6話 ナイトレイダー訓練学校入学
「うっわぁ、凄い高い城壁だ……」
速度を落とした列車から見える首都グローリアは高い城壁に囲まれていた。城壁の一部からは円柱状に上に伸びており、そこから周囲を照らすライトが取り付けらている。城壁の目的はもちろん外敵から都市を守るためである。しかしながら、これは大砲を想定して造られたものではない。大砲が開発された頃ならいざ知らず、爆薬が高性能化された現在では城壁など役に立たない。それなのに完成したのは最近だという。では一体何のために造られたのか?
もちろん対魔導士のためである。
爆弾を空から落とす魔導士の存在は、レイダーを数多く配備しているグローリアにおいても脅威だ。だが魔導士も制限なく飛べるわけではないので、少しでも高い場所からの回転式多銃身型機関銃(所謂ガトリングガン)による射撃を可能とする城壁の重要性は高い。むしろ幅を広くして簡易宿泊所を作るなどして24時間体制での警備に活用しているぐらいだ。陽が沈めば侵入者を発見しようと、発電所から送られた電力を使用してサーチライトが周囲を照らす。
そんな城壁内の街に入る方法は2つしかない。城壁を上から越えるか、下にある検問所を通るかだ。
レイヴンは城壁内にある駅で降りるとチェックを受けるために順番待ちしていた。
「はい、大丈夫。次の方……」
レイヴンは前の人の真似をして魔水晶に手を振れたが、反応もなく無事に入る事が出来た。これは魔導士から奪った小さな水晶で、魔法を使える者が触れると僅かに光る特性を持っている。全員をチェックすることで密かに潜入しようとする魔導士を見破る事が出来る代物だ。
「あの……これ渡すように言われたんですけど」
レイヴンは手紙に入っていた身分証を差し出した。それを見た係員の表情が一変して、丁寧な言葉遣いになる。
「レイヴン・ソルバーノ様ですね、あちらでお待ちください」
そう言われて別室に連れて行かれた。
「(……様?)」
レイヴンは疑問に思っていたが、これは係員なりの自己防衛手段だった。上からの命令ではなく、あくまで個人的な配慮である。レイダーが一騎当千の力を持つことはあまりにも有名。であるが、その人格まで保証されているわけではない。下手なことして恨みを買わないようにということだ。それは子供であっても変わらない。むしろ感情的になりやすい子供に対しての方が気を使うくらい。
殺風景な部屋で待っていると、身長が180cm以上はありそうな厳つい顔をした男性が入ってきた。
「君がレイヴンだな。私はイオス・ガルバハナ、君の担当教官だ。着いた早々で悪いが時間がない。付いてきたまえ」
それだけ言うとレイヴンの荷物を手に取って歩きだした。荷物といっても替えの服と靴ぐらいしかないが。
城壁を抜けた先の光景は、レイヴンが今まで見たこともないような華やかさだった。まず見渡す限りの人、人、人。そしてヴァイスマインでは見られなかった高層住宅にショーウィンド。端々から漂ってくる甘い香り。
だがそれらに目を奪われることなくレイヴンの視線はイオスの背中に注がれていた。陽気なジルとも違う大人の背中。そこから感じるのは黙って付いて来いという強い意志。一歩一歩が力強く、それでいて音をたてずにコンクリートの道を進んでいく。レイヴンは早足で追いかけていった。
「着いたぞ」
そこにはおんぼろビルを再利用した校舎と瓦礫だらけの校庭があるだけ。中に入って教室に近づくと甲高い声が聞こえてきた。
「ガキどもが騒ぎやがって……」
レイヴンはその小さな呟きを聞きとってしまい、緊張感が増していった。
このナイトレイダー訓練学校は今年開校の新しい試みだ。今年からレイダー改造手術の年齢を6歳に引き下げたことで、これまでの現場教育を中止して、若いレイダーをまとめて教育する方針に変わったばかりだった。
そのためイオス自身が教師になることを望んだわけでなく、レイダーの中から適性がありそうな人物に白羽の矢を立てた結果、不運にも選ばれてしまっただけだった。
「お前ら、うるせえぞ」
イオスは教室に入るなり、そういって睨みつけた。
「時間がたっぷりあったんだから、自己紹介くらいは済んでんだろ。俺が担任のイオスだ。で、こいつが……」
「レイヴン・ソルバーノです。よろしくお願いします」
そういうと一部の生徒からクスクスと笑いが漏れた。
「なまりすぎー」
「(そうなのかな?)」
田舎者を馬鹿にしたような口調であったが、まだ鉱山から出てきたばかりのレイヴンにはその真意は伝わらなかった。なにしろ比べられる知識や経験がない。その言葉に反応したのは、言われた本人ではなくイオスだった。無造作に拳を壁に叩きつけると建物が揺れ、天井から破片がポロポロと落ちてきた。
「……お前ら、勘違いしているようだから言っておく。ここの名称は学校だが、普通の学校だと思うんじゃねえ。訓練中に危険な目に遭うことだってある。死ぬことだってあるんだ。いつまでも浮かれてんじゃねえぞ、わかったか!!」
「……はい」
「声が小せえ!!」
「はいっ!!」
先程とは打って変わって教室は静かになった。そのタイミングで後ろで見守っていた女性が前にやってきてイオスを窓際まで押しやった。
「はいは~い。じゃあ、ここからは私が説明するね~。私は副担任のルウ・ライハです。あと一人事情があって遅れてるけど、30人皆で頑張っていこうね。え~、君たちにはこれから運動能力テストをしてもらいます。その後はお待ちかねの改造手術。というわけで校庭にレッツゴ~」
ルウは拳を振り上げたが誰も続こうとはしなかった。イオスの剣幕の後では仕方ないことだが、ルウは一人寂しそうに拳を下した。