122話 メッセンジャー
「……ここはどこ……なの?」
『アーレの光』が爆発を起こした時、ミトリたちと一緒に光に飲みこまれたはず。
そして誰かに助けられた気がする……
「お兄ちゃんっ?!」
サラ・ディルスティンは目が覚めると辺りを見回した。自分が生きているのなら、爆発の寸前にレイヴンによって救われたからだと思った。どんなに傷ついていたとしても、頼りになる兄としてレイヴンが心に刻み込まれていたからだ。
サラはすぐ側で倒れているミトリとリブナを見つけた。そして傍らに立つレイダーと目が合った。
「あなたは……」
「よう、目が覚めたか」
サラたちを助けたのはレイヴンではなく、トト・インサニアだった。
彼はグローリア西方部にあったもう1つの『アーレの光』を奪取。そして遥か東まで移動してきたのだ。
「あなたが助けてくれたの? それにその機械は……」
「ん? ああ、これか」
トトは見たこともない航空機に乗っていた。そしてサラの疑問に答えるように変形させた。その姿は自分たちが壊したはずの『アーレの光』そのものだった。
そもそも何故この兵器は独立した動力を持っていたのか。それは宇宙船から切り離して使用するために他ならない。せっかく命をかけて破壊したものが目の前に現れる。サラは気が動転していた。それはトトへの恐怖心を上回っていた。
「それじゃあ今度は俺の番だ。レイヴンはどこにいる?」
トトがサラを助けたのには理由があった。もちろん善意で助けた訳ではない。彼はもう一つの『アーレの光』を奪った後、リブナを殺害すべく東に向かった。自分の強さに対抗できる者はいないと考えていたトトであったが例外はある。その一番の脅威こそリブナだった。
ところがリードロイアでは、大規模な戦闘が発生していた。トトは空中で戦っていたリリとカーラよりも遥かに上空から観察を開始。戦闘が静まったタイミングで研究所に突入した。
そしてリブナを殺そうと近づいた。そこでトトはいつもレイヴンと共にいる少女を発見した。彼女が生きているならレイヴンも生きているかもしれない。その希望を持ってサラを助けた。ミトリとリブナが助かったのはサラと抱き合っていたからに過ぎない。
そしてリブナにはもう価値がない。なにしろ大陸を西から東まで移動する過程でメタリア人の遺産は全て破壊してきたからだ。グローリアの宇宙船は機能を停止しており、残すはリードロイアだけ。それも自爆した。何の心配もなく目的を果たせる。
「お兄ちゃんは……」
皆を守ってボロボロになった。だけどナナは任せてくれといった。不安はある。それでも自分自身が信じたかった。
「お兄ちゃんはあの光にやられて倒れたわ。でも絶対復活してるんだからっ!!」
トトの顔から笑みがこぼれた。
「そうか……それでどこにいる」
サラは正直答えていいのか迷った。目の前の男は場所を知ればすぐにでも向かうかもしれない。レイヴンのライバルだったレイダー。今のレイヴンに勝てるだろうか。
トトはサラが中々口を割ろうとしないことを評価しつつも、視線をミトリとリブナに向けた。
答えなければ殺す。
サラは直感でそれを理解した。
きっと彼は以前に自分を狙った時と同じように実行するのだろう。
サラにできるのはレイヴンを信じる事だけだった。
「アルタカトよ……」
「アルタカト?」
トトはアルタカトの噂話は知っていた。
誰も戻ってこれない不思議な地域。
トトは詳しい場所を知るべく機体に触れた。
「くそっ……これじゃあレイヴンと戦えない!!」
トトはアルタカトにある宇宙船のことを理解していた。
そしてグローリアの宇宙船からの情報を当てはめた。
アルタカトと宇宙船の場所は完全に一致している。
宇宙で何が起きていたのかも、概ね理解して2隻の関係も把握している。
トトが近づけば攻撃されるのは明白だった。
『アーレの光』は元々クルシュブムの機体であり、自分の体も彼らと近い。敵と判断されてしまっては戦う前に死んでしまう。何故レイヴンがそのエリアに入れるのかは分からない。トトはふと気づいた。
「いや、近づけないなら……来てもらえばいい。おい起きろ、女っ!」
トトはミトリを強引に起こした。
そして状況を説明する。
彼女をメッセンジャーにしようというのだ。
身体能力が低いといっても、サラも金属化はできる。
それではアルタカトに近づいても自動で攻撃されてしまうかもしれない。
ミトリにだってその危険はある。
それでもメタリア人の特徴を持つ自分よりはマシだろう。
レイヴンがいるのなら可能かもしれない。
サラには人質としての価値もあるので手放せない。
「お前もレイヴンとは顔見知りだったよな……」
トトはリブナの世話役であるミトリの情報も持っていた。
そして筒先を南東に向けた。その方角には彼女の故郷がある。
「お前をここから逃がしてやる。その代わり伝えて来い。トト・インサニアと決着をつけようぜってな」
「……分かったわ」
ミトリに断る選択肢はない。
断ればどうなるかは分かっている。
「近くまでは乗せてやる」
サラとリブナを拘束し、2人は東に向かった。




