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第14話 一緒に素敵な思い出を

 登校以外の用事で久々に外出した外。その暑さは9月も後半だと言うのに未だ衰えを知らず、元凶たる張本人はその輝きをさらに増している様に感じられた。果たして春夏秋冬とは何だったのだろう。


「クロ。暑くない? 大丈夫?」

『うん! クロは大丈夫!』

「そっか。それなら良かったけど、もし暑くなったらすぐに言ってね。日影で休むから」

『分かった!』


 元気よく尻尾を振りながら返事を返したクロは、しかし疲れる様子など微塵もなく、恐らく一時間後も二時間後も元気に歩き続けているのだろう。それでも、それは楽しそうに歩いているクロを見ると、それだけで暑いのも悪くないと思える。本当に不思議だ。


「そう言えばクロ。こっちの世界で外に出るのは初めてだと思うけど、ダンジョンではどうだったの? あの門から離れたことはあるの?」

『ないよ。クロは門の番犬だったから。ダンジョンが出来て以来、ずっとあそこに居たよ』

「そうだったんだ。それは辛くなかった?」

『全然辛くなかったよ。あそこに居るのが当たり前だったし、爺も居たし、それに今は主がいるし!』


 元気よく発された言葉は、しかし強がってなどおらず、恐らくそれは、クロの本音だった。本当にクロにとって番犬の仕事は辛いものではなかったし、外に出られない事を悲しいと思った事もなかったのだろう。


 それでも、外の景色を知れないのは、外の空気を吸えないのは悲しい事だと思うから。だからこれは僕のエゴだけど、クロにはもっと色々な場所に行って、沢山の景色や食べ物を食べて、目一杯遊んで楽しんでほしい。普通の人間が出来るような生活をしてほしい。だから。


「ねえ、クロ。今日は近場を散歩するだけになっちゃうけど、今度からはもっと遠くに行こう。綺麗な景色を見て、美味しい食べ物を食べて、沢山遊んで。そうやって楽しい思い出をどんどん増やしていこう。それでいつか、楽しかったねって、一晩中語り尽くそうよ。どうかな?」

『主。それ、すっごく楽しそう! 綺麗な景色も美味しい食べ物も、遊ぶのも、全部楽しみ! でも、そのどれにも主が居てくれないとクロ嫌だよ。主と一緒に一杯思い出を増やしたい』


「もちろんだよ。僕だってクロとシエラと一緒に思い出にしたいから」

『ご主人様、わざわざそこに私を入れなくてもよろしいのですよ』

「そんな事言わないでよ、シエラ。僕にはシエラが必要だし、それにシエラがいない生活なんてもう考えられない。それくらいシエラは大切な存在なんだよ。そんな存在をほったらかしにしてクロとだけ思い出を作るなんて出来る訳ないじゃん。それに、さっきはシエラに気を使って言った訳でもないんだよ。僕がシエラと一緒に思い出を作りたかったから言ったんだ。だからね、シエラも僕と一緒に思い出を作ってくれない?」

『……まさか、ここまで想っていただけていたなんて。はい。勿論です。私にも、ご主人様の作る思い出のお手伝いをさせてください』


 一見すると可笑しな会話。家族間では絶対にしない様な会話。でも、今はそれがとても心地良くて。

 だからだろう。もう少し長く外にいたくなってしまったのは。


「よし。今日は近場を回るだけにしようと思ってたけど、やっぱり公園まで行こう。クロ、今日は思い切り走れる所まで行くよ」

『本当⁉ やったー! 楽しみ! 早く行こう!』


 存在しないリードを思い切り引っ張られている様な感覚を覚えながら、少し足早に歩を進める。それは多分、僕も楽しみにしているからだろう。皆と作れる、最初の思い出に。


「そうだシエラ。外に出て来てからさっきまで、ずっと喋ってなかったけど、やっぱりこの世界の事は知ってたの?」

『はい。でないと、九大ダンジョンや休日に関しての話もできませんから。ただ、ご主人様とクロと一緒に見る当たり前の風景が、こんなにも美しいものだという事は、初めて知りました』

「ふふ、そっか」

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