婚約者が実は私を溺愛していた
「オリヴィア嬢、僕達は王命により婚約者になった。けれどそれだけの関係だ。くだらない感情は持たないでくれ。」
「わかりました。」
これが王太子、コーデリア・ジルバン・ファンハートと公爵令嬢である私、オリヴィア・サジル・ロンバートの最初の会話だ。とても7歳の会話ではないけれど。
それから時は流れ、私達は16歳となりもうすぐ成人式のデビュタントが開かれる。
「おはよう、オリヴィア」
「おはようございます、殿下。」
周りからは私達は完璧なロイヤルカップルに見えていることだろう。
「そうだ、ドレスを贈るから今度のデビュタントで着てくれるかな。」
「いえ、もう決めていますので結構です。」
「…でも婚約者なわけだし、僕から君に贈るのが礼儀だと思うんだけど。」
「申し訳ありません。メイド達が目を輝かせて準備してくれたので、受け取れません。一応婚約者なので殿下の色には合わせてありますわ!」
「ちゃんと、婚約者だけどね。」
「お互いの色を入れてれば問題ないですよね。」
「…じゃあティアラを贈るからそれだけはつけてくれ。」
「わかりました!」
ー数日後デビュタントー
私は白銀のドレスにサファイアのティアラと装飾品をつけて、殿下は白銀に金糸の刺繍を施した礼服を着て登場した。
会場からは拍手と羨望の眼差しを受ける。
慣例に従い位の高い者から、つまり殿下と私のダンスで始まり、他の子達がそれに続く。
「オリヴィア、僕と踊ってくれるかい?」
「もちろんよお兄様!」
婚約者、家族、友人の順でダンスを踊りもうへとへと。
そんな私の元に1人の少女が近づいて来た。
「オリヴィア様!」
「…はい?」
どちら様でしょう?この子と知り合いだったかしら?
「いい加減殿下を解放してあげて下さい!」
ーザワッ
うーん、声が大きい。これじゃあ注目されちゃうわ。
「…というと?」
「オリヴィア様は殿下の婚約者に相応しくありません!いつも冷たい態度をとってるし、殿下が可哀想です!」
ーシーン…
「あら、殿下がそう仰ったのでしょうか?」
「仰らなくても見てればわかります!」
つまりはこの子の主観というわけね…。
「貴方は随分殿下のことをよく分かっているみたいね。」
「私は殿下の運命の相手ですから!」
ーザワッ
「これは…なんの騒ぎかな?」
「「殿下!」」
「オリヴィア、何が?」
「殿下、おめでとうございます!彼女、殿下の運命の相手らしいですわ!」
(((…え?)))
「あなた、お名前はなんと言ったかしら?」
「ナ、ナタリー・サイラウスで、す、?」
「あら、あなたがあの聖なる光の使い手の聖女候補だったのね!なら良いと思うわ!」
「オ、オリヴィア?」
「殿下、今ならまだ婚約破棄が間に合います。相手も聖女候補ならば問題ないかと、なにより運命の相手ならばお二人が結ばれるのが自然です!」
「…オリヴィア」
「私達はお互い愛がある訳でもないので幸いですわ!ナタリーさん、私の代わりに殿下を頼みます!」
「え?は、はい?え?」
「オリヴィア」
「でも、どうやって運命の相手かわか「オリヴィア!」
ビクッ
殿下が私に対して声を荒げるのは初めてだ。
「オリヴィア、私は彼女が運命の相手だなんて思ってないよ。全て彼女の妄想だからだ。」
「そ、んな、殿下は私に親切にして下さったじゃないですか!行く先々で会うから運命だって…!それにオリヴィア様と話す時は笑顔もないし…つまらなそうでした!」
「私は誰にでも公平だ。決して君を贔屓した訳ではない。行く先々で私を待ち伏せていたのは君だろう、運命どころか偶然でもない、オリヴィアと笑顔で話せないのは国や外交の話をしているからだ。」
「そ…そんなっ…」
「だからオリヴィア、変な誤解はしないでくれ。」
