5話 列車に揺られて
レイヴンを乗せた貨物列車は一路西に向かって走り続けていた。ヴァイスマインで採れた鉱石を運ぶ長距離列車には、寝台車両は1両しかない。レイヴンはその一室で5日以上の時間を過ごすことになる。目的地はGAの首都、グローリア。
レイヴンは列車に乗るのが初めて。最初は音や振動に驚いていたがそれも徐々に慣れていく。ふと小窓から外を覗いてみると、次から次へと移りゆく景色に目が奪われた。
見渡す限りの荒野と、隕石が落ちてできたクレーター。
「(たしか僕が生まれる前に沢山隕石が降ってきたってジルが言ってたよね)」
隕石は多くの生き物の命を奪い大地を傷つけた。その跡地には生命の息吹をまるで感じない。であるのだが、レイヴンがそれを気にすることはない。ただ大きい穴だな~と思うだけだ。まだ6歳になったばかりの少年である。
レイヴンが窓の外に熱中していると、部屋の扉を叩く音がした。
「(誰だろう……切符の確認かな?)」
レイヴンは「どうぞ」と招き入れた。
「あれっ?さっきの郵便屋さん……ですよね?」
「フッ、そのとーり。ある時は郵便局員、またある時はお悩み相談員。しかしてその正体は……現場を渡り歩く、さすらいのナイトレイダー、便利屋フランク・マクドネルとは私のことさ!」
「(自分で便利屋って言ってるよ。それにさすらい?……ちょっと意味が違う気がするけど、なんだか凄そうな感じだ)」
フランクが中々ポーズを解かないので、レイヴンは勢いに押されるように拍手してしまった。
「ありがとう、ありがとう」
フランクは笑顔でレイヴンの隣に座って話しだす。
「お礼に何でも聞いてくれたまえ。君もこれからレイダーになることだしな。いや、まずは君が一番気にしていることを教えておこうか」
「お願いします」
なんとなく話の腰を折らない方がいい気がして、レイヴンは流れに身を任せることにした。
「君の町……ヴァイスマインを襲った魔導士たちは、私が今朝がた殲滅に成功した。我らが領土深くに入り込んだのは彼ら3人だけだったようだ。これで故郷が襲われることはないだろう。安心してくれ」
「えっ?」
そう聞いても、にわかには信じられなかった。ジルたちがボロボロになって、それでも追い払うのが精一杯だったのだ。あまりにも簡単に殲滅したと言われても、レイヴンは困惑するだけだった。フランクはそれを見透かしたように優しく語り掛けた。
「君が信じられないのも無理はない。だけどそれがレイダーなんだ。圧倒的な力で……今まで我々を苦しめてきた魔導士さえ倒せる。恐ろしい力なんだよ。君はそれを手にしてどうする?……なんてな」
フランクは余計な事を言ったかなといった感じで舌を出すと、慌てて訂正した。
「うそうそ、そんな難しいこと考えなくていいから。守りたい人のために戦うだけだからさ、実際」
「はい、それなら分かります」
「だろっ?これからいい事教えちゃうぞ」
そうしてレイヴンは、フランクが途中下車するまでの間に沢山の話を聞いた。
レイヴンは話をあまり理解できなかったが、フランクが凄いレイダーだってことは分かった。
フランク・マクドネルは改造手術が始まった最初期、12歳の頃にレイダーとなり、これまでの5年間で各地を転戦して生き残ってきたトップクラスのレイダーだった。
多くの魔導士と戦い、時に仲間を失いながらも魔法王国ゴアの支配から抜け出すために大陸中を駆け回った。GAの建国時にはまだ13歳と若かったために政府の役職を得る事はなかったが、その実力は確かで軍総司令からの信頼も厚い。そのため随分と無茶ぶりをされて東奔西走することになった。
本人はそのおかげで各地に友人関係を持つことができたと肯定的にとらえているが、傍から見たらそのせいで調整役を押し付けられて、若いながらも苦労してるなといった印象だ。
「君はこれからグローリアで同年代たちと競い合って生活していくことになる。大変だろうけどしっかりしろよ?自分が生き残るためにもな」
「はいっ」
レイヴンは握手してフランクを見送ると、部屋に戻って再び窓の外を眺めていた。
「僕と話すために来てくれたのかな……って、うそっ?!」
レイヴンが驚いたのは、突然視界に列車と並走するフランクの姿が入ってきたからだ。
フランクは列車を飛び降りて加速、すぐに追いついてレイヴンの横側まであっという間にたどり着いた。苦しそうな表情など一切なく、むしろ余裕さえ感じさせる。
レイヴンが自分に気づいたのを確認すると、ドッキリ成功とでも言いたげに無邪気に笑ってさらに加速。砂埃を巻き上げながら走ると、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「……変だけど凄い人だ」
それから5日後、レイヴンを乗せた列車はグローリアに到着した。