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94話 葛藤の末に

 

「はぁ~~」


 サラがGA行きの列車の中で、何度もため息をつく。

 同乗するレイヴンは既にその回数を数えるのを諦めていた。


「そんなに嫌なら今からでも戻るか?」

「ううん、大丈夫。ありがと、お兄ちゃん。はぁ~~」


 数日前、マルドーソにいたレイヴンたちの元にジルがやってきて伝えたことは、サラに大いに悩ませることになった。ウルバスマイン政府経由でGAから送られたそれはサラの力を貸してほしいというものだった。


 彼女の力とはもちろんメタリア人の機械を理解する能力のことである。彼女と同様の能力を持つ少年にアドバイスを与えて欲しいとのこと。


 行くかどうかの判断は任すとのことだったが、行っても行かなくても面倒なことになるのは明白だった。書簡にはサラの能力のことは書かれていなかったので当初政府は喜んで行かせようと考えていた。ところが調べて見るとその少女はレイヴン・ソルバーノの妹として登録されている。これでは下手に刺激を与えられない。だが政府としてはGAに対して恭順の意を示す絶好の機会。そこでレイヴンの義父に仲介させることにしたのだ。


 協力を了承すれば、西側からはGAと軍事的な協力をしたと見られることだろう。どの程度の仕事があるのか分からないが、それは西側に対する敵対行動と受け取られてもおかしくないし、命の危険も当然ある。それだけでなくGAに幽閉される危険すらあるとサラは考えていた。


 実際の所、GAにはそんな意図はない。そんなことをすればレイヴンが敵となり、闇に潜んでしまう可能性があるからだ。ライガルリリーとの戦争を前にして内部に火種を抱えたくはないGAにとって幽閉するという選択肢はない。対策は進めているが大事なのはレイヴンがGAに協力したという事実を西側に知らせる事だ。


 ウルバスマインに送った間諜の報告から、サラを呼び出せば必ずレイヴンが付いてくるのを確信しており、実際にそうなった。こうなれば西側としてはレイヴンを取り込みにくくなる。故郷に戻ったとしても、レイヴンはひょっとしたらGAのスパイなのかもしれないと思うからだ。


 レイヴンはそんなGAの思惑を想像しつつも列車に乗り込んだ。レイヴンにとって大事なのは故郷が戦争に巻き込まれないこと、家族を守ることである。だがGAに対する不信感から、守るべき家族を危険に晒してしまったかもしれないという思いもある。


「(サラも同じ気持ちなのかもしれないな……)」


 だからこそ何度もため息をついているのだろう。レイヴンはそう考えていた。


 サラはこれまでの経緯からGAとは関わり合いになりたくないと考えていたが、不安が徐々に大きくなっているのを実感していた。もし行かなければ鉱山の皆に迷惑をかけるかもしれない。面倒を見てきた子供たちが戦争の被害に遭うかもしれない。それならばGAと敵対するよりかは協力した方が幾分マシ。そんな考えが思い浮かび、やむなく了承するに至ったのだ。


 レイヴンはそれを受けて護衛として共に向かう事に決意。書簡にはレイヴンの同行についても書かれており入国に問題はない。


 もちろんそれを素直に受け取るほどお人よしではない。GAに裏切られるという最悪の事態を想定して、護衛対象は限定する必要があった。そこでナナを説得してウルバスマインに残し、2人旅でGAに向かう事にしたのである。


 目的地はGA東部にあるリードロイアという町。GAは西部にあった重要施設を徐々に東側に移動させており、リードロイアもその一つだった。この町にメタリア人の遺産が運び込まれたのは1年前だという。それから町の様相は様変わりし、多くの軍人が行き来するようになっていた。


 列車が駅に着き、軍人たちが警備するプラットフォームを抜ける。


 レイヴンはそこで懐かしい女性と再会することになった。艶やかな髪を後ろで纏めた女性がレイヴンを出迎える。2度にわたりレイヴンに救われたミトリ・ニラは手を差し出した。


「5年ぶりですね、レイヴン」

「……ミトリ? ミトリ・ニラか?」

「はい!」


 21歳となり、美しく成長した彼女はレイヴンを笑顔で出迎えた。


「…………」


 そして主賓であるはずのサラはその様子を見て、とげとげしい視線を送っていた。

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