「…わかりましたわ。残念ですがナタリーさん、そういう事らしいので婚約破棄出来なさそうです。」
「なっなんでよぉ〜…私はヒロインなのにぃ〜」
ブツブツ言いながら泣いてる彼女を護衛達は引きずっていった。容赦ないわね。
「オリヴィア、話がある。」
そう言われ、テラスへと誘導される。
「オリヴィアは私のことをどう思ってる?」
「?…婚約者だと思っております。」
「うん、そうなんだけど…さっきは随分と早く婚約破棄を決断したよね。」
「そうですね、運命の相手ならばと思ったので。だって私達は王命で選ばれただけの関係ですから。」
「あー…うん…それ言ったの私だったね…」
「あの日から私の心は変わってません。安心してください、殿下のことは何とも思ってません!」
「ゔっ…オリヴィア…ちゃんと話し合おう。まず出会った日に私が言った発言は忘れてくれ。」
「それは…どういう?」
「言い訳になるけれど、あの頃は何もかも嫌になっていて、父に逆らいたくて、君のことを知りもせず遠ざけようとしていたんだ。それであんな事を…。」
殿下の気持ちはわかる。彼のお母様は第二王妃様だった。
第一王妃様は三人の子を授かったがいずれも王女様。
王の第一王妃への溺愛ぶりは有名だったが後継者である王子が産まれず、渋々あてがわれたのが殿下のお母様。
そして彼女は王の心が自分に向くことがないと知りながらも王を愛してしまった。
殿下のこと以外では全く振り向いてくれない王のことを。
だが耐えきれなくなり王宮を去ってしまった。まだ幼い殿下を残して。
母がいきなりいなくなったのだ、やさぐれても仕方ない。
ましてやその原因である父の命であてがわれた婚約者。
それを知っていたから、私はあの時何も言わずに殿下の言葉を受け入れたのだ。
「本当に申し訳なかった。」
「いえ、気にしてませんので。」
「でもね私の方がそのくだらないと思っていた感情を持ってしまったみたいだ。オリヴィア、君のことが好きだよ。」
「………えぇっ!?」
「うん、伝わってないよね、知ってた。」
「だって…そんな素振り…ちっとも…」
「結構アピールしてたよ。周りには割とバレてるし。」
そんなバカな…。
「いきなり言われても困ります。そんな風に見たこと一度もなかったのに…。」
「オリヴィアは…本当に正直ものだね(泣)」
「というか私、好かれるようなことは何もしてないはずですが!?一体いつからっ!?」
思い当たる節が無さすぎる!
「君を好きになるのに時間はかからなかったよ。母の陰口を言う輩に堂々と言い返すし、私には空気読んでヘラヘラしすぎと叱ってくれた。妃教育の大変さを決して外に出さないし、どんな時も笑顔で私を迎えてくれた。」
「それは…当然のことをしただけです。」
「その"当然のこと"は中々みんな行動に移せないんだよ。」
だからって…好きになる?
「それに君は他の人には貼り付けの笑顔だけど、私に対しては安心しきって可愛い笑顔ばかり見せるんだから。」
可愛い笑顔とは一体?…というか
「殿下…割と本気で…私のこと好きなんですね。」
ゔっ…自分で言ってて恥ずかしい////////
「本気も本気。婚約破棄なんか絶対しないよ。誰にも渡す気はないからね。」
…っ////////
「もっと早く言うべきだった。私は君のことを愛してる。」
「殿下…。」
「これからは、どんどん攻めていくから覚悟してね。」
「えぇっ!?」
ずっと何とも思ってなかった婚約者が、実は私を溺愛していたなんてっ!…一体これからどうなるの!?
その後宣言通りの猛アタック。
国内のみならず、周辺国にもその溺愛ぶりは知れ渡り、押されに押されまくった結果、結婚して2人の子宝に恵まれた。
そして子供達が大きくなるとすぐに王位を譲り、隠居生活を楽しんだとか。。。