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37話 後悔

 

 静かな夜に響くのは虫の音だけ。

 息を(ひそ)めたレイヴンとカーラは二手に分かれて突撃準備を整えていた。


 魔導士たちが気づいた様子はない。

 まずレイヴンが突撃し、それに合わせてカーラが動く予定だ。


 レイヴンはスピードだけならトップクラスのレイダーにも引けを取らない。

 カーラから見ても、先手を任せるに値する能力をレイヴンは持っていた。

 いつまでも自分が付いて行けるわけではない。

 カーラは今後の事を考えてレイヴンを先行させた。


 レイヴンは大きく息を吸い込むと猛然と突き進んだ。

 それにも関わらず、集中しなければ聞き分けられない程の足音しか出ていない。

 小屋に近づくとレイヴンは大きく跳躍。

 天井を壊せば逃げられてしまうので側面の壁を壊して中に入っていく。


 そしてすぐさま攻撃に転じようとした。


「なっ?!」


 瞬間、そこにいるはずのない少女と目が合った。

 少女が魔導士の前にいて攻撃するのが難しい。

 レイヴンは一瞬躊躇して、横にいた魔導士に目標をチェンジしてこれを叩く。


 その隙に3人目の魔導士が土魔法を使用。

 地面を勢いよく隆起させてレイヴンとの間に壁を作り、そのまま天井に穴をあけた。

 同時に反対側からカーラが突入してその魔導士を始末。


「もう一人は?!」


 レイヴンが顔を上げると穴の開いた箇所から既に魔導士が空へ逃げていた。

 魔導士の腕の中には少女がいる。

 レイヴンは小屋を出ると逃げて行く魔導士の後を追った。


「くそっ!」


 レイヴンは魔導士に追いついた。

 だがいるのは遥か上空。

 これではジャンプしても届かない。


 しばらく追うと魔導士は少女を放り投げ、スピードを上げて逃げてしまった。

 レイヴンの頭の中には既に魔導士なんていなかった。

 考えているのは落ちてくる少女を優しくキャッチする事だけ。


「とっ!」


 タイミングを合わせて跳躍すると、見事に少女を抱きかかえた。

 レイヴンは安堵した表情になる

 それが着地した時には絶望に変わっていた。


「なんで殺したんだ……」


 少女の首にはスパッと切られた痕がある。

 生気のない顔が見つめてくるように感じて思わず目を逸らした。

 レイヴンの腕に少女の血液が流れ落ちる。

 その暖かさを感じて涙が溢れてきた。


 逃げるだけならそのまま放り投げるだけでいい。

 殺してしまったのは魔導士の狂気だった。

 レイダー二人による突然の襲撃。

 それによって魔導士の思考は恐怖に支配された。


「さっきまで生きていたのに……俺が躊躇したせいで……」


 レイヴンの心の中は後悔でいっぱいだった。

 もっと注意深く見張っていたら少女がいることが分かったんじゃないか。

 あの時、すぐに回り込めば助かったんじゃないか。

 少女を見て動揺しなければ……


「レイヴン……」


 それは遅れてやってきたカーラも同じだった。

 ハルローブでしっかり情報収集していれば事前に誘拐がわかったかもしれない。

 自分の力を過信してレイヴンに遅れるとは考えもしなかった。

 襲撃のタイミングを合わせていれば助けられたかもしれない。


 カーラはレイヴンにかける言葉が見つからなかった。

 ただレイヴンのことを背中からそっと抱きしめた。


「強くならなきゃ……」


 名も知らぬ少女と目が合った時、助けてと言っているように感じた。

 でも自分にはそれができなかった。

 強くならなきゃいけない。

 何事にも動じない心が欲しい。


 レイヴンは少女を抱えてハルローブに戻ると、ナイトレイダー待機所で亡骸を引き渡してグローリアへ戻っていった。


 数日後、総司令室では珍しく落ち込んでいたカーラから聞きとったことをフランクが報告していた。


「そうか、彼も大変だったみたいだな……分かった。仕事を増やしておこう」


 その言葉にフランクは反対の意を示した。


「レイヴンに必要なのは休養です。一度故郷に返すなりするべきです」

「君の意見も分かる。だが時には考える暇もないほど体を動かすことも必要だ。それに報告によれば彼は母親とも上手くやっているとある。彼女に任せても問題ないはずだ」


「ですが!!……いえ、失礼します」


 フランクが出て行くのを確認するとグレイクは大きく息を吐いた。


「やれやれ。嫌われてしまったかな?」

「いえ、彼も分かっているでしょう。ですが本質的な問題として彼は優しすぎるのです」


 秘書の言葉にそうだろうとも、とグレイクは頷いた。


「しかし今後の事を考えれば彼の信用を失うのは得策ではありません。もっと丁寧な対応をお願いします」

「……昔と同じという訳にはいかんか。耳が痛い話だな」


 グレイクとフランクは反乱軍の頃からの戦友であった。それが総司令と現場の責任者と立場が別れ、少しづつすれ違いを見せていた。だがそれでもグレイクはGAの未来を信じて突き進む道を選ぶのであった。

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