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27話 友との別れ

 

「先生、今までありがとうございました」


 エッジはそういって頭を下げて職員室から出て行った。この状況を予想していたのだろうか、感傷的になっているイオスと比べてさばさばとした表情で歩んでいく。学校を出ると見覚えのある4つ影が寄ってきた。


「エッジ!」

「レイヴン……そうか、もう退院か。良かったな……」


 とても良かったと言う表情ではない。

 そんなことは今のエッジを見れば誰でも分かるだろう。

 これまでの快活なエッジとはまるで違う落ち着き払った態度だった。

 ヒメタンが心配そうに声をかける。


「エッジこそ大丈夫なの?」

「ああ……うん。大丈夫……俺は大丈夫さ」


 自分に言い聞かせるように大丈夫と繰り返す。誰が見ても大丈夫ではなかった。

 共に過ごしてきた学友だからこそ見せたくなかった本心。

 先生の前では堪えていた感情が溢れだす。


「俺……もうここにはいられない。さよならだ」


 その表情が真実を語っているように説得力を持つ。

 冗談を言っているようには思えない。


「どういう事だよ、エッジ。意味が分からないよ」


「自分の体がどうにもならないんだ。激しい運動をすると息苦しくなって。先生はなんとかしようとしてくれてたんだけど、それでも駄目で。それで退学だって言われて……自分でもそうなるのかなって覚悟してたけど悔しくて……」


「エッジ……」


 エッジは鼻を啜ってレイヴンに向き直った。


「みんな、ごめん……レイヴン、ちょっといいかな?」


 二人だけで少し歩く。

 新1年生たちが元気よく走り回る校庭を遠目に見ていた。


 レイヴンにとってエッジは生まれて初めての同年代の友達だった。

 一人きりで都会に放り込まれ、不安だらけな中で話しかけてくれた。

 閉じ込められた部屋が隣だった偶然、東部出身なのも同じ寮生なのも偶然。

 そんな二人が親友になるのは必然だった。


 エッジにとってもレイヴンの存在は大きかった。

 初めてレイヴンの訛った声を聞いた時、歓喜した。

 自分と同じところからやってきたという安心感。

 近くにレイヴンがいたから勇気が持てた。


 だがその時は長くは続かなかった。


「レイヴン……俺達友達でライバルだったよな?」

「うん。友達でライバルだった」


 毎日一緒にご飯を食べた。

 朝から晩までずっと一緒にいた。

 1年中二人で競い合った。


「だからレイヴン……俺の分まで強く……」

「…………」


 エッジは突然立ち上がって顔を左右に振った。

 涙を拭って自分の言葉を否定する。


「やっぱ、今の無し!俺は絶対あきらめない!絶対病気に勝って強くなる!」

「うん!」


 それでこそエッジだ。レイヴンにはエッジの目に光が灯ったように見えた。


「なあレイヴン、さっき先生に聞いたんだ。歴史上一番魔導士を倒したレイダーって誰だと思う?」

「グレイク総司令?それともザイドロフ副司令?」


 そう思うよな?とエッジは予想通りの反応に満足して顔がほころぶ。


「なんとかハフマン・ゴーストって人。その人、ハーフレイダーなんだって」


 レイヴンはその名を聞いた事もなかった。


「俺だってそんな名前聞いたことない。先生は俺を励ますために嘘を教えたのかもしれない。でも俺は今、信じるって決めた!俺もその人みたいに強くなる!だからレイヴン!お前はトトよりも、誰よりも強くなって待っててくれ!!」


「うんっ!!」


 レイヴンは立ち上がると手を顔の高さまで上げて、エッジと強く強く握手した。


 レイヴンはこれまで目標もなく漫然と過ごしてきた。

 エッジのように大切な人を殺されたこともなく、積極的に戦う理由もなかった。

 確かにエッジやトトに影響されて毎日の訓練を欠かさなかった。

 それはただ一緒にいるのが楽しかったという理由に過ぎなかった。

 握手はレイヴンにとっての誓いだった。

 エッジとの、そして自分に対しての。


 …………


 翌日、朝の教室ではエッジの退学の事で話は持ちきりだった。

 既にエッジの机と椅子は片付けられている。

 昨日事情を聞かされた4人は病気の事を話さない。

 となれば噂は好き勝手に広まっていく。


 一人寂しそうに机に座るレイヴンを揶揄(からか)おうとベルナールとロンドンが近寄ってきた。

 もうエッジのようにレイヴンを守ってくれる存在はいない……はずだった。


「お前ら、よせ」


 そう言ったのは二人の友人であるアッシュだった。

 意外な人物の登場に驚くレイヴンを、アッシュは心配そうに見つめていた。


「レイヴン大丈夫か、お前?」


 その言葉は自分の体調の事を聞いているわけではない。

 エッジがいなくて大丈夫かと聞いているのだ。

 レイヴンはなんとなくそう思った。


「うん、()()大丈夫だから」

「……そうか」


 続けて宣言した。皆に聞こえるような大きな声で。


「俺はアッシュにもトトにも負けないよ。誰にも負けないくらい強くなる!」


 振りあげられた拳は、レイヴンの意志の強さを表すように固く握られていた。

1章終了です。


次回から2章「ナイトレイダーの任務」となります。

主人公は12歳になり、環境が変わってメインキャラも増えます。

どうぞよろしくお願いします。

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