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124話 求めた時間

 

 レイヴンは南大陸を西に進み、トトに指定された場所へ向かっていた。


 25年前に宇宙船同士の戦闘により隕石が落ちてきたエリア。

 クレーターだらけで都市もなく、辺りから生命の息吹を感じない。

 レイヴンは地上から自分を見つめてくる男の元に向かって降下した。


「お兄ちゃん!」


 サラとリブナが駆け寄った。

 トトはそれを平然と見送る。

 2人の存在はレイヴンが来た時点で既に用済みだ。


「サラ……よく頑張ったな。本当に……」


 サラの目には涙が浮かんでいる。


 生きていてくれて嬉しい。

 聞きたいことも沢山ある。

 体の変化のこと、羽のこと。

 けれど、そんな時間がないのは分かってる。

 サラは精一杯の想いをこめて一言だけ伝えた。


「信じてるよ……」


 レイヴンはすぐにでも戦闘が始まりそうな気配を感じていた。

 サラにも緊張感が伝わっていく。


「リブナを連れて離れていろ」

「うん、わかった。リブナ、いくよ」

「はい」


 そして2人は離れて行く。

 当然のことながら機体には近づけない。

 レイヴンはトトを見た。


「(ミトリの言う通りかもしれないな……)」


 トトの様子はリードロイアで会った時とは明らかに違う。

 実際に意識の支配は進んでおり、それでもなんとか堪えていた。

 レイヴンと戦うためだけに。


「感謝してくれていいんだぜ?」

「……ああ、助かったよ、トト」


 3人を救ってくれた事に対して感謝の気持ちはある。

 トトがリードロイアにいなければサラたちが死んでいたのは事実だろう。

 何故そうしたのか。

 レイヴンには分からないが、今更トトの本意を確認する必要はない。

 あとは拳で語るのみだ。


 体はまだ本調子ではないし、新しい肉体を100%使いこなせていない。

 

 それでも戦い以外の道がないのは分かっている。

 レイヴンは羽を背中から戻して全身を金属化(メタライズ)

 漆黒の鎧を身にまとう。

 

 トトもレイヴンと同時に金属化を開始。

 余りあるメタリアルを使用して肉体を硬化した。


「羽は使わないのか?」

「ああ、まだ使い慣れて無くてな」

「そうか、残念だ……」


 次の瞬間、トトの体は消え去り、レイヴンの目の前に現れた。


「(早い……けど!)」


 これまでにない速度で迫るトトに対してレイヴンはしっかりと反応できた。

 後輩に苦戦し、リリや獣人の助けを借りて鍛え直した成果が出ていた。


 一方で、トトもレイヴンの動きに驚いていた。

 そして同時に口元がニヤけた。

 レイヴンが自身の想像以上に強くなったことを心から喜んでいた。


「そうだ、レイヴン! 俺が求めてたのはこれなんだ!」


 拳同士がすれ違い、互いの蹴りが空を切る。

 隙を作っても攻撃は紙一重で防御される。

 2人の攻撃はより洗練されていった。


 4度目の手術を行ったトト。

 新しい肉体を手に入れたレイヴン。

 戦闘を通して2人は体を馴染ませていく。


 どんどん鋭さが増していく攻撃の中、レイヴンは思わず笑みをこぼした。

 幼い頃、毎日のように競い合った事を思い出していた。


 確かにトトに対しては複雑な感情を持っている。

 同級生を殺害し、サラを狙ったこともある。

 彼のせいでGAを追われたともいえる。


 それでも共に過ごした日々は本物だった。

 切磋琢磨し、負けたくないという気持ちがレイヴンを強くした。

 任務で魔導士と戦うよりも前。

 ただただ強くなるための平凡な時間。

 レイヴンにとって、それはかけがえのない瞬間だったのかもしれない。


「楽しいか? そうだろうとも。俺だってそうだ!!」


 立場が変わり、国が変わり、そして2人の関係も変わった。

 競い合いから殺し合いになってしまった。


「(フェイントをいれて左、その後右の蹴りがくる……)」


 決着が次に持ち越されることはないだろう。

 2人を遮るものはなく、どちらかが死ぬまで戦いは止まらない。

 憎しみではなく、自分の強さを見せつける様に戦い続ける。


「(攻撃が激しくなってきた……)」


 均衡していた戦いは、トトの攻撃時間が徐々に長くなっていた。

 レイヴンは怒りに身を震わせながら攻撃を捌く。


 その怒りはトトの目が虚ろになってきていたからだった。

 メタリア人に意識を奪われかけているのが許せなかった。 


 これは2人にとって最後の戦いだ。

 誰にも邪魔はさせない。


「馬鹿野郎が!!」


 レイヴンはトトを目覚めさせようと渾身の力で頭部を攻撃した。

 頭部はトトがハーフレイダーだった頃から鍛え上げた部分だ。

 トトを吹き飛ばしたが、レイヴンの右腕の義体は衝撃で砕けてしまった。 


 レイヴンは片腕になったことなど気にせずにトトを叱咤する。


「みっともないな、トト!! 他人に意識を支配されるなんて……お前はその程度なのかよ!!」


 トトがゆっくりと立ち上がる。

 その瞳は以前の輝きを取り戻していく。


「うるせえぞ……俺を誰だと思ってやがる。俺は……俺はトト・インサニアだッ!!!!」


 トトは気合を入れ直すように拳に力をいれた。

 そして不意に笑みがこぼれた。

 レイヴンもそれに応えるように構えを取る。


 これまでとは打って変わって、辺りを静寂が包んだ。

 次で最後の攻防になる。

 レイヴンはそんな予感を抱いていた。


 2人同時に大地を蹴る。

 もはや、一滴の力も残すつもりはない。


「レイヴゥゥゥン!!!!」

「トトッ!!」


 レイヴンは残された左腕でトトの渾身を攻撃を受け止めた。

 肘から先の義体が破壊されてしまう。


 レイヴンはここで右上半身を前に出した。

 攻撃手段がないのに?


 トトの困惑を加速させるようにレイヴンは金属化を解いた。

 全てのメタリアルを右肩に集中。

 純度100%のメタリアルで右腕を再現する。

 そしてナイフのように鋭い手刀でトトの胸を貫いた。


「……やっぱ、つえ~な~」


 レイヴンはそのままトトのレイダーコアを引きだして切り裂いていく。

 コアが失われ、おびただしい量の血液が流れ出す。

 膝をついたトトの肉体はそのまま動かなくなった。


「さよなら、トト……」


 戦いを見守っていたサラが駆け寄ってくる。

 レイヴンはすこし悲しそうに微笑んだ。

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