29話 もう一人のライバル
「今回のバトルは若いレイダー同士の対決だ。訓練学校出のエリートと現場の叩き上げ、さあどっちだ!はった、はった!」
今回のバトルは1対1の戦いを2度行う。
初戦がトトとゲイツで2戦目がレイヴンとラング。
オッズではそれぞれトト、ラングの勝利が優勢だった。
トトの余裕のある態度に期待を寄せる客が多い。
反対にレイヴンは主席と言う立場でありながらも、2歳年下ということでかなり低い。
仕事を終えて巡廻警備の引き継ぎをしてきたレイヴンは、オッズを気にする気配は一切ない。むしろ会場の異様な熱気に当てられて興奮しているぐらいだ。
レイダーバトルの会場となった広場では、戦いの前から盛り上がりを見せていた。飲食店は急遽屋台で店を出し、酒の売り歩きをする者もいる。
会場の遠くから卒業生の2人を見守る人物がいた。
訓練学校の教師イオスとルウである。
2人はレイダーバトルの噂を聞き、帰宅を取りやめて急遽会場にやってきた。
「あいつら……、しょっぱなから目立ちやがって」
だがレイダー訓練学校の存在価値を高める最高の舞台であることは、イオスも理解している。自身の評価が上がるだけでなく、色々と融通が利くようになるはずだ。
「でも皆、驚くんじゃないですか?同年代のレイダーじゃ、はっきりいって相手になりませんよ」
ルウは断定する。生徒たちと直接戦うことの多い彼女だからこその意見だ。
これまでのナイトレイダーは生き残るために対魔導士を重点的に強化せざるを得なかった。ところが訓練学校では対レイダーを想定しての格闘訓練が多い。その中でもレイヴンとトトは別格。となれば勝利を疑うことはない。ルウの手にはしっかりと2人の勝利を予想した券が握られていた。
「おい、ルウ、今隠したのは……」
「いや、これはその……応援ですよ、応援!ちょっとオッズが低くて可哀想だからです!!」
イオスは呆れた様子を見せると広場の中心に視線を戻した。
会場のボルテージは最高潮。
選手入場を終えて1戦目の開始のゴングが鳴らされた。
トトとゲイツ、2人の鍛えられた肉体が鋼鉄の鎧に覆われていく。
トトが先制攻撃をかけようと飛び出した。
ゲイツはこれを後退して回避。
そして攻撃を繰り出さずに回避を続けた。
「何故逃げる。どういうつもりだ」
「いや、お前に伝え忘れたことがあってな。……カーラ先輩がお前に会いたがってたぜ」
その言葉にトトは一瞬硬直した。
それを見逃さずにゲイツは突きを当てる。
「ははっ、相変わらず馬鹿な奴。先輩に変わって俺が可愛がってやるよ!」
ゲイツはここぞとばかりにラッシュをかける。
だがトトは上体を起こすとそれを紙一重で躱し続ける。
「ゲイツ、みっともない奴。実力がないからそうやって搦め手に頼る」
「何だと?!」
カーラとの出会いはトトにとってトラウマだった。
だがそれは既に過去の事。
ゲイツに一撃を貰ったのは、自分との差を見せる為だ。
「あれ以上の屈辱を何度も味わってんだよ!!」
レイヴンのいる控室をちらりと見る。
トトにとってレイヴンは自分を高めるための存在だった。
二人の間に友情は存在したが、自分の為だったはずだ。
それがエッジが退学したことでより身近になっていく。
自分を追ってくる可愛い存在。
それがいつしか自分が追う立場になった。
改造手術の後遺症に悩まされた事がレイヴンに抜かれた直接の原因だ。
だがそれが無くても、抜かれていたであろうことは想像に容易い。
それほどの努力と経験をレイヴンは積んできたことはトトも理解している。
それでも負けたくなかった。
友情と嫉妬、2つの感情が渦巻く。
トトもまたレイヴンの友人であり、ライバルとして成長していた。
「だからお前ごときに負けられねえんだよ!!」
その一撃はゲイツをガードごと打ち破った。
トトは右拳を高々と上げて勝利を宣言。
同時に歓声が沸く。
レイヴンは用意された内幕の中で体を動かしていた。トトの勝利を確信しており、ひと目も見る事なく自分の試合に向けて気持ちを高めていた。そして会場中に響く歓声を聞いて試合終了を悟る。
「そろそろ出番かな」
レイヴンは入場のアナウンスを待った。




