近良くなって来てさぁ、もう正直治る見込みはないってお医者さんには言われてたんだけど……奇跡ってあるもんだなぁ」


 しみじみと言う絵空の目から、一筋の涙が零れて行った。


「絵空。やっと体調良くなったのか?」


「おぉ、善斗。いや、ここだけの話、実は体調不良って嘘でさ」


 トイレから帰って来ていた善斗が僕達を見つけて話しかけて来た。僕達というか、離れたクラスに居るせいでこの時間まで出会えていなかった絵空に対してだが。


「嘘? まさか、サボってたのか?」


 多少面倒臭い正義感がある善斗は、目を細めて言うが、絵空は両手を上げて首を振った。


「ちげぇよ。実は、俺の姉ちゃんの調子が良くなって来ててさぁ……お医者さんも、このまま行けば治るって」


「ッ! 本当か! 良かったな……絵空」


「うん、良かったね」


 心から祝福するように言う善斗に、僕も一応乗っておいた。真実を知っている僕としては、何とも反応しづらいが。


「だから、もしものことが無いように治るまでの間は付きっきりで俺が看病しようと思ってたんだよ」


「ん? それなら何でここに居るの?」


「姉ちゃんが、もうだいぶ元気になったから学校行きなさいって尻を叩かれてさ。俺も粘ったんだけど、アレは本気で怒る時の奴だったから……でも、怒れるくらいの元気を取り戻せたってだけで本当に信じられないぐらい嬉しいよ」


「……良かったな」


 善斗の目からも、涙が零れていた。ここ、もうトイレなんだけどね。僕、トイレして良いのかな。この雰囲気で。良いか。


「……思えば、良くなり始めたって聞いたのはあの全知全能がどうとかってバカな話した日だったな」


「お前も聞かれてたのか」


 トイレに腰を近付けながら言う絵空に、呆れたようにこちらを見る善斗。あんまりこっち見ないで欲しい、トイレ中だから。


「もしかしたら、あの話のお陰で神様に願いが通じてたり……とかな?」


「なわけないでしょ」


 僕は神様とか、高尚な存在じゃない。全知全能なだけの人間である。


「ハッ、まぁな。でも実際、そんくらいの奇跡ではあるんだよな。あの状態から、快復するなんて……未だに、夢なんじゃないかって思ってる」


 そうなんだ。寧ろ、僕としては元気になるの早いなって思ったくらいだけどね。普通の人なら一カ月かけて治るくらいの感じでやったんだけど、そもそも体が強かったんだろうか。一週間足らずで元気を取り戻せるなら、三週間もすれば完治していそうだ。


「良かったね」


「あぁ、良かった。マジで」


 しみじみと、絵空は小便器の前で言った。

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