4話 旅立ち②
「……で、お前はナイトレイダー候補生として選ばれたってこと。これから兵士として訓練を受けていくの」
「でも僕、検査なんて受けてないよ?」
「レイダーになれる数ってのは限られてんだよ。そうでもなきゃ今頃この街にもレイダーが沢山いなきゃおかしいだろ?だから若い奴の中からレイダーとしての才能がありそうなやつをスカウトしてるんだ。でも今はこんな時代だから英雄志望の奴らも出てくるわな。で、いちいちそんな奴相手してらんねえから、勝手に運動能力を計ってるって噂だな」
「ふうん」
「それと列車のチケットが同封してあるぞ。出発は今日の午後だ。もう時間がねえな、おい。……準備は俺がしといてやるから、世話になった連中に挨拶してこい。終わったら駅に集合な」
レイヴンはすぐに駆け出していった。部屋に残されたジルは少し寂しそうに呟いた。
「こんな辺境だし、まさかスカウトが来るなんて思わなかったんだがなぁ……」
…………
ジルに言われた通りに、レイヴンは別れの挨拶に向かった。
勉強を教えてくれた爺さん。
弁当屋の婆さん。
そして鉱山で働く中年オヤジたち。
「(なんか僕って子供の友達っていなくない?)」
それもそのはず。レイヴンはこれまで大人に混じって生活してきた。たまに街で同年代とすれ違うことがあっても、お互い警戒して話すこともない。本能的に話が合わないと理解していたのかもしれない。
幼い頃から鉱山に入り浸り、仕事も鉱山。これでは出会いの機会があるはずない。レイヴンの頭の中に、ふと鉱山の映像が浮かんできた。
「(ひょっとして、もうこの場所に戻ってこれないのかな……)」
そう思ったら、もう涙が溢れて止まらない。ジルの前では澄ましていたけど本当は不安でいっぱいだった。それでも心配をかけたくはない。なんとか涙をこらえて駅に向かう。そんなレイヴンを見てジルが一言。
「あー、こいつ、目の下が真っ赤っか。泣き虫レイヴンだ」
見送りに来ていた鉱山仲間たちは思わず頭を抱えた。
「せっかく我慢してんだから、言ってやるなよ……」
「うっせ。俺は湿っぽいのは嫌なんだよ」
「しっかし、レイヴンがナイトレイダーか……想像もつかねえな」
「そうだな、でもここの常駐レイダーみたいになるなよ」
そういって皆で笑い合った。昨日の戦いでは二日酔いで戦力にならなかったからだ。もっとも、戦闘終了後には瓦礫の撤去などで大活躍したが。
「昨日の魔導士どもは低空飛行だったから、レイダーが奇襲すれば、一人ぐらいならなんとかなったかもしれないのにな」
「ああ、そうかもだな。ジルもそう思うだろ?」
ジルは少し考え込んでから話し始めた。
「いや、昨日は二日酔いで助かったのかもしれないぜ?仮に一人を倒せていても、奴らはきっと俺たちを恨んで空爆が続いてただろうしな」
「なるほどな、そういう見方もできるか……」
「意外と先を見てるんだな。金は一向に溜まらないけど」
はっはっはっ、と皆が笑い合う。そうこうしている内に列車の出発時刻が迫ってきていた。促される様にジルがレイヴンの前までやってきた。
「死なない程度にしっかりな」
「それだけかー?」
周囲から、もっと真面目にやれと野次が飛ぶ。傍から見たら、ジルが上に立つ人物だとは思えないだろう。
「ちっ、仕方ねえなあ。なあ、レイヴン」
「うん……」
「これからお前はきっとレイダーとして大変な目に遭うし、沢山苦労もすると思う。俺たちが想像もできないほどの困難もあるかもしれねえ」
「うん……」
「でもな、大抵の事は金で解決できるんだよ」
「うん?」
「問題が沢山でるが金で解決できることは、金に任せとけばいいんだ。余った時間をより重要な事にまわせばいい。だから金は大事にな」
「うん、わかったよ。でも一文無しのジルが言っても説得力が……」
涙目のレイヴンがそこまで言うと一斉に笑いが起きた。
「まあ、あれだ。反面教師ってやつだな。っと、そうだ、忘れてた。ほらよっ、誕生日おめでとう。じゃあな」
借金して買った靴が入った袋を乱暴に投げつけると、ジルは後ろを向いて歩き始めた。
「ジル……ありがとう。大事にするよ!」
「バカ、お前、そんな安物さっさと履きつぶしちまえ」
レイヴンは皆に別れを告げて列車に乗り込んだ。