54話 集まる同級生たち
レイヴンは列車で数日かけてGAの首都・グローリアに戻ってきた。GAのある南大陸は東西に伸びており、グローリアは大陸の中心辺りに位置している。大陸を西から東まで移動するとしたら10日以上要する長旅になる。レイヴンは長い列車旅で疲れて眠っていた。
目的地である首都の二つ手前、普段生活しているツヅミ駅で降りようとしたところに、ちょうど連絡係が乗り込んできた。緊急時以外の連絡係はレイダーでない一般兵が担っている。一騎当千のナイトレイダーは一般兵よりも上の立場なのでお粗末な対応になりがちだ。レイヴンは新たな指令を想像して気だるそうに敬礼したが、兵士はそれにかまわず伝え始めた。
「グレイク総司令から呼び出しです。すぐに出頭して下さい」
呼び出し先は勿論グローリアにある軍本部。レイヴンの住所はグローリアより東よりにあるので、自宅に戻られる前に伝えに来たのだ。グローリアからの電話線はまだ繋がっていない。
「ああ、わかった。すぐに向かう」
ぶっきらぼうに答えて、再び席に戻る。その直前に小金の入った紙切れをそっと手渡した。
幼いころからレイダーとしての訓練を受けて育ったレイヴンはあまり礼法に詳しくない。これまで所属した部署はいずれも堅苦しい挨拶を嫌っていたからだ。階級意識の強い他の軍人からしたら、レイヴンの態度はだらしなく見える事だろう。
レイヴンはそれによって、失礼な対応をしてしまうかもしれないことを自身でも認識していた。それによって無意味に敵をつくりかねないことも。そのため育ての親であるジルの助言を思い出し、金で解決できるならそれに頼ろうというのがレイヴンの処世術になった。
金に執着の少ないレイヴンにとっては、それが最も良い解決策に思えたし、実際に連絡係の兵士の評判も悪くなかった。というよりも他のレイダーたちはそんなことを一切しないので、相対的にレイヴンの評価が高まっていたのだ。
これが友人関係なら別の話だろうが、関わりの少ない者であるならば良好な関係を築くのに効果的だった。
それから列車に揺られて数十分、首都グローリアに到着した。
レイヴンは大きく伸びをして、ゆっくりと列車を降りる。トイレに入って先程の兵士に渡された制服に着替えて駅を出た。そこで見覚えのある顔から声を掛けられた。
「よう、レイヴン。相変わらず制服姿が似合ってねえなあ」
声の主は同期であるアッシュ・ローだ。その後ろには同じく同期のロンドン・バリーセムとベルナール・イェルチェンが控えていた。彼ら3人はレイダー訓練生時代からの仲であり、現在、長い辺境警備の任務を終えてグローリアに戻り、巡廻警備で駅に来ていた。鉄道は敵国に狙われやすいし、駅は人が多く集まるので問題も発生しやすい。その抑止力としての任務である。
「……俺もそう思ってるよ」
正に制服に着られているという表現が正しい。その答えに3人は笑い始めた。
「じゃあ、俺は総司令から呼び出しがあるから……」
GAは軍政権なので、総司令であるグレイク・マッダスは政治的にも軍事的にも頂点にいる人物である。本来であれば、一休みしてから行きたいところだが、そういう訳にはいかない。面倒くさく思いつつもレイヴンはすぐに去っていった。
だが残された者はそうは思うとは限らない。苛立ちをぶつけるようにレイヴンの背中を睨みつけていたのだ。
「ちっ、あの野郎、お高く留まりやがって」
愚痴るロンドンを宥めるようにベルナールが語り掛ける。
「まあ、でも仕方ないよ。あっちは本部お抱えのエリート様なんだから」
アッシュはそんな2人を窘めた。
「あいつのことは気にするな。それより任務に集中しろ」
彼らの反応には勿論理由がある。グレイクは最初期に誕生したレイダーの生き残りであり、建国に関わった偉大な人物である。直接会うなんて光栄なことだと思う者もいる。いくら戦闘力の高いレイダーであっても、中々会うことなどできはしない。それなのにレイヴンは気だるそうにしている。それを許せなかったのだ。
そんな3人をあざ笑う男がいた。
「ばーか。あいつがお高いんじゃなくて、お前らが低すぎんだろ」
挑発するようなセリフに3人は威勢よく振り返ったが、すぐに意気消沈することになった。声をかけてきたのはトト・インサニア。レイヴンたちと同期のレイダーであるが年は二つ上の実力者で、口の悪さにも定評がある。
「弱い奴は群れてねえでもっと訓練しろや。死にてえのか、ボケが」
3人は以前よりも口の悪くなったトトを睨みつけて、悔しそうに去っていった。




