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8話 総司令グレイクの興味

 

 手術室の上では上層部への報告を終えた助手が電話の内容をクンドに伝えていた。電話は都市内でのみ繋がっており、都市と都市を繋げる長距離通信網はまだない。無線も当然ない。


「クンド博士、上に連絡したらこっちに来て直接確認したいって」

「……だったら念のために拘束具を増やしておかないとねぇ」


 クンドは部下に命じて、レイヴンの拘束をさらに強くした。仮にレイヴンが起きてしまったら装置を壊されてしまう危険もある。とても6歳児に対する仕打ちとは思えないが致し方ないだろう。

 それから数十分後、クンドは我慢の限界を迎えていた。


「まだ来ないのかね?もう辛抱たまらんのだよ」

「抑えて下さいクンド博士。下手したら予算減らされちゃいますよ」

「…………」


「いやあ、お待たせしましたね、クンド博士」


 そういって入ってきたのは軍総司令グレイク・マッダスだった。博士と助手はまさか軍の最高責任者が現れるとは思っていなかった。なにしろGA(グラン・アーレ)は軍事政権なので軍のトップという事は政治的にも頂点に立つ人物である。GAがまだ反乱軍と呼ばれていた頃から活躍したレイダーで、建国の立役者となったグレイクは25歳と若く、フットワークが軽かった。


「実に興味深い報告でしたので、部下に仕事を任せて来てしまいましたよ。それでどうですか?」

「それはこれから……一緒に下りますか?」


 そうして3人と遅れてやってきたグレイクの秘書はレイヴンの元に向かった。グレイクは現役のナイトレイダーでもあるので秘書は付いてこれず、息を切らしていた。もっとも、町中でレイダーとしての能力を使って移動するのはグレイクぐらいのものだ。非常時でもないのに他のレイダーがそんなことをしたら減給は免れないだろう。


 4人はレイヴンの周りを囲んで観察していた。黒く光っているのはちょうどレイヴンにレイダーコアと呼ばれるもう一つの心臓が埋め込まれたあたりだ。


「触れて見ても?」

「問題ありませんねぇ」


 なぜなら追加の麻酔薬を注入しているから。ちょっとやそっとじゃ起きてはこない。グレイクはレイヴンの黒く輝く金属部分を手で摘まんだ。


「硬度は他より少しあるくらいか……だが、ここまでのしなやかさは初めてじゃないか?」

「ほうほう」


「少し試してみるか……」

「いや、それは流石にマズ――」


 グレイクは慌てふためくクンド博士をよそに、自らの右手指先だけを金属化(メタライズ)させて指で弾いた。


 指を当てられたレイヴンの胸は金属部分を含めて、へこみはしたが直ぐに元の位置に戻っていった。


「なんという柔らかさだ、これならかなりの耐久力になるだろう」

「ええ、それに瞬発力にも可能性を感じますねぇ」


 クンド博士はすぐに指示を出してレイヴンを運び出させた。思ったより過激な手段でなかったが、これ以上勝手にやられておもちゃ(レイヴン)を壊されたら堪らないといった様子。現時点での硬度はレイヴンとグレイクでは大きな隔たりがあるので、クンドが心配するのは当然だろう。


「それで博士は何が原因と見る?」

「ふむ、そうですねぇ。金属化というのはそもそも異物に対する免疫力の現れ、と考えられております」


「金属化は自分の身を守るための手段ということだったな」

「ええ、その通りです。これまでの統計では比較的清潔な都市部よりも山間部にいた方が、激しく反応する傾向があります。もちろん個人差はありますがねぇ」


 グレイクはレイヴンの資料を(めく)っていた。


「ということは、この子は特別に免疫力が高いということかね?」

「今の所はそうとしか……。手術完了直後にこれほどの大きさの金属化を見たのは初めてですしねぇ」


 グレイクはしばし考え込むと秘書を呼んだ。


「資料によるとこの少年は東部からきた孤児と書いてある。グローリアの常駐警備にいただろ?あまり強くないが、その……面倒見の良さそうなレイダーが。隔離期間が終わったら彼女の元に送るように手配してくれ」


 グレイクはレイヴンを特別扱いしようと指示をだしたが、秘書はこれに待ったをかけた。


「彼は孤児ですが心を開いている男性がいますし、母親役を無理に作って特別扱いするよりはむしろ仲間と共に過ごさせた方が宜しいかと……」


 多くのレイダーはGAに家族を持ち、彼らを守るために戦っているが、過去に金に釣られて裏切った者も存在する。グレイクとしてはレイダーの裏切りを防ぐための手段を提案したつもりだったが、聞いてみれば確かに秘書の考えの方が良いかもしれない、GAに愛着を持ってくれるかもしれないと感じていた。


「む、確かにその方が良いかもしれんな。……しかし、こうも早く手術年齢を6歳に引き下げた効果がでるとはな……」


 メタリア人の遺産によって、改造手術で戦力強化の目途が立ったGA、当時の反乱軍は屈強な成人男性を戦力にしようと優先的に改造をすることにした。だが手術を受けた者は全員が死亡した。


 それから徐々に年齢を下げて10代の少年少女たちに手術を行ったが、グレイクなどわずかな人間だけが生き残ることになった。


 手術を受ける年齢はさらに下がり、最終的には5、6歳頃に受ける事が最も安全であるとされて現在に至る。


 だが本来であれば、ゴア打倒のためにはリスクがあったとしても即戦力になるレイダーが必要だったはずだ。ところがGAには切実な食料問題があった。レイダーの誕生によって優位に戦ってきたGAは、急速に領土を拡大したことでゴアから多くの国民を解放した。その結果、深刻な食糧不足に悩まされることになった。


 これ以上国民が増えれば食料の取り合いが始まり、内部から崩壊する恐れすらあった。そこで戦力が均衡していた状態で拡大政策を一旦中止、防衛線を張ることで農業、漁業を推進し、中長期的な侵攻計画に切り替えた。


 一方、立て続けにGAに敗北していた魔法王国も、戦力の立て直しに迫られていた。それまで特に訓練しなくても圧倒的だった魔導士が破れたことで、戦闘に特化した魔導士の育成が求めらていたのだ。そういった両陣営の事情もあり、局所的な戦闘はあるものの大規模な戦いには発展せずに時は流れていく。


 GAはその期間を利用して、手術後に死亡させることなく、安全にレイダーの数を揃えようと考えていた。

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