44話 秘密の会合中に
フランクたちは町の外に逃げ出した4人組を追跡していた。
進路は北西。
その先には魔法王国の町、アソルタがある。
アソルタの警備兵は遠方から近づいてくる土煙を発見。
望遠鏡から目を離して、すぐさま町の警備隊長に報告すべく走りだした。
勢いよく司令部の扉を開いた。
「報告します!レイダーと思わしき人物が接近中です!」
「なんだと!」
警備隊長は報告に来た見張りの肩を揺らして問い詰める。
「それではレイダーどもが攻めてくるというのか!それで規模は?!歩兵は?!」
警備隊長に首を振られて見張りはしどろもどろ。
助け船を出したのは嘗てゴアの5大貴族のスカイ家を追い出されたフレッドだ。
彼は警備隊長の腕を抑えると、落ち着いた口調で、続きを話すように促した。
「状況は?」
「……はっ!4名の敵レイダーが接近中です。その後方からさらに4名がおります」
「歩兵はいないのか?」
「おりません!」
それだけ聞くとふむと考え込み、焦った様子の警備隊長に目を向けた。
「歩兵がいないとなると、大規模作戦ではないのかもしれません。それに戦闘でレイダーが我々の前に姿を現す必要はないはず……。となると陽動かあるいは別の意図があるのかもしれませんね」
そう言われてもレイダーは近づいてきている。悠長にしている時間は無い。
「俺が出ます。君たちは町の警備を」
フレッドはそれだけ言って部屋を出た。
残された者は不安に駆られていた。
「1人でいかせて宜しいのですか、隊長?」
「我らも共に戦うべきなのでは?」
「お前らの心配は分かる。だが彼にとっては1人の方がやりやすかろう。それよりボサッとするな!訓練通りの配置につけ」
「はっ!」
一度は実家を追い出されたフレッドであったが、3年前に呼び戻されていた。
といっても親子間の亀裂は修復されてはいない。
2人の考え方には開きがある。
スカイ家では次男ロイドが病死。
跡継ぎを失ったことにより、5大貴族間の均衡が崩れるのを危惧した当主エルジュが、3男が育つまでの間だけ手元に置くと決めただけだった。
フレッドを前線送りにして、スカイ家の発言力を取り戻す。
貴族の中でも武闘派として知られるフレッドは、各地の戦線で味方の危機を救い、父の思惑通りに自身と実家の評価を上げていった。
だがフレッドも父親の言いなりになっていた訳ではない。
家の名前を使って、密かに停戦のための仲間集めを各地で進めていた。
彼がアソルタに滞在していたのも、仲間たちとの会合を持っていたからだった。
「こんな時にレイダーの襲撃とはな……。今、仲間との密談を知られるわけにはいかん」
レイダーとの戦闘があれば、それは必ず上層部に報告される。そんな時にフレッドがこそこそと仲間と不審な動きをしていたなどと報告されては、これからの活動に支障が生じてしまう。そのためには町に入られるわけにはいかない。
屋外に出たフレッドは空高くに舞い上がる。
誘拐犯の4人とその後を追うフランクたちが、ものすごい土煙をあげながら近づいてきていた。
「報告通りだな。だが手前の4人組は俺に気にせず、後ろばかり見ている……仲間割れか?」
アビルガードから逃亡した誘拐犯の4人は、魔導士に雇われていた訳ではない。
彼らは追手を魔導士に擦り付けようと考えてアソルタに向かっていたのだ。
その間に引き離して逃げてやる、そう考えていた。
空に浮かぶフレッドを確認した彼らはさらに接近。
フレッドが攻撃するとは全く考えていない。
何故なら、魔導士は複数の魔法を同時に使えないとされていたからだ。
既に風魔法で空を飛んでいる以上、手ぶらのフレッドには攻撃手段がないと判断してもおかしくない。
「彼らの思惑がどうであれ、これ以上近づけるわけにはいかない」
フレッドは魔水晶にイメージを送り込んで土魔法を発動。
誘拐犯の進路上に土壁を出現させた。
風と土魔法の同時起動。
不可能とされていた方法だが、別に特別な手段を用いたわけではない。
ただフレッドが3つの魔水晶を所持していただけなのだ。
そしてそれを時間差で起動してイメージを送り込む。
本来、魔法に誇りを持つ魔法王国の民は他人に魔水晶を貸し出すことなどない。
自らのアイデンディティを失うようなものだからだ。
他家の魔水晶を奪えば、例え貴族であろうとも処罰は免れないし、国民も許さないだろう。
フレッドは戦死した親戚一族の魔水晶を譲り受けていた。
通常であればレイダーによって破壊されるか、持ち去られる魔水晶を瀕死の状態で持ち帰った物だった。
…………
「うおっ、なんだ!」
突如として現れた土壁に襲撃犯は激突。
土壁と金属化されたレイダーの肉体。
速度と硬度を考えれば衝撃によるダメージは小さい。
だが後ろに意識を向けていた襲撃犯たちは反応が遅れてしまう。
まさか来るとは思っていなかった攻撃。
さらに、後方に出現した土壁に挟まれてわずかしか身動きがとれない。
伸びきった足を踏むように、すかさず膝を狙っての質量攻撃。
あらぬ方向に足が曲がった襲撃犯たちの悲鳴が重なる。
いくら体が硬くても、力が強くても機動力のないレイダーは魔導士に勝てない。
この時点で襲撃犯たちの未来は決まった。
残るは彼らを追ってきたフランクたち4人。
彼らとしては最低限、レイダーの死体を回収したかった。
GAの優位性はナイトレイダーの存在に尽きる。
レイダーコアを奪われれば、手術の装置はなくとも獣のように食して力を得る可能性もある。
「散開して、撤退!」
だが直後に警備の魔導士たちが町から浮上してきたことで、フランクは撤退を決意した。
「逃げてくれるか……」
フレッドは後ろから来ていた4人のレイダーの方が良い動きをしていることに気づいていた。その彼らが戦うことなく撤退したことに安堵していた。そして上昇してくる仲間を見て、自身は体を休めて、警戒は任せることにした。




