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13話 秘められた能力

 

 レイヴンはエッジと並んで順番待ちしていた。


 最初に走った2人は静かに走ることを優先したため全速力で走れと言われ、その後皆は必死に走ったが今度はそれだけでは駄目だと指導されていた。


「おい、アッシュ。もう座学で習ってるよな。魔導士が攻めてきた時にレイダーと住民はそれぞれどのように動くことになってる?」


 アッシュは授業が始まって以来、座学でも運動でもクラスメートをリードしている存在だ。少しだけ自尊心が高く他者を見下しがちだが、それは自ら努力を繰り返してきた自信によるものだ。


「はい、住民が地上の道を使います。レイダーは建物の上を走って移動します」

「(へー、そーなんだ)」


 全速力のレイダーと一般人がぶつかれば大参事は免れない。それを避けるための規定である。レイヴンがいない間に座学は既に始まっており、これからしばらくの居残り補習が決定していた。


「そうだよな……そのために建物の屋上は移動しやすい形になってるなよな。でもよぉ、いくら頑丈に造られてるからってそんなにバタバタ走ってたら天井が抜けるぞ。それでいいのか?」

「よくありません!」

「だったらもっと静かに走れ!」

「はいっ!!」


 次々と生徒たちが走っていく。イオスに指摘された課題をこなそうと皆必死だ。


「(みんな、結構できてるじゃん)」


 実際にはそうでもないのだが、レイヴンにとっては遥か上に見えてしまう。不安そうなレイヴンを見て、エッジがこそっと話しかけた。


「大丈夫だよ。先生もレイヴンが遅れてきたこと知ってるから、失敗しても大目に見てもらえるって」

「うん、そうだね。ありがと」


 レイヴンは肯定したが、そうなるとは思えなかった。鉱山で働いていた時のことを思い出す。


 鉱山でミスをした時に周りの大人たちはアドバイスはくれたが、直接助けてくれることはなかった。それはレイヴンを一人前に育てようとしていたからに他ならない。


 5歳児に対する態度として適切とは言えないかもしれない。だがレイヴンは自分を大人として、対等の仲間として見てくれているように感じて嬉しく思っていた。


 その考え方に当てはめれば、イオスは一人前のレイダーを育てようとしているのだから、採点を甘くするなど絶対にない。レイヴンはそう確信していた。


「次、エッジとレイヴン」

「はい!」


 スタートの合図とともにエッジが前に出た。

 レイヴンは付いて行けない。

 だがこれは仕方のない事だ。


 レイヴンは目覚めてから2日間、力を抑える訓練はしていても全力を出すことなど一切なかったのだから。


 レイヴンは難しく考えることを止めた。

 全力で走る事、静かに走ること。

 どっちもできないのなら片方に専念して頑張ろう。

 それだけを考えてエッジの背中を追いかけた。


「(静かに走るのは諦める。せっかくエッジが前にいるんだから、離されないように付いて行くんだ!)」


 手術前の能力テストでは、エッジとレイヴンはほぼ同タイムだった。

 それが今は大きく引き離されている。

 ならばそれはレイダーとして上昇した能力の差なのか?


 断じて否である。


 レイヴンのレイダーとしての資質は同期の誰よりも大きい。

 その身に宿った可能性のつぼみが開花の時を迎えていないだけだ。

 それにも関わらず、力の一端を見せつつあった。


 ゴールまであと10mを残すだけになると、2人の差はさらに広がっていた。

 ここからレイヴンが追い上げを見せる。


「(なんだろう、この感じ。体が凄く軽い……)」


 レイヴンは感覚に身を任せて走る。足取りもどことなく軽やかになる。


「(もしかして追いつけるかも!)」


 だが流石に距離が短すぎた。エッジがゴールし、遅れてレイヴンもゴールラインを越えた。


 コンマ数秒だけの超加速。レイヴンはその時間、同期の誰よりも早く走った。だが生徒たちは、止まり方が分からずに片づけ途中の瓦礫に突っ込んだレイヴンを見て笑っているだけだった。


「いててて……僕、かっこ悪いなぁ」


 レイヴンの速さに気づいたのはゴールの瞬間振り返ったエッジと教師だけ。


「イオス先生……あの子今……」

「…………」


 イオスは満足げに通告した。


「レイヴン・ソルバーノ、補習!」


 その言葉に生徒たちからドッと笑いが起きる。

 レイヴンは恥ずかしくなって下を向きながら返事した。


「はい、わかりました……って、靴がベロベロになってる?!ジル、ごめーん!!」

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